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火蓋を切れ!-高校防衛戦線-  作者: 電脳太郎
15/21

咆哮、火砲の時代

「令和七年、改正武防法の附則により、防衛部による前装式砲の限定的使用が合法化されました」


 臨時ニュースのアナウンサーが読み上げる。


 その報に、紫陽高校防衛部の部室は騒然となった。


「マジかよ……ついに“砲”が解禁か」


 福田が机を叩く。「火縄は人を撃つ。砲は空間を撃つ。格が違うぞ!」


「でも、ホントに撃てるの? 学校に大砲なんて置けるの?」


 マナが不安げに聞くと、部室の端にいた顧問の山本が、煙管をくゆらせて口を開いた。


「条件付きだ。校舎から一定距離の安全区で、かつ実弾の使用は演習・防衛時に限定される。暴発や誤射があれば即時取り消しだ」


「つまり、事故ったら全国の防衛部が砲使えなくなるってわけか」


 カイは唸るように呟いた。



 その日の昼休み、生徒会から連絡が入る。


「紫陽高校として、大砲導入に賛成か反対かを表明してほしい」


 会議室には、防衛部、教職員、生徒会、保護者代表の姿が揃っていた。


「うちの子が大砲を扱うなんて、とんでもない!」


「でも他校が撃ってくるなら、こっちも持たないと殺られるだけです!」


 議論は二転三転した。


 その中で、カイは静かに口を開いた。


「私は……賛成です。ただし“撃ち方”には絶対のルールが要ります」


 ざわめく空気の中、カイは続けた。


「火縄銃を合法化したのは、『殺すため』じゃなく『守るため』だった。その延長で、砲も“守る砲”として運用したい」



 一週間後、紫陽高校に一門の砲が搬入された。


 イギリス製の前装式24ポンド滑腔カノン砲をレプリカ改造したものだ。


 砲身は艶のある黒鉄、全長2.7m、砲架は車輪付きの木製で、荷馬車のように引ける構造。


「名前つけようぜ! 戦艦みたいに!」


「“銀の牙”とかどう?」


「“真理砲”とか、“翔破”とか!」


 マナたちがはしゃぐ中、カイは黒板に一文字だけ書いた。


 「守」


 「この砲は撃たない限り、ただの飾りだ。でも、一度撃てば“武力”になる。撃つ時はこの一字を思い出してほしい」



 翌週末。さっそく実戦が訪れる。


 隣県の大規模私立校、神明館学園が風凪商業の“空き校地”を不法占拠し、防衛部による自警活動を開始した。


 その実態は、砲撃による威嚇と周辺校への恫喝。


 風凪商業は再び紫陽高校に救援を求めてきた。



 作戦日。夜明け前の山中。


 「照準、良し! 火口、湿らせ!」


 紫陽高校砲撃班が大砲を囲んで準備を進める。


 砲手はマナ。射撃資格を持ち、唯一“放つ覚悟”がある者として選ばれた。


 カイは指揮所で地図を見ながら無線を取る。


 「敵陣営の警告射撃位置は確認したか?」


 「はい、校舎北側斜面の林に合わせて威嚇放火をしています。砲撃拠点の座標も特定済み」


 「なら、撃つぞ。第一目標、拠点後方の空間遮断。威嚇用の空包でいい」


 マナが火皿に導火線を刺す。


 「——火蓋、切ります!」


 ゴォォォォンッ!


 轟音とともに“守”と書かれた砲が火を吹く。


 初弾は目標の30m奥に着弾。土を抉り、木々を揺らす。


 神明館の陣営が騒然とする。


 「まさか……砲を持ち出したのか?」


 だが、紫陽は次弾を放たない。


 沈黙。空気が張り詰める。


 10分後、神明館が降伏を申し出た。



 砲は一発も人を殺さなかった。


 だが一発で勝敗を決した。



 その夜、カイは部員たちの前でこう言った。


 「これから、砲を持つ高校は増える。けど“守るための砲”という理念だけは、絶対に譲らない」


 福田が肩を叩いた。


 「なら、うちの砲の名前、決まったな」


 マナが微笑んで言った。


 「——“守砲しゅほう”。うちらの誇りだね」



 新しい火蓋が切られた。


 砲声の時代が、今、幕を開けた。


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