8話
「それから独自で調べました。私とフォルクは同級生なんです。特に親しい間柄ではなかった。ですが私は一度見過ごしてしまったのです」
「見過ごすですか?」
ケトナー卿は頷きましたが、顔には悔恨の表情が浮かんでいます。
「一年のときです。彼はおそらく私が宰相の息子だと誰かに聞いたのでしょう。相談があると言われたのです、ただその時私は学園に入って浮かれてました。毎日楽しくて、親しくもない彼の相談事など後回しで良いと思って。折角勇気を出したであろう彼に私は“今日は用事がある”そう言ってしまいました。それから暫く忘れていて。思い出したのは随分経ってからでした。改めて相談って何だと聞いた時には“なんでもない”と一線を引かれました。そして私は彼の状態を見過ごしたのです。よく見れば分かったはずなのに。彼は体があり得ないほど細かったのに」
悔しそうにケトナー卿が話します。
彼はきっと責任を感じているのだと分かります。
ましてやその後サッセルン侯爵家の醜聞が顕になったのなら、あの時救えたのではないかと思っているのでしょう。
「私はミナリーについて調べました。彼女は我々の2つ上です。元は子爵家の娘ですが、両親があの様なことになっていますので現在は平民です。あの事件の後、彼女は市井に放たれたはずでしたが、いつの間にかサッセルン侯爵家の居候になっていました」
「えっ?一緒に住んでいるのですか?」
ケトナー卿は頷きました。
もう如何しようもないのではないでしょうか?
「内情を調べるために誰かを送り込もうとしても出来ませんでした。使用人に何人か当たりも付けたのですが情報は集まらず、私は途方に暮れて父に相談したのです。で、父から王妃陛下にと。中に人を送り込めないなら無理やりにでも送り込む方法を取ろうということになりまして」
いや、なりましてじゃないわ。
作戦はわかるけど、何故私?
「如何して私なんだという顔をしてるな」
姉様もとい王妃が私の心を除くように当ててきます。
「先ず、秘密が守れる者。2つ臨機応変に対応できる者、3つ身分の高い者、4つ「まだあるんですか?」」
私は条件の多さに思わず姉様の言葉を遮ってしまいました。
不敬ですわ不敬、不敬万歳ですけどね。
「ある!4つ情に流されない者、5つ情深い者、6つ潔い者、これに全て当てはまるのはホーリーお前だけだ」
「姉様、4つ目と5つ目は相反しておりませんか?それと6つ目の意味が分かりません」
「情に流されないというのは情け容赦なく切り捨てられるという事だ。情け深いというのは意に染まぬ婚姻でも情を育む事ができる者だ。そして6つ目、潔いというのはこの結末が婚姻の継続であっても離縁であっても自分で決着付ける事ができる者だ。なっ?お前しかいないだろう?」
王妃は“どうだ参ったか”と言わんばかりに私の目を射抜いた。
「あっそうそう!7つ目」
「まだ!」
「フフン、これはお前に決めた時のオマケだ。7つ目、常に護衛が影にいる事」
私はがっくりと肩を落としました。
私は隣国シセマイン王国の王位継承権第四位です。
常に影がシセマインから派遣されて付いています、そうなのですよね。
きっとあのメモを見る限り、今回の事には命の危険も無きにしもあらず、だから元から護衛がついてる私がピッタリだと、いえオマケって言ったから経費削減って事?
まぁ内情を探るのに花嫁を内偵者にするのは分かったけれど、3つ目の身分の高い者って侮られないようにって事かな?
それに⋯おそらく、結婚に夢を見ていない事も私を選んだ理由かもしれない。
失礼しちゃうわ!
今から恋するかもしれないのに!
まぁ今のところは全く予定もないし、私の恋人は古代の石像だけどね。
ここまで聞いて、私は腕を組んで目を瞑った。
義理堅い王妃、後悔している騎士、策を丸投げする宰相、デビュタントで転ばずにすんだ私。
「⋯⋯分かったわ、具体的にはどう探ればいいの?」
私は到頭“諾”と言ってしまった。
でも腹を括るしかないのよ!
晴れあるデビュタントで、転んで恥をかかずにすんだという恩を私忘れてはいないもの。
きっとあとから後悔する事が目に見えていたこの安請け合いを、3分後に速攻で後悔するとは思わなかった。
早っ!