23話
大きく息を吸い込み「ふぅ〜〜〜〜」と吐き出す。
彼はそれを3度繰り返した。
その行動だけでも目を瞠る行為だったが、彼が言葉を発した途端、私は固まりケトナー卿は膝から崩れ落ちた。
「えっとぉ驚くと思うんですけどぉ、私ぃなぁんか突然?この世界にやってきたみたいなんですぅ」
─ガタガタガタン⋯⋯ガッガッゴツ─
最後の『ゴツ』でケトナー卿の膝は割れたのではないかしら?
ちょっと待って!
如何してフォルク様は女性の様に話しているの?
その内容もちょっと意味不明⋯⋯えっ?本気?
驚きすぎて声も出なくなってる私とケトナー卿に、サッセルン侯爵に見えるその方はそのまま話し続けた。
多分、彼?彼女?は開き直った模様だ。
「大丈夫ですかぁ?まぁ驚きますよね!何を隠そう、いやもう貴方達に隠す気はないんですけどぉ、驚いたのって私がナンバーワンだと思うんですよねぇ。ある日目覚めたらこの姿なんですよぉ。吃驚でしょう」
そりゃあ吃驚ですわ、とっても同情しますけど、でもこれってどういう事?わけがわからないわ。
「あっの、フォルク様と呼んでも宜しいのかしら?」
「あぁこの体の方の名前ですよね。う〜ん、この三人の中では『ハル』って呼んでもらえます?あっ!でも咄嗟には変えられないですよね。フォルクでいいです、可能ならこの体から出たいので!出る気満々マングローブです!」
また意味のわからないことを仰ってますわ。
私ホリシオンは周囲から、年の割に肝の据わった娘と見られている、それは正直自分でもそう思っている、そう思っていたの!たった今まで。
でもこの状況、目の前のフォルク様の様子に自身の自信が揺らぎ始めております。
きっと今私の言葉も意味不明。
「私の名前は郷田花、こう書きます。これこういうふうに書いてハルって読むの」
何やらフォルク様はノートを取り出して“文字”を書いています。
それが如何して“文字”と分かったのか、それは私が古代に興味があったから。
思わず私はフォルク様のその手を取りました。
「フォルク様!貴方様この字が読めますの?書けますの?」
私の突然の行動にフォルク様は目を丸くして驚いていますが、首だけは律儀に上下に動かして返事をしてくださいました。
母の祖国シセマイン王国の遺跡から発掘された石版に刻まれた模様、長年の研究でそれは文字ではないかと推考されています。
私も一度だけシセマイン王国王家の禁書室でその石を見たのです。
それから私はシセマインの歴史に興味を持ったのです。
いつか研究チームに入りたい。
それが私の夢でした。
でもおそらくその夢は叶わない、だったら学生のうちのほんのちょっとの間だけでも、夢を見たかったのです。
何度も何度もお父様に頭を下げて、時には拗ねたように、時にはストライキ、時には⋯⋯アレ?反抗しかしておりませんのね私。
お願い事を通すなら『飴と鞭』と姉様に教わっていたのに、どうもやり方を間違えていたようです。
アララ、思考が横道にそれ過ぎましたわ!
今はフォルク様の事です、そう彼の事⋯。
彼の身に何が起こっているのでしょう。
古代人が乗り移ったのかしら?
もはや怪奇ですのね。
もはや現象ですのね。
あぁこれが怪奇現象⋯⋯⋯?