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28話

─逃げられない─


それは此方も同じこと。

だけどフォルク様はその事に思い至らないらしい。

自分の胸のうちを吐露しました。


「私には心に決めた人があったのに!」


奇しくもゴウダハル様が異世界転生→婚約破棄というのを想定して、初顔合わせのときに辿々しく言った言葉は真実だったみたい。

私の心は⋯⋯⋯⋯あっそう、だった。


「失礼極まりないな」


シセマイン王国の王太子にして私の従兄であるルディック様が、フォルク様を睨みながらボソリと呟いた。

お兄様、私を慮ってくださりありがとうございます。

お気持ちがとっても嬉しいわ

だけど⋯殺気はやめて下さいませ。

後ろのケトナー卿、貴方もよ!


二人の殺気に当てられてフォルク様は自身の失言に漸くお気づきになられたようです。


「あっ⋯⋯すまん」


「いえ、気にしておりませんわ」


取り敢えず返事は淑女然として返しましたが、きっと私の顔は古代遺跡から発掘された“のうめん”の如き顔だったでしょう、何故ならフォルク様が私の顔を見て怯えられましたから。


その後、フォルク様は何かが気になるらしく(理由は話してはもらえませんでした)気もそぞろで、心ここに非ずであれば彼の存在はシセマイン王国(此処)に居る必要もありません。

一応ルディック兄様から観光のお誘いはありましたが、フォルク様は断っておりました。

そういうところは強心臓だと思いましたわ、別名世間知らず、礼儀知らず。

早々に帰りたいと言うので引き止める気も起きませんでしたから、お帰り頂きました。


◇◇◇


フォルク様が帰国した2週間後に遅ればせながら、私ホリシオンも無事帰国しました。

帰ってそうそうに父に聞かされたのは、一掃したサッセルン侯爵家の悪使用人をフォルク様は何名か呼び戻しているそうです。

流石にミナリーは放逐したままのようで安堵しましたが、代わりと言っては何ですがメイナが居るそうです。

本命はメイナだったのでしょうね。


─あんなやつと婚姻を結ばなければならないのか?可哀想なホーリー。いつでもシセマイン(此方)はwelcomeだから─


ルディック兄様の言葉が脳裏を過りました。

見送りの際に送ってくださった言葉です、本気で考えようかしら?


ただその後フォルク様と何度かお会いしましたが、彼が私を蔑ろにする発言は見られませんでした。

結婚式まで日がないというのもありましたが、それでも新事業で忙しい合間の僅かな時間で、何度かお誘い頂き一緒にお食事に行ったり観劇をしたりと交流もありましたの。


だから彼も腹を括ったのだと思っていたのです。

相変わらずメイナ(女性の影)は邸にありましたけれどね。


結婚式は盛大に行われました。

だって王妃命の婚姻ですもの、招待客は新事業の事もあり平民ではありますが大きな商会の会頭様もお越し頂きました。

何より王妃陛下(姉様)も桟敷席に君臨しておりました。


入場前の控室ではテキパキと仕度をしてくれる私の侍女達が「お嬢様、お綺麗です」と地味な私に賛辞してくれて気分はアゲアゲでしたの。

お父様と歩く赤い絨毯でも少し緊張していましたが、参列者の中に地味仲間のソニアと今日は凛々しく貴族の子女らしいケトナー卿を見て緊張の糸も解くこともできました。


だけどお父様から私の手を受け取った時、フォルク様の諦めたような暗い眼差しを私は見逃せませんでした。

だから予感はあったのです。

ありましたけど、数日前は腹を括られたとも思っていましたから確定ではありませんでした。


式が終わり二人で向かったサッセルン侯爵家までの馬車の中。

一言も発しないフォルク様。

ワラワラと現れたサッセルン侯爵家の悪侍女たち(あなた方追い出したはずですわよね)に引き摺られるように連れて行かれた私の部屋は、後で気付いたのですが夫婦の寝室よりも3つほど離れた部屋でした。

ドレスを脱がされ湯浴みを施され、全体的にスケスケの夜着に着せ替えられて連れて行かれた夫婦の寝室。


「こちらでお待ちください」


そう言った彼女の顔はニヤけておりました。

そもそも私が連れて来たはずの侍女達は何処に行ったのでしょうか?


そして⋯⋯。

たっぷり待った時間の後にやっと微睡んだ私を、態々侍女への大きな声の叱責で目を覚まさせ、不覚にも飛び出した私の嚔に気付いたフォルク様の一言。


「まだ起きていたのか」


これに殺意が湧いたのは私もまだ腹を括れていなかったからかもしれませんね。




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