規制と終焉
戦いは終わった。
黒影工業高校の残党は壊滅。紫陽高校は勝利した。だが、それは勝った者だけが背負う苦しみの始まりでもあった。
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廃工場跡・紫陽高校臨時指揮所。
焦げ跡と破片に囲まれた瓦礫の上、カイは砲身の口を静かに撫でていた。
「これが、俺たちの“限界”だったのかもしれないな……」
隣で黙っていたマナが、絞り出すように言った。
「砲で、人を殺した。……それでも、藤野は戻ってこない。誰も笑ってない。……これが正義なら、私はもう正義なんか信じない」
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紫陽高校の生徒たちは、敵拠点で見つけた自作の爆発物や遺体の処理に追われていた。制服は血と火薬で汚れきっていたが、目は虚ろだった。
生徒のひとりが呟いた。
「次、誰が死ぬのかな……」
その呟きに、誰も返事をしなかった。
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【翌日・国会】
朝から“高校生による戦闘”が全国ニュースを騒がせていた。死亡者7名、重軽傷者61名。いずれも紫陽と黒影の生徒だった。
「これ以上、子供に銃を持たせるのか!」
「正当防衛の名の下に、殺し合いが教育の中にあるのか!」
討論は過熱し、その日の午後には緊急閣議にて法案が提出された。
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【火薬銃及び火砲等管理強化法案】
1.高校生による火薬銃・前装式砲の所持・使用を原則禁止
2.正当防衛目的の例外運用を廃止、実弾は認可制へ
3.学校防衛部制度は縮小、非戦闘的訓練に限定
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法改正の報が、紫陽高校に届いたのは2日後だった。
校内の倉庫には、布で覆われた銃と砲がずらりと並んでいた。
「これは……どうなるの?」
マナの問いに、顧問の山本は言った。
「国が管理する。封印措置の後、博物館行きだ」
「戦って、守って、命まで賭けて……それで、これが“危険物”扱いか……」
マナの声は、悔しさとも、安堵ともつかないものだった。
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紫陽高校防衛部、正式に解散。
600人の動員はこの日をもって終了し、防衛訓練制度も事実上廃止となった。
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【3ヶ月後】
校舎の屋上。風が強く吹いていた。
カイとマナが、最後の防衛部室の鍵を閉めていた。
「カイ、今でも信じてる? あの時、撃たなかった選択が正しかったって」
「……ああ。信じてる」
「でも、死んだ人たちは……」
「だからこそ、俺たちは撃たないと決めた。誰かがその矛盾を引き受けなきゃ、何も変わらないから」
そう言ってカイは、そっと布を開き、封印された砲身に触れた。
その冷たさが、あの戦火の熱を思い出させた。
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マナが言った。
「終わったんじゃないよね。これが……始まりの終わりだよね」
「そうだ。だから、歩くしかない」
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火蓋は切られた。
だが、それが“戦い”だけを意味するとは限らない。
紫陽の生徒たちは、それぞれの日常へと帰っていった。
そして今も、どこかで銃は静かに眠っている。




