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すれ違いだらけの俺の運命  作者: 甘衣 一語
旅行
9/40

「それじゃ、また時間になったら連絡するからケイは響をよろしくね。」

 ビーチから車で30分、隣にのどかな広場がある科学館で俺たちは2手に分かれる。

 この科学館は6階にプラネタリウムがあり、それぞれ階ごとで地学、物理、生物、天文、化学と展示が異なるようだ。3時にプラネタリウムが上映されるので、それまで別々で見て回りたいという大和の希望を採用して俺たちは別れることになった。

 当然のように俺は慶人と組まされるが、優大の慶人に対する対応が俺のお守り役のようで釈然としない。

「さて、最初はどこにいこうか。」

 入り口近くの案内板を見ながら効率的な周り方を考えていると、慶人がそんな俺を置いてエスカレーターに乗り上の階に向かってしまう。

「おい、どこ行くんだよ。」

「4階です。」

 慌ててその後を追い尋ねるが、そんな素っ気ない応えしか返ってこない。

 4階には宇宙、星についてだっただろうか。

「別に、他に行きたい場所があったら行っていいですよ。どこに行くか教えてくれれば。」

 4階につくと慶人はその言葉だけ残して展示を楽しみ始める。あまり表情は変わっていないが、その足取りは心なしか軽い気がする。

 その後も3階、2階と降り、ちょうど約束の20分前に1階の展示も制覇する。エレベーターで6階に上ると大和達が入り口で待っていた。

「遅かったね響ちゃん。」

 いつもは時間ギリギリにくるような大和が威張っているが、実際は入館1時間で大和が飽きてここでだらだらしていたらしい。それに2時間で全て見て回ることはさすがに難しいようで、1時間でも回れたのは1階だけのようだ。それと比べれば慶人のルート選択は効率的だったらしい。

「優大、早く。」

 そんな俺らの情報交換に飽きた大和は、待っている間に買ったチケットを持ってプラネタリウムのシートに座ってしまっている。

 席は満席ではないが、それなりに埋まっている。

 しばらくして証明が落ち上映が開始すると、あれほど楽しみにしていた大和は直ぐに寝てしまいその寝息が地味に煩わしかった。


「はぁ、楽しかった。」

 約30分の上映が終わり、明かりがつくと同時に人が出口に流れていく。

 大和もその騒がしさで目を覚まし出口に向かうが、慶人はなぜか深くシートに腰掛けている。寝ているわけではなく、余韻に浸っているようだがこのままだと2人に置いて行かれる。

「慶人、いくぞ。」

 そんな俺の声で上映の終わりに気付いたようで慌てて立ち上がっている。

「楽しめたか。」

 こんな慶人を始めて見て嬉しくなり、素っ気ない返事を予想しながらもそんな質問が口をついてしまう。

「はい。ありがとうございます。」

 表情は相変わらず素っ気ないが、予想以上の明るい返事に俺が戸惑ってしまう。

「その、星とか好きなのか。」

 そんな俺の質問に慶人は少し寂しそうな表情を返す。

「多分好きだったんだと思います。でも、今はもう。」

「そうか。」

 それ以上突っ込めない。慶人にもいろいろあったのだろう。

 その気まずい沈黙のままで隣の図書館に向かう。こちらも科学館の経営者と同じ人が開いている場所らしい。その影響で蔵書も図鑑や科学誌も充実している。

 大和が珍しく気に入った本を選んだようで、静かに本を読んでくれているおかげで静かに本を見て回れる。

 装飾は派手さのない落着いた雰囲気で、読書の意欲をさりげなく刺激するような雰囲気を持っている。蔵書の並べ方も読み手を引きつける感じだ。

 適当に本を手に取りめくりながらこの図書館の雰囲気に身を委ねる。


 俺は小さい頃、まだお母さんが元気だった頃、読書が好きでよく図書館を訪れていた。毎日図書館に訪れて本を読み漁っていたあの頃の夢は司書だった。

 父に引き取られてからもずっとそれを夢見て、進路選択の時、司書になる道をいろいろと探った。だが、その時は夢を追うことより家を出ることを最優先に考えて諦めてしまった。

 そんなこんなで高校での進路選択。その頃にはそんな夢もなくなってしまっていた。今でも本は好きだけれど、他に好きなことができた。楽しいことは本の外にもある。

 だから、今はこうやって図書館を訪れて回るのは俺の趣味になっている。図書館の静かな空間に来ると母さんと一緒にいるような気がするから。


「おい、響。もう時間だぞ。」

 優大の声で物語の世界から引き戻される。もう少しで読み終わる程度のページしか残っていないが、もう閉館30分前だ。仕方なく書名だけ控えて図書館を後にする。

 今日まではあのホテルに泊まるから今夜もどこかで夕飯を食べないといけない。車に乗ると直ぐに話題はそのことに移る。

「僕寿司が食べたい。」

 食い意地の張った大和が助手席でうるさく騒いでいる。

 他の3人はあまり食に関心がないからか、大和の主張が通りホテルに帰る途中で見かけた回転寿司に入る。それぞれでお会計、と決めたのに自分の所持金以上を食べた大和の無茶ぶりで割り勘になった。会計は五千円を超えたのにそのうち俺と慶人が食べたのは2割にも満ちていないだろう。

「はぁ、美味しかった。」

 満足げな大和に呆れながらホテルへと向かう。満腹になったからか既に慶人は寝ぼけている。

「ねぇ響ちゃん。ケイ君とはどう?」

 気分がよくなった大和が面倒なほど絡んでくる。普段も煩いが、こういうハイテンションな大和が1番嫌いだ。

「どうって、うーん、少しは仲良くなれたんじゃないか。」

 一緒に外出している時点でもうただの同僚の域を超えているが、俺はまだ友達と言うほど慶人を知らない。こんな状態で友人を名乗られても困るだろう。

「もう、そういうときは友達だ、っていえばいいんだよ。なんで分かんないかな。」

 俺の適当な返事はお気に召さなかったようで、優大相手にぶつくさと文句を言っている。そうやって面倒な反応をするくらいなら、始めから優大と喋っていて欲しい。そちらの方が優大も嬉しいだろう。

 結局質問の意図も理解できずモヤモヤした気持ちのまま俺はホテルに着く。すっかり寝てしまった慶人を起こして部屋入り、自分のベッドに入ったことを確認してシャワーを浴びる。

 今日はベッドを1人で広く使える。慶人とのよく分からないこの小旅行も明日で終わりだ。

 明日になればまた日常に戻れるだろう。

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