砲声、血に濡れる
それは、あまりにも突然だった。
砲撃による死者が、ついに出た。
舞台は静岡県・星陵工業高校。防衛部が模擬演習の最中、隣接する羽島農業高校の防衛部と小競り合いに発展。状況は緊迫し、ついには砲が火を噴いた。
「砲弾が羽島農業の防衛部陣地に着弾し、男子生徒2名が重体、1名が即死」
ニュース速報が流れた直後、紫陽高校防衛部の部室は沈黙に包まれた。
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「……これで、終わったな」
福田が呟いた。
「終わってねぇ。むしろ、これからだ」
カイが言い切る。
「うちは“撃たなかった側”として、この事態に向き合う責任がある」
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翌日。
国会では武防法改正をめぐる臨時審議が始まっていた。
「前装式砲の合法化は早計だったのではないか?」
「高校生が大砲を扱うなど、常軌を逸している!」
「だが、制度を撤廃すれば“武装を失った学校”が狙われる。防衛の空白を作ってはならない!」
世論は真っ二つに割れた。
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一方、紫陽高校には文部防衛省の視察が入った。
砲の管理体制、運用履歴、訓練記録。
山本顧問が資料を提出する中、カイとマナは副官に呼び出された。
「“砲は撃たない”という方針が、他校に影響を与えた可能性についてどうお考えか?」
マナが食い気味に反論する。
「うちは撃たないことで命を守ってきた。撃たなかったことが悪いって言うんですか?」
「いや、誤解しないでくれ」と副官は手を挙げた。
「我々は、今後も砲を所持し続ける学校が**“撃たずに守る”意思を持てるか**を問いたいのだ」
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その日の夜。
マナが校庭で“守砲”を撫でていた。
砲身は変わらず冷たく、静かだった。
「こいつがいつか……誰かを殺す日が来るのかな」
「来るかもな。でも、それを選ぶのは“人”だ」
背後でカイが言う。
「砲はただの道具だ。けど、“撃たない覚悟”がある限り、俺たちは守れる」
マナは小さく頷いた。
「じゃあ、撃つ覚悟も、捨てないようにしないとね」
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3日後、羽島農業高校で亡くなった**小島啓介くん(17)**の葬儀が行われた。
紫陽高校防衛部からはカイとマナが参列し、黙祷した。
彼の両親は、焼香の場でこう言った。
「息子は、防衛部で“絶対に撃たない”と決めていました。だけど、撃たれました」
「……どうか、“同じような子”が、次に死なないようにしてやってください」
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その言葉を胸に、紫陽高校防衛部は“守砲”の銘板を削り直した。
旧:「守」
新:「悼」
カイは言う。
「この砲は、撃たずに死んだ彼のために、“撃つことで誰かを守る覚悟”を持ち続ける。それが、俺たちの答えだ」
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砲声が止んだ街に、静かな意志だけが残っていた。




