制服と鉄槍
――午後零時二分。
黒影工業高校・第一防衛線、崩壊。
最前列の柵が、正確無比な火縄銃の斉射で砕かれた。
自衛隊高等工科学校(以下、高工校)の進撃は、止まらない。
火線を浴びながら、彼らは歩く。いや、潰すために“歩く”ことを選んでいる。
敵の銃撃が散発的に走るたび、二名の斥候が横へと散り、遮蔽物に身を滑らせ、銃身を逆手に握って殴打する。
倒れた黒影の生徒は悲鳴を上げ、火縄銃を蹴り飛ばされる。だが、殺されない。
殺されないが、勝ち目はない。
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遠くの斜面から双眼鏡で戦況を見守っていたのは、紫陽高校防衛部のカイだった。
「……これが、自衛隊かよ」
呆れにも似た声で呟くと、隣のマナが低く言った。
「違う。あれは“高校生”だよ。制服着てる。けど――」
「……動きが、完全に軍隊」
彼らの姿には、どこにも“演習”の余白がなかった。
一人一人の足運び、銃の保持角度、突撃の間合い……すべてが訓練され尽くしていた。
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黒影本陣、廃校舎二階。
生徒会長・月影蓮は、窓際から射撃の様子を見下ろしていた。
「まだいける……銃床で潰されるくらいなら、こっちもやるしかない!」
叫んだ副将に、蓮は首を振った。
「もう……あれは“戦闘”じゃない」
「は?」
「俺たちは“戦術”で勝ってきた。でも、あれは……“軍事”だ」
振り返る蓮の顔には、怒りも焦りもなかった。
あるのは、諦観だけだった。
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廊下で火縄の炎がはじける音。
二階に突入してきたのは、三名の高工校制圧班。
マスクとゴーグル、防弾ベスト。そして手にはスリングショット型火薬射出銃――非致死制圧兵器。
「黒影工業高校、生徒代表・月影蓮。演習規則第七条に基づき、拘束する」
銃を向けられ、蓮は両手を上げた。
「わかった。俺たちは、負けた」
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その瞬間、演習地の全域に電子ホイッスルの音が響いた。
「12時14分。全戦闘行動終了。高工校、制圧任務完了」
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紫陽高校の斜面。カイは双眼鏡を下ろした。
「……たった14分で、90人が、あの黒影を……」
マナが頷いた。
「これが、“軍”のやり方」
福田が小さく呟いた。
「俺たち……今まで何をやってたんだろうな」
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懲罰演習から三日後。
黒影工業高校の防衛部は、活動停止。生徒会も解散。
全国の防衛部員たちは、動画で公開された**“制圧戦映像”**を繰り返し再生した。
再生数は三日で1200万回。
コメント欄は凍りついていた。
《軍人じゃねーか》《高校生が持つ火縄銃じゃねぇ》《これが戦列歩兵ってやつ?》
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一方、紫陽高校防衛部では、部室で緊急会議が開かれていた。
カイが、真剣な表情で口を開いた。
「このままだと、俺たちの“高校防衛”が、全部“軍事”に飲まれる。
あの戦い方が“正義”になったら、暴力の形が変わるだけだ」
「でも、正義じゃなかったら?」
マナが静かに問う。
「黒影は止めるべきだった。自衛隊以外に止められた?」
「それは……」
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誰も、答えられなかった。
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だがその時、ドアが開き、一人の生徒が息を切らして飛び込んできた。
「やべえニュース! ついに次の“懲罰対象”が決まったってさ!」
「え? また……誰が?」
「俺たちの隣県の“風凪商業高校”だって!
しかも今回、高工校じゃなくて……“民間の有志連合”が出る”らしい!」
部室内が凍りつく。
「……懲罰を、民間で……?」
「そいつらの中に、“元・黒影”の残党が混じってるって噂もある……」




