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火蓋を切れ!-高校防衛戦線-  作者: 電脳太郎
10/21

撃たずして勝つ者

 演習2日目。

 午前の課題は「遭遇戦・個人戦」。廃ビルの屋上で、1対1で交戦し、旗を奪取する――それがルールだ。


「カイ、お前、晴栄館と当たったぞ」


「……予想はしてた」


 相手は日向。前日、音だけの“空撃ち”で周囲を圧倒した、無口な男。

 しかしその立ち振る舞いは、まるで武道家か僧侶のようで、殺気も怒気もなかった。



「開始5分前。各自、持ち弾は3発。弾込め道具以外の補助具は禁止」


 カイは銃を手に、呼吸を整えた。


 (晴栄館は、一発も撃たずに勝ち続けてる。その意味を知るには……)


 「戦って、みるしかない」



 開始の笛が鳴る。


 廃ビル最上階、無音の風が吹く。


 カイが身を低くし、遮蔽を取りつつ進むと――視界の端に白い影。


 日向だ。


 彼は――銃を置いて立っていた。


「……構えないのか」


「必要ない」


 その言葉に、カイの呼吸が乱れる。



 間合いを詰める。距離は5メートル。


 だが、日向は動かない。目を閉じてすらいる。


 「……ッ!」


 カイはトリガーに指をかける。


 (撃つべきか? 本当にこれが……“戦い”なのか?)


 そのとき――日向が、口を開いた。



「僕たちは銃を撃ちに来たんじゃない。

 自分の恐怖を越えるためにここに立っている」


 「……?」


「撃つことは、最も簡単な解決だ。でも、“撃たずに勝つ”には、覚悟と…相手への信頼がいる」


 「信頼? 戦いにか?」


 日向は一歩、カイのほうに歩み寄った。


「君は、撃たない。そう、僕は信じてる」



 その一歩の重みが、カイの心を揺さぶる。


 撃てる。今なら。

 でも、引き金を引けば、この“何か”は壊れる。


 「――俺は、戦ってきた」


 カイが口を開く。


「他校の不良、武装生徒、暴力……だけど、お前みたいな奴は……初めてだ」


 「僕もだよ、君みたいな目をした人間は」



 そして、カイは――


 銃をそっと、地面に置いた。


「俺は……この勝負、“降りる”。勝ち負けは、お前にくれてやる」


 「それが、僕の負けだよ」


 日向は微笑んだ。


 「君が引き金を引かず、勝とうとしなかった時点で、君の心は戦いを超えていた」



 審判の笛が鳴る。


 「勝者――両者失格!」


 「え?」


 「ルールに則った戦闘行為を放棄したため、両者反則失格とする!」


 「台無しだぁぁああ!」



 数時間後、防衛部のメンバーは校舎裏でカイを囲んでいた。


 「なに理屈こねてんだよお前ー!」


 「うるせぇ!哲学してたんだよ!」


 「一発も撃たずに失格って、お前それ実質ただのサボりやぞ!」



 だが、福田は静かに言った。


 「でもカイ、なんかちょっと……かっこよかった」


 その一言に、カイは「ふん」と鼻を鳴らし、空を見上げる。


 「……じゃあ、次はちゃんと撃つか」


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