その2
「やっぱり、おかしい。なんであんなところにいるんだ?」
今までは、特に気にしていなかったが、気になり始めると、止まらなくなって、魔法使いのリオンは頭を抱えた。
小さな猫を使い魔にしたのは、数年ほど前のことだ。猫にしては規格外の魔力を有しているのに、魔力を使わずに蛇の魔物と戦い、苦戦しているのを見かねて、助けた。
用事がある時以外は自由にさせているのだが、魂の契約をしているため、どの辺りにいるのか、その所在地は逐一把握する事が出来た。
そこには頻繁に通っているようだったが、その場所は何もない、辺鄙な場所にある村だった。
魔物と人間の住み処の境目が近く、お世辞にも良い場所とは言い難い村だった。
「まさか餌付けされているとか……?」
魔力が高く、人の言葉を理解する賢さを持つ小さな猫は、わりと大きな魔物を倒すことも出来た。
もしかしたら、村人に危険な魔物を倒すことを依頼されているのかもしれないと、リオンは心配になってきた。
「怪我でもしたら、どうしよう。今すぐ呼び出したいけど、こんなことで呼び出すわけには……」
小さな猫を使い魔とする時に、必要以外の招集はしないことも契約に含まれていた。
魔法使いリオンは、まぎれもなく親馬鹿ならぬ猫馬鹿だった。
愛する飼い猫のことが気になり、何も手がつかなくなった。
最終的に、「仕事が終わらないから手伝ってくれ」と、小さな猫を情けない用事で呼び出すことになり、小さな猫は山のように積まれた書類を見て「余裕だって言っていたのに、さぼっていたのか!?」と、手伝いつつも、憤慨したのだった。
それから数日後、リオンは偶然を装い接近してみようかと思案したが、事が露見したら問い詰められそうだったので、特殊な効果を持つ魔法具を使い、小さな猫の後を追うことにした。
リオンが、小さな猫の居場所を知ることが出来るように、小さな猫もまた、契約主であるリオンがどこにいるのか把握する事が出来た。
「いったい、どこに行っているのだろう?」
その疑問は、すぐに晴れることになる。
そこにいたのは大きな白い餅――ではなく大きな猫だった。
(バカだな俺は。ちょっと予想外だったけど、猫の友達ぐらいいるよな!)
小さい猫のくつろいだ様子に、リオンの不安は、みるみるうちに氷解していった。
「あらあら、もしかしたら、あの小さな猫さんの飼い主さんかしら?」
リオンは普段は見られない小さな猫の可愛い様子を堪能していたら、背中から声をかけられた。
(あ、やばい。にやけてたかも。決して不審者ではありませんよ!?)
と思いながら振り返り、息を飲んだ。
そこには、穏やかな笑みを浮かべながら、籠いっぱいの花を持った可愛らしい女性が立っていた。