追放少女とスライム
陽が傾きかけた荒野に、少女の影が長く伸びていた。
腰の刀を頼りに、今日もまた、はぐれたモンスターを探して歩き回る。
少女の名は 凪咲
古より続く居合術の流派を受け継ぐ最後の後継者。
その剣技は一撃必殺、神速無比。
だが、人間が傍にいる状況ではその力を振るうことができなかった。
「もし間違えて仲間を斬ってしまったら……」
その恐怖が、凪咲の剣筋を鈍らせる。
結果、組んだパーティーにはことごとく見限られ、今では独りぼっち。
単独でのダンジョン探索は禁止されている為、ダンジョン外に時たま現れる小型モンスターを狩って生計を立てる日々。
この日も、倒れかけた一本の木の下で、狼型モンスターの群れを見つけた。
数は五。
何かを攻撃している。
恐らく他の小型モンスターを狩っているのだろう。
凪咲は静かに呼吸を整える。
鯉口を切り、居合の構え。
一歩踏み出した瞬間、疾風のように彼女の姿が消える。
気づけば、狼たちは地に伏していた。
鮮やかすぎる斬撃。
モンスター相手なら、彼女の剣は迷いなく振るわれる。
――だが、異変はその直後だった。
狼たちが攻撃していた標的、ぬるりとしたスライム状のモンスターに剣を向けた時。
「ころさないで」
か細い、けれど確かに言葉を紡ぐ声。
凪咲の腕が、ピタリと止まった。
「……しゃべった?」
目を見開く凪咲の前で、スライムは震えながら、彼女を見上げていた。