血と火薬と決意
銃声が響いた。
それは紫陽高校による先制射撃ではなかった。黒影工業高校残党による、真正面からの開幕砲だった。
廃工場に設置された自作砲台が、紫陽の先遣隊に火を噴いた。煙と土煙が舞い上がり、無線が一斉に怒号に変わる。
「一班、崩れた! 塹壕に避難を!」
「衛生班急げ! 下肢切断、出血大量だ!」
紫陽高校の600人が動員されたとはいえ、実戦経験のある者は防衛部の40人程度。残りの大多数は、日々部活に打ち込む普通の高校生だった。
⸻
「これが……戦争かよ……!」
バスケ部の片桐は、銃を抱えたままその場にへたり込んだ。
その背後で、マナが怒鳴る。
「顔を上げろ! あんたは“市民”じゃない。今ここでは“防衛員”なんだ!」
「でも、でも俺、こんな殺し合いに参加したくて来たんじゃ……!」
マナは一瞬だけ目を伏せたが、すぐに叫んだ。
「だったら、撃たなくていい。でも、隣の奴が撃たれる前に、構えて立ってくれ! それが“防衛”だ!」
⸻
一方、黒影残党の陣地では、死んだような目をした少年兵たちが、銃を握っていた。
「俺らには戻る場所なんてねえ……紫陽が来たら撃つ。それだけだ」
「死んでもいい。けど、誰かを連れてく」
彼らの目は虚ろで、怒りというより“諦め”に近かった。
だがその絶望は、紫陽の砲撃部隊によって崩された。
「発射準備——装填よし、導火線点火!」
山本顧問が率いる砲撃班が、砲身3門を一斉に火を噴かせた。
先込め式砲は遅く、面倒で、射程も短い。
けれど魂を込めて撃つには、十分すぎる重みがある。
⸻
その後、両陣営は市街地に入り乱れ、前装銃と即席バリケードによるゲリラ戦に突入する。
部室の裏、駐輪場、コンビニ跡地。あらゆる場所が戦場となった。
そして、ついに悲劇が起きる。
⸻
「藤野が撃たれた! 胸部……だめだ、もう……!」
紫陽高校3年、防衛部副部長・藤野。
敵の側面射撃を受け、血まみれの状態で地面に崩れ落ちた。
「撃て……! 撃てよ……あいつらを……!」
最後の言葉を残して、藤野は動かなくなった。
⸻
その瞬間。
マナは叫んだ。
「殺してやる……! 私が、私が引き金を引く!」
だが、カイがそれを止めた。
「やめろ。あいつは“撃て”とは言ったが、“殺せ”とは言ってない」
「藤野は死んだのよ!」
「だからこそ、お前が壊れる必要はない!」
⸻
その背後で、福田が淡々と命令を下す。
「前方の廃倉庫に集中砲火。撃て。死人が出た。ならこれは、防衛ではなく制圧だ」
砲撃班が一斉に発射。
屋根が吹き飛び、黒影の指揮拠点が炎に包まれる。
⸻
夜が更け、紫陽の生徒たちは疲れ切った身体で敵拠点を制圧し、捕虜を縛り上げた。
廃工場の地面には黒影の制服を着た少年たちの死体と、紫陽の戦死者が並んでいた。
「……終わったのか?」
「いや……“始まった”んだ」
カイが呟く。
「明日から、“俺たちが戦った責任”が始まる」
⸻
その夜、臨時国会では火薬銃の使用制限強化案が議題に上っていた。
「高校生が実弾を持ち、命を落とす状況を是とするのか?」
「紫陽は市民を守った! だが、それが正義とは限らない!」
議場が揺れる中、銃声のない新しい戦いが始まろうとしていた。




