5話
「いくら何でも説明不足が過ぎるというものです」
「ならば貴殿が⋯その為に宰相!貴殿が居たのだろう!職務怠慢もいい所だ」
王妃に理不尽な責をされ宰相は苦虫を噛み潰した顔をしている。
(お察しします宰相様)
私は心の中で宰相に語りかけた、が目が物を言っていたのだろう、宰相からの眼差しは(わかってくださいますか?この理不尽)と言っていた。
20数年前に隣国からプライドと王太子の愛だけを胸に、この国へとやって来た聡明な女性は、その年月を経て図太さの増した豪傑な王妃へと変貌を遂げていた。
「失礼しました、スタンピン伯爵令嬢」
「ホリシオンで構いませんわ、プライベートですので」
「⋯⋯お気遣いありがとうございます。ではホリシオン様、続きを説明させていただきます」
宰相が私に気遣うのは王妃と従姉の間柄というだけではない、それこそどうしてそうなってるのかサッパリ分からないが、何を隠そう私は母の母国であるシセマイン王国の王位継承権第四位なのだ。
これはシセマイン議会が決定した物なので、本人の意志など全く入ってもいない。
順番的にいっても正直入る隙間もない筈なのに、何故か生まれた時に決まったのだ。
シセマイン王国議会意味わからん。
「実は先程少しだけ話に出ましたが、サッセルン侯爵は10歳で子爵達と生活を始めました。そして彼が家督を継ぐ18歳の約8年間、精神的虐待を受けておりました。それは外からは殆どわからないほど巧妙で、残念ながら早めに気付く者が居なかったのです。使用人の中には居たかもしれませんが外部には漏れませんでした」
「⋯⋯」
「それを上手く利用されてしまったのです、それが子爵の差し金か、はたまた本人の意志なのかが分からずに手を拱いている間に、事態は最悪になってしまって」
「?」
宰相の話を私はおとなしく黙って聞いていたが、話の意図が見えなくて固まってしまった。
「元子爵には娘が一人いる。ミナリーという名でフォルクの従姉にあたる。その娘にフォルクは洗脳紛いに陥落されている、体までは分からぬが」
王妃の言葉に私は目が点だった。
フォルクというのはサッセルン侯爵の名であるが、まぁそれはどうでも良い。
そんな所に嫁げという事が信じられなくて、私は王妃を睨んでしまった、不敬万歳だ!
「そう睨むな、だからその魔の手から救い出してほしいんだ」
「⋯前侯爵夫人に恩義を感じておられる王妃陛下の御心は理解できます。理解はできますが、納得はできません。おそらくサッセルン侯爵様も大きなお世話と思うのではないでしょうか?お互い思い合うのであれば放っとけば宜しいのでは?」
私は思ったままを口にした。
「それが放っておけないのだ、こんな物が届いてはな」
王妃がそう言うと宰相が一枚の紙切れを私の前に置いた。
そこには『サッセルン侯爵のお命が危険に晒されております。ミナリーにご注意を』と書かれていた。