紫陽の総動員
**“終わったはずの戦争”**が、再び始まった。
黒影工業高校の正式な解体から三ヶ月。かつての幹部や実行部隊は表向き姿を消していたが、その爪痕は各地に潜んでいた。
そしてある日、神奈川県のとある私立高校が襲撃された。火薬銃と手製の前装式迫撃砲による攻撃。放課後の校門前、十数人の生徒が撃たれ、三人が命を落とした。
「犯行声明。黒影工業高校防衛部・戦闘継続派。第二戦線の開幕を宣言する」
映像には、目を覆いたくなるような内容と、再び現れた黒影の“黒い鉢巻”が映っていた。
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翌朝。
紫陽高校・防衛部作戦室。全校生徒が体育館に集められるのと同時に、部内では異例の通達が下された。
「全校動員……だと?」
マナが目を見開く。カイはゆっくりと頷いた。
「文部防衛省が正式に許可した。『戦時非常防衛措置』。校内防衛部を母体とし、全生徒が戦闘補助員として任用される。対象校は紫陽のみ。つまり、黒影残党を“叩き潰せる”唯一の高校として指定された」
「全校生徒を戦わせるつもりか……」
福田が苦い顔をした。
「教師も出る。俺らだけじゃない」
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同日午後。紫陽高校・講堂。
壇上に立つ生徒会長の演説が、全校に響き渡る。
「かつて、我々は砲を撃たずに戦い抜いた。だが相手が、罪なき者を狙い、法を踏み越えるならば——我々は、それでも“自分たちのやり方で”守る」
「恐れる者は後方支援に回ってくれて構わない。だが、一人も無駄にはしない。紫陽全員が、紫陽を守る。それが今、我々の戦いだ!」
拍手と歓声。そして緊張に包まれた空気が、校舎全体に染み込んだ。
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【一方・黒影工業高校残党 拠点】
荒廃した廃工場に、30人以上の元・防衛部員が集っていた。
「奴ら……あの紫陽が来るってさ」
「いいさ。こっちには“命を失う覚悟”がある。あいつらは撃てない。それが甘さだ」
「だが、“撃たない者”が最も恐ろしいってのは、お前らが知ってるだろ?」
指導者・通称“影虎”が、鉄パイプを鳴らして笑う。
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数日後。
紫陽高校は“全学一斉出陣式”を実施。構内に残ったのは事務職員と医療班だけ。
グラウンドには、火縄銃を担ぐ制服姿の男女、約600人が整列していた。
「紫陽、防衛戦線、進発!!」
カイの号令で、紫陽高校の全生徒は歩を進めた。
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【出撃前夜】
野営地に設置されたテントでは、生徒たちがそれぞれの思いを交わしていた。
「ねえ、俺、普段バスケ部だったのに、なんで銃持ってんだよ……」
「言ったろ、“総動員”だって……。でも、あんたの3ポイントより、今日の一発がみんなの命を救うんだよ」
「ふざけんなよ……俺、人撃てないぞ……」
「撃たなくていい。隣で構えててくれ。それだけで、誰かが安心する」
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深夜、カイとマナは高台の陣地で作戦を確認していた。
「敵の拠点は、元・重機整備工場。正面に塹壕、周囲に不審火薬箱。……明らかに“死ぬつもり”の配置だ」
「紫陽は、全員を生かして帰す。例外なし。そう決めてる」
「でも、あっちは……生きて帰る気がない。どうする、カイ?」
彼は答えなかった。
だが空を見上げ、呟いた。
「それでも、俺は“守るためにしか撃たない”。誰一人、ただの“駒”にはしない」
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そして、戦いの火蓋が切られた。




