火蓋の向こうへ
「敵部隊、総勢約50名。装備は旧式マズルローダーをベースにした改造銃、手製の爆発物、旧陸軍式の白兵訓練を受けた者も複数確認されています」
報告書を読み上げるのは、陸上自衛隊高等工科学校の生徒、三年の沢渡 陸。
その報告を聞く紫陽高校防衛部部長・カイは、目を細めた。
「民間有志連合って聞いてたけど……ただの素人集団じゃないな」
「いえ、彼らは意図的に“元・黒影”を吸収しています。つまり、再起を図る暴徒と見て差し支えないでしょう」
場所は風凪商業高校の図書館を改装した臨時戦略本部。
地元の警察は“高校間の演習”という理由で介入を拒否したため、自衛隊高工校と紫陽高校が共同で防衛線を構築することになった。
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午後3時。作戦開始3時間前。
紫陽高校の福田が、鉄製の盾を磨きながらぼやいた。
「まさかさ……自衛隊と肩並べる日が来るとはな。俺ら、ただの火縄マニアの集団だったのに」
「火縄マニアでも、やる時はやるって見せてやれ」
マナがライフリング入りのミニ火縄銃を抱えて言う。
彼女の顔には不安よりも覚悟が滲んでいた。
カイは、自衛隊側の沢渡と地図を囲んでいた。
「正面から撃ち合えば向こうが上。こっちは地形を使って時間を稼ぐしかない」
沢渡が頷く。
「了解。高工校は正面突破阻止、紫陽高校には左右の斜面での撹乱をお願いします」
「一つ、条件がある」
「?」
「絶対に“殺すな”。防衛部として、それだけは譲れない」
沢渡の目がわずかに見開かれる。
だが、すぐに頷いた。
「……承知しました。軍人ではなく、“高校生”として行動します」
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午後6時。夕陽が沈む。
風凪商業の正門から500メートル手前、木々の間に影がうごめく。
「……来たな」
沢渡が手信号を送ると、20名の高工校生徒が静かに銃を構えた。
銃口に火縄を装填し、火打石を鳴らす。
カイたち紫陽高校は、右手の尾根に布陣。
福田とマナはそれぞれ5名の部員を率い、側面攻撃のタイミングを見計らっていた。
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突如、山の奥で破裂音が響く。
「前方、敵の奇襲! 投擲火薬!」
風が唸り、木々が揺れる。煙の中から現れたのは、ガスマスクを付けた民間武装の一団。
その先頭にいたのは、かつて黒影工業の“切り込み隊長”だった赤嶺 鬼一郎。
「行けぇぇえぇっ! 高工も紫陽も、まとめて踏み潰せ!!」
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しかしその直後。
——ゴンッ! バチバチッ!!
高工校の火縄斉射が、正確に敵の足元を撃ち抜く。
煙と土埃に包まれた中、赤嶺が絶叫する。
「殺せぇぇぇっ!! 俺たちは“戦争”してんだよッ!!」
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その瞬間、右手の尾根で閃光弾が炸裂。
「今だ!」
マナの号令と同時に、紫陽高校の火縄銃隊が両側面からの斉射を開始。
鉄丸弾は木々を貫き、暴徒の陣形を乱す。
カイは前方の指揮台から叫んだ。
「ここは高校だ! ここでお前らの戦争ごっこは終わりだ!」
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挟撃された暴徒は次々に銃を捨てて逃げ出し、残った者も制圧された。
赤嶺は抵抗しようとするが、沢渡の制圧斥候に銃床で叩き伏せられる。
「反撃しない者には手を出すな! 制圧だけでいい!」
その声に応え、高工校も紫陽高校も、一人も殺さなかった。
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午後7時、防衛完了。
風凪商業高校は無事だった。
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帰りのバスの中、カイはぼんやりと夕闇を見つめていた。
「結局、俺たちも戦った。軍と一緒に……」
マナが肩を預けながら呟いた。
「でも、私たちは人を殺さなかった。あれが“防衛”だよ」
福田が帽子を目深にかぶりながら笑った。
「火縄マニア万歳、だな……」
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そして翌朝。
SNS「撃連」のトップには、ある画像が貼られていた。
高工校と紫陽高校、肩を並べて立つ写真。
その下に、短い一文が添えられていた。
>「火蓋は、守るために切る。」




