平日の決闘
第1話を読んで頂きありがとうございます
繰り返しお伝えしますが私が書いた訳ではありません
夕暮れの商店街に、乾いた銃声が響いた。
弾が舗道のアスファルトを砕き、粉じんが宙を舞う。人々の悲鳴。だが、誰も逃げない。――慣れているのだ。
紫陽高校防衛部の副部長・星野凛太郎は、路地の隅でマスケット銃を再装填していた。
「フリントが割れた……クソ、これじゃ次は撃てねえ」
対峙していたのは、見慣れぬ制服の少年。灰色の詰襟に金の校章。銃は、前時代的なミニエー銃――それも銃床に改造が加えられ、狙撃に特化している。
「君たち、“防衛部”のつもりだろう? でも、僕たちは“進攻科”だ」
「進攻科……だと?」
初めて聞く単語に、星野は銃口を下ろした。
――これは正当防衛か?
それとも、学校の外では成立しない、ただの銃撃戦か?
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一日前、紫陽高校防衛部の部室では奇妙な通達が届いていた。
「新設校・白陵館高校より、訓練試合の申し出あり。場所は公共区域・中立指定の商店街。火器は先込め式に限る。正当防衛規定の外、ただし実弾使用許可済み」
生徒会印付きだった。
「防衛部同士の“訓練試合”」――つまり、合法的な撃ち合いだ。
星野は笑ったが、カイの顔は険しかった。
「これ、誘いだ。新設校が商店街を選ぶ意味がわからない。人目がある。記録が残る」
「つまり――こっちに先に撃たせるつもりか」
「そうだ。“撃たせた”うえで、“撃ち返した”と主張できる。防衛じゃなく、完全な威圧戦術だ」
だが断れば、こちらが弱腰と判断される。生徒会にも負い目があるのだろう。
黒影工業の件で、校内防衛戦が何度も発生していることを、正式に報告していなかったからだ。
「俺が行く」と星野が言った。「撃たれるのは慣れてる」
カイは一言、「無理はするな」とだけ返した。
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――そして今、星野は壁に隠れていた。
対する白陵館の少年は、悠然と舗道を歩いてくる。
「君たちは、“守る”ことに慣れすぎた。だから、“撃たれる前に撃つ”判断ができない。撃たなければ、負ける」
「……勝ち負けじゃねえんだよ、俺たちは」
星野は地面に落ちていた短銃を拾い上げた。それは商店街の骨董屋で見かけた装飾品――だが、火薬と弾が入っていることは知っていた。
「防衛ってのはな、後悔の積み重ねで成り立ってんだよ。だから俺は、撃つ」
少年が銃口を上げた瞬間、星野は引き金を引いた。
パンッという軽い音。
銃弾は、相手の右肩をかすめた。血が滲み、相手の銃が地面に落ちる。
「……判断が遅いな」
星野がふらつく。視界の端に、別の制服の影。――もう一人、いた。
だが次の瞬間、向こうの屋上から別の銃声。
狙撃。――福田だ。
姿を見せずに撃つ。防衛部が最も嫌う戦い方。
だが、今は守るために必要だった。
路地に響く金属音。白陵館の二人は撤退していった。
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数時間後、防衛部の部室。
カイが無言で星野の肩の包帯を巻いていた。
「“進攻科”ってなんだよ」
「調べた。防衛部とは別に、“自衛攻性戦術研究会”ってのが、複数の私立高校に設置されてるらしい。要は、攻めるための部活だ。校外での制圧を視野に入れてる」
「ふざけてんな」
星野は苦笑した。「でも、見たか? あいつら、怖かったよ。“正当防衛の限界”を探ってる目をしてた。あれ、もう“教育”じゃねぇ」
カイは火縄銃を持ち上げた。
黒ずんだ銃身、煤けた銃床。祖父の形見であり、紫陽高校の“誇り”だ。
「攻めてくるなら――守るだけじゃすまない。……こっちも、撃ち方を考えなきゃな」
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夜の校門を出ると、カイは空を見上げた。
月が、雲の向こうでぼんやりと光っている。
火蓋は、まだ閉じてなどいなかった。




