16話
恰好の情報源が自分のすぐ側にいるなんて思いもかけなかったわ。
流石ソニア!
私の親友!
心の中で大絶賛して、でも態度でも示そうと私は拍手をしながらソニアの言葉を待った。
「これは私が直接聞いていないの、お父様がサッセルン侯爵と交流している中で、ポツポツと話された事を分析した物だから。それを念頭に置いてもらえる?不確かな情報で申し訳ないけど。ただ私が会ったあの女の話はいくらでも悪口言えるわよ。子供の頃から散々殺ってくれる女だったから」
ソニアは後半物騒なことを言っているように感じたのは私の気のせいかしら?
それでも早く聞きたくてコクコクと頷きながら、ケトナー卿宜しく犬になった気分だった。
きっと今私尻尾振ってるかも。
「侯爵様は10歳の頃から食事は一人で取っていたそうなの、それも子爵達より先にね。表向きには後継者様を先に食事してもらって臣下の我々は後で、何て言っちゃって。でもその実は早く食べろと促すように周りをグルグル回っていたそうよ」
その子供みたいな嫌がらせを大の大人がしていたの?
私は信じられなくて目を瞬いた。
「それも毎食だから、侯爵様はそのうち部屋で食事を取ると言っていたのだけど、無理やり部屋から出させられていたみたいなの。ただね侯爵様曰くその後で必ずミナリーが慰めてくれたそうなのよ」
「なるほど」
私はそう呟いて腕組みをして考えた。
侯爵家にも長年務めていたものはいた筈だが、長年だからこそ子爵には逆らえなかったのかもしれない。
だって彼は元々侯爵家の長男だ。
睨みを効かされれば⋯使用人を責めるのは無理だなと私は思った。
「食事はそんな感じね。侯爵様が痩せていたのは早く食べなきゃと焦って食べるから全部食べきれずにいたんじゃないかしら?これはお父様の見解だけど。子爵に物申せたのは母親である前々侯爵夫人である大奥様だけだったのに、唯一の味方も親の介護で手が離せなかったから」
「介護?」
「アラそれは知らなかった?」
「病弱だったと聞いたの」
「いいえ、そりゃあお年を召していたからそれなりに体も何処かしら悪かったかもしれないけれど、そうでもなかったのよ。サッセルン前侯爵夫妻の事故の時、伯爵も同乗されていて、腰を痛めてしまったの。それでほぼ寝たきりだったのよ、突然の事で大奥様は混乱されていたみたい。これもお父様の見解」
子爵にとってとっても都合の良い形で、進んでしまったのね。
その事故すら怪しいけれど立証されていないという事は証拠がなかったのかな。
「人間ってさ心が弱くなった時。側に味方が居ると思ったらそこに縋っちゃうと思わない?ましてやまだ子供だったのだもの」
「思うわ、そしてそれが大人になっても幻想は続いているということなのね」
「多分そうだと思うけど、あの女は絶対計算してると思うのよね。そういう悪知恵は働かせそうな女だもの。でもホーリー分かるでしょう」
私はソニアが何を言いたいか分かったので大きく頷いた。
そして彼女が言いたいであろうことを代弁した。
「往々にしてそういう女は男の前では天使なのよね!」
「そういうことよ!だからサッセルン侯爵を救ってあげて!」
ソニアの嘆願だけれどそういう男って結構頑固でもある。
自分の考えをなかなか曲げないし、崇拝してるなら尚更だなぁと私は嘆息した。
だけどそうも言ってられない。
大人に成りきれてないであろう彼が大人になる手助けをしないといけない、というのが婚姻後のミッションだ。
でも⋯⋯姉様。
17、18歳の小娘にこれはちと期待し過ぎではないかしら?




