13話
「目覚められましたか?」
目を開いて直ぐから未だ母を見つめて、呆けたようにしているサッセルン侯爵に私が声をかけると、彼は初めて私の存在に気づいたというように驚きを隠さなかった、隠せなかった。
私はその様子に寂しさを感じた、何故かしら?
不可解な自分の気持ちに戸惑いながらも、私は彼を見つめていた。
「あっ、あの⋯⋯」
そう言って起き上がろうとするサッセルン侯爵をケトナー卿が制しながら声をかける。
「まだ起きてはだめだ、横になったままで」
ケトナー卿に制されてサッセルン侯爵は彼を見て目を見開いた。
「君は⋯⋯」
「覚えているか?サッセルン侯爵。同級のケトナーだ、父は宰相で「あぁ、覚えてる」」
ケトナー卿の言葉にサッセルン侯爵は被せてきたけど、その声音が少し厳しく感じた。
「何故君が此処に?というか此処は?」
サッセルン侯爵は横になりながら、見慣れない我が家の客間の様子を顔と目だけ動かしながら窺っていた。
「此処は我が家の客間です、侯爵は私との顔合わせで倒れられたのですわ。因みに私の事は覚えてらっしゃいますか?」
私が声をかけると、サッセルン侯爵は今日初めて私の目を真っ直ぐに見つめていた。
そして躊躇いながら少し考えているようだったが、その後コクリと首を縦に振ったのだけど⋯⋯。
本当に忘れていたのかしら?
これは⋯またまた凹むわ。
「迷惑をかけたようで申し訳ない」
そう言って一度目を閉じまた直ぐに開いた。
「サッセルン侯爵、もう少しお休みください。貴方様には休養が必要みたいですわ。うちの主治医が申していましたの、そのままでは帰せませんから」
母が近付いて来て肩口付近の掛布を直しながらサッセルン侯爵に話しかけると、彼は素直に頷いて再び目を閉じた。
暫く見守っていると寝息が聞こえてきたので私達は部屋を出る事にした。
父の執務室に集まった私達は今後について話をする。
「婚姻まで8ヶ月しかない、それ迄にする事がこれなのかい?」
父があの雑な計画表を見ながら私とケトナー卿に聞いてくる。
私達は揃って頷くと父が溜息を吐いた。
「婚約から婚姻までが一年もないだなんて、しかも卒業して直ぐに嫁ぐなど。王妃陛下は何を⋯⋯まぁ言ってもしょうがないが、これはいつもの事と流せる話ではないぞ」
「貴方⋯⋯姪がごめんなさい⋯」
母が父に上目遣いで目を潤潤しながら謝罪すると、咳払いをしながら「君のせいじゃない」なんて、甘い雰囲気を醸し出している。
私はいつもの事と流せるし生温かく見守れる、だけどこの場にはケトナー卿がいる事を忘れてもらっちゃ困りますわ!
「ん、、、ん」
少し大きめの私の咳払いに我に返った両親は、顔を赤らめながら目を泳がせている。
いい年して⋯恥ずかしい。
だけどケトナー卿はそんな私達の様子には全く興味がないようで、只管頭を抱えていた。
どうやら先程のサッセルン侯爵の厳しい態度を気に病んでいるようだ。
彼を侯爵家に入り込ませるのは難しいかしら?
私は頬に手を当てながら今後の計画変更を推考し始めていた。