44話
私はこの『薬』と覚しき物が薄っすらと残る板をケトナー卿から宰相そして姉様に確認してもらいました。
やはりこれは漢字で『薬』と書かれていたようです。
今回のフォルク様達の領地行きは、領地で鉱山とは違う山の崖崩れが起きた事によるものでした。
領主としては、被害の確認と領民の救済をしなければならないのは当然ですので急遽フォルク様は赴きました。
そこに私の護衛騎士であるケトナー卿を同行させたのは、何となくなのです。
強いて申し上げるとするならば私の勘でした。
どうしても誰かを同行させなければならないとピンと来たのです。
でもこれで私は何となくですが、私の夢に出てくる色々な出来事も何らかの意味があるのではないかと推測しております。推測だけで、じゃあ何だと聞かれても全く分かりかねますが。
子供の頃の夢が主なので未来視ではありません。
何か私の中にも眠っているのでしょうか?
今回のことは古代遺跡の解明が勿論最優先でもありますが、もう一つ解明しなければというより、回避しなければならない事が私にはあります。
この世界は童話だと姉様こと郷田花様は仰いました。
私とフォルク様の娘が私とともに何らかの事故に巻き込まれ、私は死に娘は孤児となる、そんな数奇な運命に未来が繋がるという話ですわよね。王子様と冒険などとそんな絵空事はどうでもよろしいの。
⋯⋯私死にたくありませんわ!
本当に童話の中だとしても私の娘が孤児などと!
もしそれが本当なら私亡き後フォルク様は何をやってらっしゃるの?頼りないにも程があります!
ですから私は何がなんでも生き延びなければなりません!
フォルク様の未来の不甲斐なさがもし忘却の術とやらに関係するのであれば、今のうちに忘れた事を取り戻してもらって、二度とそのようなことがないようにしなければならないのです。
私は、この朽ちた板を足がかりにサッセルン侯爵領を大々的に調査するように、フォルク様に頼むことにしました。
今彼は何故か私に懐いているのか、恋なのか知りませんけれど、慕ってくださっておりますので、聞こえは悪いですけれど、その心を利用させて頂きます。
◇◇◇
「フォルク様、今回崖崩れにあった村の村民達は無事保護されていると聞きました」
「あぁホーリーそうなんだ、皆間一髪危機を免れていた。不幸中の幸いだったよ」
「ではその者達にこの板の持ち主と、これが何処にあったかなど詳細に調査して頂けませんか?」
「ホーリー、どうやらそれは君にとって貴重な物らしいけど、そこまで調査するのは難しいかもしれないよ」
「私にとってではなくて、フォルク様にとっても貴重なものなのですよ」
「えっ?そうだったかな?」
おかしい⋯私はフォルク様が何を忘れているのか、忘れさせられているのか、何となくわかってきました。
板を持ち帰ろうと言い出したのはケトナー卿ではなくフォルク様だと彼は言っていました。それだけ何かがあるとフォルク様はその板を見た時思ったはずなのに、今ではそれすら覚えておられません。
領内で起きた災害なども覚えているのに、この板のことだけ急に忘れてしまったかのように、他の事ならもし私が頼んだのなら「君の頼みなら任せてホーリー」そう言って部屋を飛び出していくはずです。
実際今、私が甘いものが食べたいと少し頼んだだけで、その言葉を発して忽ちのうちに部屋を飛び出したのですから。
フォルク様が忘れているのは『日本』という姉様のいう前世の世界ではないでしょうか?
フォルク様、貴方何を忘れてしまったの?




