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火蓋を切れ!-高校防衛戦線-  作者: 電脳太郎
12/21

陸上自衛隊高等工科学校 出撃

「本日、午後零時。黒影工業高校に対し、陸上自衛隊高等工科学校防衛部による懲罰演習を開始する」


 その文言が、生徒用SNS掲示板「撃連」に流れたのは、金曜の早朝だった。


 半信半疑だった投稿は、一時間後には全国の防衛部の間で共有され、やがて正式発表が文部科学省のページに掲載されると、界隈は凍りついた。


 ——ついに、殺しはじめる気か。


 誰もが、そう呟いた。



 黒影工業高校――

 火薬量違反、演習中の生徒への火傷攻撃、薬品を染み込ませた発煙弾。


 演習ルールを踏み破るその姿勢は、「実力主義」とは名ばかりの暴力行為だった。


 今年度だけで演習棄権に追い込まれた高校は七校、うち三名が重症。

 だが「勝利した学校に勝訴あり」が暗黙の了解となっていた防衛界では、誰も正面から糾弾しなかった。


 ——だからこそ、「自衛隊」が動いた。



 懲罰演習は、防衛部の最高裁定機関である「学生防衛裁定局」の特権。

 その実行部隊は、制度設立以来一度も動いたことがなかった。

 なぜなら、その任を担うのはただ一つ。


 陸上自衛隊高等工科学校。


 この国で、唯一「実弾訓練」が許可された高校。

 名実ともに“軍のタマゴ”たちが揃うその学校が、ついに他校へ銃口を向けることになるとは。



 「やっべえことになってんな……」


 紫陽高校防衛部のカイは、朝礼でその情報を聞かされ、思わず呟いた。


 隣では、スコープを磨く福田が無言で頷いている。

 いつも通りに見えるが、どこか動きが重い。


「……ほんとに、“やる”んだな」


 マナが、冷えた口調で言った。

 この三年間、何度も“危ない”演習を潜り抜けてきた彼女の言葉には重みがある。


「でも、黒影はやりすぎた。今度ばかりは、誰も止められないよ」



 演習地に選ばれたのは、三重県南部の旧演習林跡地。

 広大な竹林と廃校舎、簡易トーチカなどが点在する、かつて“模擬戦の聖地”と呼ばれた場所だ。


 11時00分。黒影の生徒たちは、すでに本陣となる廃校を封鎖し、自前の要塞化を終えていた。


「くるぞ……」


 黒影の副将、石見いわみは、藪の向こうを見据えた。


「何人来ると思う?」


「多くて20だ。そもそもあいつら学生だろ、所詮」


 だがその予想は、直後に裏切られる。



 11時10分。森の奥から、一定の間隔で地響きのような足音が響いた。


 黒影の斥候が飛び上がった。


「お、おい……あれ……!」


 見えたのは、90名の隊列。


 迷彩制服に身を包み、全員が先込め式の銃を肩に担ぎながら、一糸乱れぬ行進を続けている。


 銃剣を装着した火縄銃。

 それは、もはや儀礼ではなく実戦用に再設計された“軍の火器”だった。



 黒影の生徒たちは呆然とした。


 前に出た者が、一人、呟いた。


「……あれが、本物の“戦列”か……」


 自衛隊高工校の隊列は、止まらない。

 先頭の士官候補生と思われる生徒が、手信号を出すと、左右に部隊が展開し始めた。


 規則正しい、だが一切の演出もない無機質な“軍式”。



 12時00分。


 演習裁定官の電子ホイッスルが鳴り響く。


「懲罰演習、開始」


 その瞬間——


 高工校の生徒たちは、一歩も走らず、じわじわと前進を開始した。



 この時点で、黒影の戦意はすでに半減していた。


 射撃を躊躇うもの。逃げようとするもの。


 だが、中央の隊列だけは銃口を上げ、一斉に火縄へ火打ち石を走らせた。


 ——ゴンッ! バチバチッ!!


 真昼の演習地に、9発の火線が閃く。


 銃弾は木々を裂き、手製のバリケードを吹き飛ばす。



 そこにあったのは、精密な制圧射撃。


 殺しはしない。だが“止める”。


 隊列は止まらず、隊列は崩れず。

 そのまま黒影本陣まで、残り200メートル。


 高工校の進撃は、止まらない。

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