21話
「私とフォルクは子供の頃に出会ってぇ〜フフフ」
「えっ?ミナリーに気を付けてってそのままよ。あの女の毒牙にかかったらフォルクが死んじゃうでしょ!だってあの女の親、フォルクが子供の頃から何度も仕掛けていたもの。やっと捕まって漸く⋯⋯」
何かペラペラペラペラと独演会の様にケトナー卿を相手に話していたメイナだったけど、結果分かったのは、フォルクの死の危険も、それがミナリーによる物というのも全てメイナの嫉妬からの物で、なんの根拠もないということだった。
メイナの独演をさせるがままにしていて、痺れを切らしたケトナー卿がたった一言聞いたら、すんなり喋った。
独演会の無駄な時間⋯⋯帰して欲しいわ。
そんな事を思っていたらメイナは突然私の方を見てケトナー卿に質問した。
ひょっとして彼女、私の事目に入ってなかったの?
「ねぇこの人誰?何故ここに令嬢がいるのよ。お貴族様って騎士団には興味ないでしょう?」
メイナはケトナー卿にコソコソ聞いてるつもりかもしれないけれど、全部聞こえてるわ。
しかもこの人色々と勘違いしている。
先ず貴方が質問してるその人(ケトナー卿)も貴族だし、この騎士団の本部に所属している者は、圧倒的に貴族が多く平民は優秀な者が数える程しかいない。
平民は本部ではなく市井の方に回される。
メイナはいくつの時に平民になったのだろうか?
色々と基本がズレてるように感じて、私は彼女が得体のしれない者のようにブルリと怖気が走った。
「⋯⋯彼女は⋯」
「行きましょう」
私の事を言い淀むケトナー卿を私は手で制した。
相手にしていられないと思ったからだ。
何かメイナが喚いていたけれど私達は無視してその場を離れた。
「ホリシオン様、申し訳ありません。まさかあの様な考えの者だとは⋯」
「気にしないで、ケトナー卿のせいではないわ。色々と偶然が重なったのよ」
「ですが⋯既に王妃命が出てしまっています」
そうなのだ、メイナの嫉妬からの妄想が原因だったのに、この婚約は解消出来ない。
公表前だから貴族達には公になってはいない、だけど既に王宮の中では動いているのだ。
“王妃命”として⋯⋯。
しかも陛下の承認も得てしまっている。
城で働く文官達には通達されてしまっていた、何故なら彼等は先立って色々と準備をしなければならないからだ。
私とサッセルン侯爵の婚約の発表は王家主催の夜会で行われる事になっていた。
まさかここに来て、一人の小娘の嫉妬心に宰相も王妃も踊らされてましたなど言えるわけもない。
文官には守秘義務があるけれど、そんな問題ではない。
「ケトナー卿、貴族の子女は何れ婚姻しなければならないわ。それは私も貴方も同じでしょう。勿論サッセルン侯爵も」
「⋯⋯」
「意に染まぬ相手と政略結婚なんてその辺にゴロゴロと転がっていますわ。それにその結婚に利を求めようと父もサッセルン侯爵も動き出しました。だったらこのままで良いと私は思います。お互いが愛するつもりがなかったとしても、そのうち家族になるのではないでしょうか?それが貴族の婚姻でしょう?」
「⋯⋯ホリシオン様、俺、私はこれからも貴方を全力で守ります」
ケトナー卿が誓い擬きで決意を語っていたけれど、実は私の心の中ではブリザードが駆け抜けていた。
あの女〜〜〜〜許さん!
口では貴族の矜持を語って、いい格好しいの私だったけど、そんなの外面に決まってる。
私の腸は煮えくり返っていた。
◇◇◇
side⋯???
私の名前は『郷田 花』ハナと書いてハルと読む。
あぁそんな事はきっと今は如何でもいい。
この状況が私には如何していいか解らないのよ。
きっとこの世界は所謂異世界なのだと思う、そして時間が経った今は自分の立ち位置が漸く見えてきた。
この世界は“ある物語”の序章よりも前の段階なのだと思う。
ここからどうやってそうなるのかは分からない。
でもその物語に向かうのが正解なのかも分からない。
このまま何もせずに流されるままでいいのだろうか?
しかも⋯前世が“ゴウダハル”なのか意識だけがこの世界に飛び込んだのか、それも解らないのよ!
だって私の中に何となく先人の意識を感じるし⋯。
これを誰に相談するのが一番いいのか決め倦ねているの。