22話
今日私は到頭サッセルン侯爵邸にやって参りました。
父スタンピン伯爵と一緒です。
先日は、不思議な平民メイナの摩訶不思議な戯言を聞かされましたけど、本日噂のミナリーに会う事はできるのでしょうか?
少し興奮気味でサッセルン侯爵邸の玄関で、父の手に導かれ馬車を降りました。
「ようこそスタンピン伯爵、ホリシオン嬢」
そう言って歓迎の意をお口にされていますが、侯爵が震えているように私には見えました。
どうされたのかしら?
彼の震えが恐怖から来ているように思えます。
まさかお父様、事業提携なのにスパルタで教育などしておりませんよね?
ここに降り立って少しの時間で、私のクエスチョンは幾重にも広がり始めております。
「さぁホーリー行こうか」
震える侯爵にチラリと一瞥して父は私を促します、けれどお父様、婚約者とはいえここは他家のお邸です。
我が物顔で動く父と、自分の家なのにおどおどと歩くサッセルン侯爵に私は内心呆れていました。
私の後ろからはケトナー卿も付いてきております。
彼は先日の件から、正式に私の専属護衛となりました。
侯爵家の執事と紹介された方が先導して案内してくれたのは、侯爵家の応接室でした。
そこで私達はお茶を頂いたのですが、少しの期間で侯爵の所作が格段に上がっていました。
それはもう目を見張るほどに⋯。
侯爵が前向きに頑張っている姿を垣間見てしまい、私の侯爵様の株が少し上昇致しましたの。
それはもう敬称を付けるほどに、フフフ。
お父様と侯爵様の事業の話を何故か私に聞かせるお二人でしたが、そのうちに「あとは二人で話せ」とお父様は部屋を出て行かれたのです。
何処へ行ったというのでしょうか?
「ホリシオン嬢、実は⋯⋯実は⋯⋯じつは」
サッセルン侯爵様は“実は”を繰り返しています、あまりにも長いので埒が明きませんから、ひと押ししてみました。
「フォルク様、如何なさいましたの?」
そう言って首コテンからの上目遣い、先日メイナで学ばせて頂いた仕草を披露したのですが、彼は一瞬ポッと顔を赤らめましたが、直ぐに嫌そうなお顔に変化しました。
アララ私には不似合いだったようです。
でもそれで緊張でも解れたのでしょうか?
今度はハッキリと仰いました。
「ホリシオン嬢、実は折いってご相談があります、人払いお願い出来ませんか?」
サッセルン侯爵様はケトナー卿へと目線を移し、私に『ご相談』を持ちかけました。
「それは無理なお話ですわ、侯爵様」
私の返答に彼は固まってしまいましたが、当然でございましょう。
婚約者とはいえ男女が二人きりなどとそんな事はできませんし、ケトナー卿は私の護衛ですもの。
その旨お伝えさせて頂くと暫く腕組みをしながら侯爵様は考えておられるようでした。
ですがよっぽど大事なご相談だったようです。
意を決したように彼は言いました。
「では、えっとケトナー卿?だったかな。他言無用でお願いしま、するぞ?」
色々と可笑しな物言いのサッセルン侯爵様ですが、このあとの『ご相談』で私はこの世の無常を知りました。