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火蓋を切れ!-高校防衛戦線-  作者: 電脳太郎
3/21

合同戦演習

 朝の校門前、紫陽高校に異様な気配が漂っていた。


 金属の軋む音。木箱を積んだトラック。作業服姿の男たち。

 その中には見慣れない制服の集団――黒影工業高校の生徒たちがいた。


 「合同戦演習……マジだったんだな」


 副部長の星野凛太郎がぼやくと、隣で福田瑞希がメモを取りながら小声でつぶやいた。


 「出席者の顔と装備、だいたい一致。うちの顧問は『演習』って言ってたけど、あっちは『試合』のつもりですね。しかも、実戦仕様の火器ばっか」


 防衛部部長・カイは黙ったまま視線を交差させる。

 黒影の隊長・鏑木かぶらぎがこちらに歩いてきた。


 「久しぶりだな、カイ。前に撃ち合ったときは火薬が湿ってたんだっけ?」


 「それはそっちが校庭の池に弾込め落としたからだろ」


 「ハッ、言い訳も変わってねぇな」


 二人の間に静かな火花が散った。



 演習の舞台は、紫陽高校から少し離れた旧工場跡地。

 現在は市の“仮戦術訓練場”として指定されており、破壊の痕跡も合法的記録として処理される。


 演習内容は、「中立エリアに潜む敵部隊を排除せよ」。

 混成チームによる戦術行動だが――黒影側はあからさまに“自分たちが前進・紫陽が後方支援”の役割に押し込もうとしていた。


 「狙撃はうちでやる。お前ら、弾薬運搬頼むわ」

 「偵察は?」「いらねぇ。こっちは足音で敵の位置わかるから」


 星野は肩をすくめる。「こりゃ“合同”ってより、“支配”だな」

 だがカイは冷静だった。「いいさ、逆に“守る”側の動きが取れる」



 開始30分後。

 演習エリアの倉庫群にて、小規模な衝突が発生した。


 黒影の突撃班が敵役に急襲を仕掛け、逆に狙撃を受けて数人が「戦死」判定。

 現場には、紫陽の福田が設置した観測鏡と索敵旗があったが、黒影側はそれを無視して突っ込んでいた。


 「何やってんだ、索敵無視してる!」

 福田が通信で叫ぶが、黒影の隊長・鏑木から返答はなかった。


 むしろその後、黒影は紫陽の観測地点を「演習妨害」として爆竹で潰しにかかった。


 「もうこれ、演習じゃねぇぞ……」

 星野が呟くと、カイは小さく首を振った。


 「……いや。これが“あいつらの戦術”なんだ。支配と破壊、混乱の中で撃ち勝つ。教育ってより、訓練された本能だ」



 終盤、カイはあえて敵役のフリをして前線に出た。


 装備は、祖父の火縄銃――玉鋼の銃身に、焼き直された銃床。古くさいが、信頼できる一本。


 黒影の狙撃手が、ビルの上から射線を通している。


 「次撃ってきたら、もう“演習”じゃない。……そうだろ?」


 風向き。陽の角度。火薬の湿り具合。

 カイはすべてを感じ取り、静かに引き金を引いた。


 ドンッ。


 銃声。煙。静寂。


 数秒後、ビルの上から「戦死」判定の白旗が上がる。


 現場に駆けつけた演習監督官が「どちらの弾が先か」を問おうとしたが、黒影側は沈黙した。


 カイの放った一発が、あらゆる疑念を越えていたからだ。



 演習後、黒影の鏑木が近づいてきた。


 「……やるな、お前」


 「そっちが本気出したからな」


 「でも、あの一発だけじゃ、“戦場”は変わらねぇ」


 「それでも、撃たなきゃ変わらない」


 無言のまま、鏑木は去っていった。

 カイはその背中を見つめながらつぶやいた。


 「撃たせない。それが、次の目標だ」



 その夜、防衛部の部室では報告書がまとめられていた。


 「この演習、異常行動が多すぎる。正式に生徒会へ報告を」


 「白陵館の影もあったな。後方で“監視”してた奴、あれ、多分……」


 「混乱が続くなら、こっちも“規範”じゃ守れない」


 火薬の匂いがまだ残る部屋で、誰もが黙り込んだ。



 そして翌朝――紫陽高校に一通の文書が届く。


 「市内防衛権分割に関する協議の申し入れ」

 送信元は、私立・白陵館高校進攻科代表。

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