撃たずして勝つ者
演習2日目。
午前の課題は「遭遇戦・個人戦」。廃ビルの屋上で、1対1で交戦し、旗を奪取する――それがルールだ。
「カイ、お前、晴栄館と当たったぞ」
「……予想はしてた」
相手は日向。前日、音だけの“空撃ち”で周囲を圧倒した、無口な男。
しかしその立ち振る舞いは、まるで武道家か僧侶のようで、殺気も怒気もなかった。
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「開始5分前。各自、持ち弾は3発。弾込め道具以外の補助具は禁止」
カイは銃を手に、呼吸を整えた。
(晴栄館は、一発も撃たずに勝ち続けてる。その意味を知るには……)
「戦って、みるしかない」
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開始の笛が鳴る。
廃ビル最上階、無音の風が吹く。
カイが身を低くし、遮蔽を取りつつ進むと――視界の端に白い影。
日向だ。
彼は――銃を置いて立っていた。
「……構えないのか」
「必要ない」
その言葉に、カイの呼吸が乱れる。
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間合いを詰める。距離は5メートル。
だが、日向は動かない。目を閉じてすらいる。
「……ッ!」
カイはトリガーに指をかける。
(撃つべきか? 本当にこれが……“戦い”なのか?)
そのとき――日向が、口を開いた。
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「僕たちは銃を撃ちに来たんじゃない。
自分の恐怖を越えるためにここに立っている」
「……?」
「撃つことは、最も簡単な解決だ。でも、“撃たずに勝つ”には、覚悟と…相手への信頼がいる」
「信頼? 戦いにか?」
日向は一歩、カイのほうに歩み寄った。
「君は、撃たない。そう、僕は信じてる」
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その一歩の重みが、カイの心を揺さぶる。
撃てる。今なら。
でも、引き金を引けば、この“何か”は壊れる。
「――俺は、戦ってきた」
カイが口を開く。
「他校の不良、武装生徒、暴力……だけど、お前みたいな奴は……初めてだ」
「僕もだよ、君みたいな目をした人間は」
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そして、カイは――
銃をそっと、地面に置いた。
「俺は……この勝負、“降りる”。勝ち負けは、お前にくれてやる」
「それが、僕の負けだよ」
日向は微笑んだ。
「君が引き金を引かず、勝とうとしなかった時点で、君の心は戦いを超えていた」
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審判の笛が鳴る。
「勝者――両者失格!」
「え?」
「ルールに則った戦闘行為を放棄したため、両者反則失格とする!」
「台無しだぁぁああ!」
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数時間後、防衛部のメンバーは校舎裏でカイを囲んでいた。
「なに理屈こねてんだよお前ー!」
「うるせぇ!哲学してたんだよ!」
「一発も撃たずに失格って、お前それ実質ただのサボりやぞ!」
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だが、福田は静かに言った。
「でもカイ、なんかちょっと……かっこよかった」
その一言に、カイは「ふん」と鼻を鳴らし、空を見上げる。
「……じゃあ、次はちゃんと撃つか」




