咆哮、火砲の時代
「令和七年、改正武防法の附則により、防衛部による前装式砲の限定的使用が合法化されました」
臨時ニュースのアナウンサーが読み上げる。
その報に、紫陽高校防衛部の部室は騒然となった。
「マジかよ……ついに“砲”が解禁か」
福田が机を叩く。「火縄は人を撃つ。砲は空間を撃つ。格が違うぞ!」
「でも、ホントに撃てるの? 学校に大砲なんて置けるの?」
マナが不安げに聞くと、部室の端にいた顧問の山本が、煙管をくゆらせて口を開いた。
「条件付きだ。校舎から一定距離の安全区で、かつ実弾の使用は演習・防衛時に限定される。暴発や誤射があれば即時取り消しだ」
「つまり、事故ったら全国の防衛部が砲使えなくなるってわけか」
カイは唸るように呟いた。
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その日の昼休み、生徒会から連絡が入る。
「紫陽高校として、大砲導入に賛成か反対かを表明してほしい」
会議室には、防衛部、教職員、生徒会、保護者代表の姿が揃っていた。
「うちの子が大砲を扱うなんて、とんでもない!」
「でも他校が撃ってくるなら、こっちも持たないと殺られるだけです!」
議論は二転三転した。
その中で、カイは静かに口を開いた。
「私は……賛成です。ただし“撃ち方”には絶対のルールが要ります」
ざわめく空気の中、カイは続けた。
「火縄銃を合法化したのは、『殺すため』じゃなく『守るため』だった。その延長で、砲も“守る砲”として運用したい」
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一週間後、紫陽高校に一門の砲が搬入された。
イギリス製の前装式24ポンド滑腔カノン砲をレプリカ改造したものだ。
砲身は艶のある黒鉄、全長2.7m、砲架は車輪付きの木製で、荷馬車のように引ける構造。
「名前つけようぜ! 戦艦みたいに!」
「“銀の牙”とかどう?」
「“真理砲”とか、“翔破”とか!」
マナたちがはしゃぐ中、カイは黒板に一文字だけ書いた。
「守」
「この砲は撃たない限り、ただの飾りだ。でも、一度撃てば“武力”になる。撃つ時はこの一字を思い出してほしい」
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翌週末。さっそく実戦が訪れる。
隣県の大規模私立校、神明館学園が風凪商業の“空き校地”を不法占拠し、防衛部による自警活動を開始した。
その実態は、砲撃による威嚇と周辺校への恫喝。
風凪商業は再び紫陽高校に救援を求めてきた。
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作戦日。夜明け前の山中。
「照準、良し! 火口、湿らせ!」
紫陽高校砲撃班が大砲を囲んで準備を進める。
砲手はマナ。射撃資格を持ち、唯一“放つ覚悟”がある者として選ばれた。
カイは指揮所で地図を見ながら無線を取る。
「敵陣営の警告射撃位置は確認したか?」
「はい、校舎北側斜面の林に合わせて威嚇放火をしています。砲撃拠点の座標も特定済み」
「なら、撃つぞ。第一目標、拠点後方の空間遮断。威嚇用の空包でいい」
マナが火皿に導火線を刺す。
「——火蓋、切ります!」
ゴォォォォンッ!
轟音とともに“守”と書かれた砲が火を吹く。
初弾は目標の30m奥に着弾。土を抉り、木々を揺らす。
神明館の陣営が騒然とする。
「まさか……砲を持ち出したのか?」
だが、紫陽は次弾を放たない。
沈黙。空気が張り詰める。
10分後、神明館が降伏を申し出た。
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砲は一発も人を殺さなかった。
だが一発で勝敗を決した。
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その夜、カイは部員たちの前でこう言った。
「これから、砲を持つ高校は増える。けど“守るための砲”という理念だけは、絶対に譲らない」
福田が肩を叩いた。
「なら、うちの砲の名前、決まったな」
マナが微笑んで言った。
「——“守砲”。うちらの誇りだね」
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新しい火蓋が切られた。
砲声の時代が、今、幕を開けた。




