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すれ違いだらけの俺の運命  作者: 甘衣 一語
旅行
6/40

挨拶

 卵の焼ける香ばしい匂いと音に目を覚まして、手元の時計を見るともう8時だ。隣の布団はもう押し入れに入れられている。

「おはよう。」

 キッチンに行くと、慶人が朝食を作っていた。

「あ、平宮さんおはようございます。作りたかったですかね、遅かったので勝手に作らせてもらいました。すいません。」

 どうやら朝食を作ってくれたようで、手際よく卵焼きが皿に盛り付けられていく。わざわざ朝食を作るために卵を買いに行ったらしい。

「そんじゃ、いただきます。」

「はい。」

 卵焼きに味噌汁、白米と和の献立だ。普段から朝食を食べる習慣がない俺にとって、こんなまともな朝食は初めてだ。

「うま。」

「本当ですか。よかったです。」

 昨日慶人が俺の料理を褒めてくれたが、慶人の方が上手な気がする。それに、卵焼きの甘めの味付けが俺の口に合っている。

 朝食はお礼にと俺が食器を洗う。慶人は申し訳なさそうにしていたが、寧ろ俺の方が感謝しないと行けない。客人に色々として貰っているのだから。

「じゃぁ、ちょっと走ってきてもいいですか?」

「ん、あぁ、いいよ。あんま遠く行き過ぎんなよ。」

 この辺りは大通りを逸れると道が入り組んで迷いやすいから、と忠告するが少し不機嫌な声が返ってくる。俺が慶人を子ども扱いしているとでも思ったようで、それ以上言うとムキになって逆に変な場所に行きそうで何も言わず扉が閉まる音を聞く。何かあってもスマホは持っているから大丈夫だろう。

「行ってらっしゃい。」

 慶人を見送って、皿を片付ける。朝からこんなに爽やかなの初めてで、朝食の偉大さを感じる。

 仕事がなくなり、掃除のやり残しがないかと見て回ると、昨日応急処置した床下が目に入る。そろそろちゃんとした人に見て貰った方がよいだろう。こういうときは店のおばちゃんに聞くのが1番だ。

 外出の用意をして、慶人のMINEにも連絡を入れる。

『ピコン』

 メッセージを送ると同時にリビングから着信音が鳴る。椅子の上で慶人のスマホが光っている。

「あいつ。なにやってんだ。」

 これじゃ、迷っても調べられない。変なところに入っていないと思うが、大丈夫だろうか。

 念のため慶人のスマホも持って家を出る。慶人はどっちに行っただろうか。この家のある道横道にそれなければ大通りまでずっと真っ直ぐだ。右に行けば俺が慶人に教えた大型スーパー、左に行けばいつもの店に着く。右側は道はまっすぐだが人が多い、走るなら左側だろう。ここの道は最終的に行き止まりになる。慶人が変な道に入ってなければ必ず会えるはずだ。

 俺は店に向かって歩き出す。近所の人に聞けばこちらで合っているようだ。


「おーい、おばちゃんいる。」

 慶人に会えないまま店に着いてしまった。

「あら、響くん。どうしたの。」

 声を掛けると店の奥の和室からおばちゃん達の顔が現れる。

「ちょっと人探してて。家、古くて床が抜けてるから修理してくれそうな人知らない。」

「あら、それなら。」

「俺、俺がやってやんよ。」

「もう、健太郎さん。盗み聞きは趣味が悪いですよ。」

「まぁ、いいじゃないか。」

 どうやらあの狭い和室に10人ほどいるようで男女の賑やかな声が漏れ聞こえる。この辺りには公園もないから皆この店の奥でお喋りをするのだ。

「それで、あんた、元徳(げんとく)さん所の孫だろ。あそこの家の修理なら俺がやってやるよ。」

 元気そうなじいさんが草履を履いて部屋から出てくる。俺の祖父母がいた頃よく家に来てお喋りしていた人だ。もうあの頃から10年以上経っているが、変わらず元気にしているようだ。

「ほんとうですか。あ、それで修理代は、。」

「そんなのいらないよね、健太郎さん。私たち(はす)さん達にはお世話になったから、そのお礼よ。どうせ、健太郎さんも今暇してるし、ドンドンこき使いなさい。」

 健太郎さんが答えるより先におばちゃん達から返事が返ってくる。

 元徳、蓮とは俺の祖父母の名前だ、2人とも地域の人に慕われたいたようでここに来ればその名前をよく耳にする。

「そんじゃ、今から行くか。それじゃあな、また明日な。」

 健太郎さんは俺の腕を引きながら店を出て行く。俺の方が断然若いのに振りほどけないほど力が強い。

「ちょ、痛い。行きますから放してください。」

「おぉ、悪かったな。久しぶりに仕事が入ったからつい。まぁ、とりあえず、俺の家に寄って道具を取るぞ。」

 健太郎さんは俺を置いてズンズンと道を進んでいく。祖父母の家から3つ隣の家が健太郎さんの家らしい。負けず劣らずの和風な家だ。

「えぇっと、響だったか、ちょっと手伝ってくれ。」

 門の前で入っていいか迷っていると健太郎さんから呼ばれる。

 大きな小屋の中に入ると、健太郎さんが机に並ぶ道具を箱の中に詰めていた。

「これと、あとこれ、これを持って行ってくれ。」

 健太郎さんの指示に従いながら道具を道具箱に入れていく。

「よし、これでいいだろう。ちょっと、冏子(けいこ)につたえてくるから先に行っててくれ。」

「はい。」

 大声で名前を呼びながら健太郎さんは家の中に入っていく。俺は道具が詰まった箱を持って家に帰る。


「あ。」

 慶人が家の玄関で座り込んでいる。そういえば、慶人のことをすっかり忘れていた。

「どこ行ってたんですか。」

「ごめん、床の修理してくれる人探してて。しかもお前スマホ忘れてるし。」

 かなり長い間待っていたようで日陰で見ても気付くほど顔が赤らんでいる。

「とにかく中にいれてください。」

「あ、あぁそうだな。」

 俺は鍵を開けて中に入る。スマホを取り出し、片方は慶人に返す。

 俺が家を出てから40分も経っている。こんな炎天下でずっと火に当たっていたら数分でも俺なら参る。そんな場所に数十分もいたら、そりゃ、泣きたくもなるだろう。

「おーい、響。きたぞ、どこを直せばいい。」

 玄関を開ける大きな音共に元気な声が家中に響く。

「じいちゃん達の寝室の縁側、あそこが床抜けてて、多分他もいくつかもろくなってるから確かめて直してといてもらえるか。」

 リビングから顔だけ出して修理して欲しい場所を伝える。この家には何度も来ているから場所なら分かるはずだ。

「おう、あの部屋な。わかった。ちょっと、工具を使うからうるさくなるかもしれんがいいか。」

「あぁ、いいよ。家ん中も好きに見てくれ。」

 貴重品は俺のカバンに全て入っているし、健太郎さんはいい人だ、問題ないだろう。

「誰ですか。あの人。」

 突然の来訪者に慶人は警戒心を強めている。大和に対してもこれほど警戒しないだろう。

「健太郎さん。昔大工だったらしくて、昨日お前が開けた穴とか直してくれるらしいぞ。」

「そうですか。」

 悪い人じゃないと説明するが、かなり警戒している。

「まぁ、俺たちも掃除するぞ。それが終わったら墓参りだな。もう少し休憩してからでもいいけどどうする?」

 まだ慶人の顔は赤い。一応麦茶を飲んで一息ついたが、もう少し休憩しないと途中で倒れるかもしれない。

「大丈夫です。何をするんですか。」

 もう少し休んでいろと勧めるが、頑なにそれを拒む慶人に俺が折れる。

「まぁ、いいか。疲れたらちゃんと休めよ。」

 俺は持ってきた帽子をひとつ慶人に渡し外に出る。さっきよりさらに暑くなっている。

 家の裏の倉庫から脚立や剪定ばさみ、ブルーシート、ホウキを出して生け垣まで運ぶ。

 生け垣の下にシートをひろげ、その上から脚立を立てる。

「よし。慶人、俺が乗るから脚立押さえておいてくれ。」

「はい。」

 少し不安定な脚立に乗り、形状を想像しながら剪定していく。太陽の日に当てられて次から次に汗が出てくる。暑さで集中力が途切れ、少しずつ休憩しながらなんとか全ての生け垣を整え終える。道側の剪定も可能な限り終わらせて、気付いたらもう12時前だ。

「おーい、響。大方終わったぞ。」

 家の中からの健太郎さんが叫んでいる。

「あんたが言ってた場所と、あと他3箇所くらい。直してあるからもう大丈夫だぞ。ただ、あんま跳ねたりはするなよ。この家自体大分古いからな。それじゃ、俺はここで帰るわ。また今度な。」

 そう言ってまた盛大な音で扉を閉め、帰って行く。もし、家に寿命があったら今のせいで10年くらい短くなっただろう。

「騒がしい人でしたね。」

 慶人はうっとうしそうにつぶやきながら道具を片付けている。ブルーシートの上に集った枝をホウキで集め。ブルーシートの外の枝は昨日作ったの草の山まで運ぶ。

 脚立とホウキを倉庫にしまい、代わりにスコップを取り出す。

「土に埋めるんですか。」

 本当はごみとして出したいがこの地域のごみ区分で枝を出すのは面倒なのだ。土に埋めれば、次来るときにはどこに埋めたか分からなくなっている。

 腰の高さまで穴を掘り、抜いた草や枝をすべて入れる。最後に埋め戻し、上から踏み固める。

「よし、これで終わり。早く家はいるぞ。」

 さすがの暑さでかなり汗だくだ。

 急いで荷物を片付けて部屋に入る。日差しがないだけでかなり涼しい。熱中症にならなくてよかった。


「おい、慶人。昼は何食べたい。」

「冷たいモノがいいです。そうめんとかでいいですよ。」

 なんでもいい、といわれると思っていたので、意外な返答に驚く。確かに、この暑さじゃそうめんが無難だろう。

 いつものようにお湯を沸かし、そうめんを茹でる。ついでにスモークチキンも作り、そうめんには前回来たときに置いて帰っていたミカンの缶詰を飾る。スイカも切り、机に運ぶ。

「いただきます。」

「召し上がれ。」

 体力作業で疲れたのか、あっという間にそうめんがなくなる。

「必要ならもう少しゆでるけど、大丈夫か。」

「はい、ごちそうさまでした。」

 今回も慶人が皿洗いを始める。

 慶人は俺より食べるのが速い。俺が食べ終わる頃には皿をまとめて運び始めるので皿洗いを断れない。

「俺、ちょっとシャワー浴びてくるわ。」

「分かりました。」

 さすがに、墓参りにこの汗臭い格好では失礼だろう。

 軽くシャワーで汗を流し、服を着替える。さっきより大分涼しくなった。

「おーい、慶人。お前も浴びるならシャワー浴びてくれ、早くしないと洗濯できない。」

 リビングでスマホをいじっている慶人に声をかける。

 夏とはいえ乾くには時間がかかるから、早く洗濯したい。

「あ、洗濯はいいですよ。持って帰りますし。」

「いや、結構汗かいただろ。1人でも2人でも大して変わらないから大丈夫だ。」

 寧ろ、一人では

「わかりました。シャワー浴びてきます。」

 渋々浴室に向かってくれる。


 出てきた慶人から服を受け取り洗濯機に掛ける。その間に倉庫から自転車を取り出し点検をする。墓地までは距離があるので自転車で行くのだ。

「一応、確認だけど、慶人は自転車乗れるよな。」

「馬鹿にしないでください。乗れますよ。」

 スイカの件で少し不安だったが、さすがに大丈夫だったようだ。

 自転車はもう一年使っていない。チェーンにさびはないがホコリやクモの巣でかなり汚れている。ブラシで洗っている間にちょうど洗濯も終わっていた。

 洗濯物を外に干し、窓を確認し、墓参りだ。


 実家は山の麓に広がる平坦な住宅街の一角にあり、墓地はその山の中腹当たりにある。緩やかな山の傾斜を登り、所々で休憩しながら40分かけて墓地に着く。墓地横の広場で地域住民らしき人たちがゴルフを楽しんでいる。墓地の入り口に自転車を止め、バケツに水を汲み、ホウキやチリトリと共に墓まで運ぶ。

 墓の周りを掃き、墓石を磨く。花は明日、店のおばちゃんが持ってくると言っていたので今日はそのままだ。墓の横に置かれているロウソクを立てて火を付ける。線香に火を付けて、立てる。

 慶人も俺の動作をなぞる。こいつの出生は分からないが、墓地に来たときから目新しく視線が動いている。共同墓地を見るのは初めてなのだろう。

 俺は手を合わせ、心の中でかあさんに語りかける。


『かあさん。俺は元気にしています。友達もいるし勉強も楽しい。俺は母さんの息子として恥ずかしくないよう、真面目に生きています。また、来年も来ます。』


 いつもと同じような近況報告をして俺は目を開ける。気付けば慶人が不思議そうな顔でこちらを見ている。

「なにしてるんですか。」

「なにって、まぁ、かあさんに俺は元気ですって報告を、って、そんなことどうだっていいだろ。用事は終わったし、返るぞ。」

 途中まで真面目に答えていた自分が恥ずかしくなり、誤魔化すように片付けを始める。

「お前はしねぇのか、墓の前で死者に対して挨拶とか。」

「まぁ、いいや。返るぞ。」

 さらに追求してくる慶人を連れ、帰路につく。帰りは楽だ。

「あの、平宮さん、先ほどのはお母さんの墓、ですよね。」

 俺の横に自転車を並走させ、慶人が聞いてくる。

「あぁ、正確には実家の、じいちゃんとかばあちゃんとかのも入ってる。」

「そうですか。」

 なにか勝手に納得したようで、うなずきながらスピードを下げまた後ろをついてくる。


「ただいま。」

 家に着いたらまた、倉庫に自転車を直す。次使うのは来年だろう。ついでに洗濯物も取り込み部屋の中に入る。すでに干してから2時間経っている。この暑さで、乾くのはあっという間だ。

 窓を開ける。

 畳んだ服を仕分けて慶人の分は返し、俺の分はタンスの中に入れる。次来るときの荷物はできるだけ軽くしたい。

「あの、平宮さん。このあとは、なにするんですか。」

 もう墓参りまで終わった。掃除も終わったし、することはない。明日からの予定はないが、慶人は元々一泊二日の予定で誘ったのだ。今日のうちに帰った方がいいだろう。

「もう、返るか。ちょっと待て、バスと電車の時間調べる。」

 俺はポケットからスマホを取り出す。しばらく見ていなかった間に通知が溜まっている。ほとんどが大和と優大からだ。

「っと、」

 タイミングよく電話が来る。

「どうした、優大。今実家か?」

 車で移動中のようで、電話越しにエンジン音と騒がしい声が聞こえてくる。

『いや、それよりお前、今どこだ?』

「実家だよ。ちょうど帰るとこだ。それがどーした。」

 優大には今日には用事が済むから、遊びたければ明日からと伝えてある。

『よし、それじゃぁ海行くぞ。今そっち向かってるから動くなよ。』

「はぁ?」

 俺の反応で慶人が心配そうに顔をのぞかせる。

「どうゆうことだよ、慶人はどうすんだ。って、おい、おい。」

『・・・』

「はぁ。」

 俺の言葉も聞かず切られてしまった。

「どうしたんですか。」

 慶人が不思議そうな顔をしている。俺も状況が理解できていないから、尋ねられても困る。

「ん、あぁ。いや、あの、慶人。もうしばらくここにいてもいいか?」

 さすがに急すぎるから、最悪慶人だけで帰ってもいいけれど無事帰れるか心配だ。

「?いいですよ。急用ですか。」

「まぁ、そんなとこ。」

 海に行くかもしれない、とか言ったら怒るだろうか。というか、どうすればいいんだ。

「その、慶人。おまえ、明日とかも俺に付き合ってくれたりとか・・・無理だよな。」

 無理だったら優大にはそのまま返ってもらおう。そもそもこんな急に押しかけること自体おかしいのだ。

「いいですよ。」

 不思議そうにしながらも、理由を聞かず返事が返ってくる。今回の件もそうだが、あまりそういったことを気にしない性格なのだろうか。それより、今まではすることがあったが、それもあらかた終わってしまい2人でいても会話が続かない。リビングの静寂が堪える。

 優大、早く来てくれ。


 電話から約1時間。俺の家の前に真っ赤な軽にのって優大が到着する。当然、大和も一緒だ。当たり前のように家の車庫に車を入れ、家の中に入ってくる。

 こんなことになるなら、去年連れてこなければよかった。

 慶人が少し警戒しながら玄関で2人を出迎える。いつも誘われている相手にも関わらず、慶人は大和のことを覚えていないようだ。

「あ、やっほ、ケイ。じゃなくて慶人くんがいいかな。」

 そんな対応にもめげずに大和はいつものように暢気に慶人に話しかけている。なんで大和はここまで慶人にこだわるのだろうか。

 その後ろで優大が申し訳なさそうに立っている。大体予想していたが、あの急な誘いも大和にお願いされたからだろう。優大はなんだかんだ大和に甘い。

「急にごめんね、慶人くん。俺は白崎(しらさき)優大。こっちは園崎(そのざき)大和。俺ら響の友達だから、よろしく。」

「はぁ、そうですか。よろしくおねがいします。」

「そう、僕が好きなのはかわいい子と、あと、えっと、」

「おい、大和。海に行くってどういうことだよ。」

 その場で自己紹介が始まりそうな雰囲気を感じて話題を変える。いつまでも大和の勢いに流されていたら疲れるだけだと、この2年ほどで俺は学んだ。

「あぁ、そういえばそうだった。まぁここじゃなんだし、とりあえず中に入ろう。」

 そんな俺の怒りが伝わっているのか、自分勝手に家に入り勝手に麦茶まで飲んでいる。優大が諦めろとでもいうような表情で通り過ぎてゆく。そんな表情をするならちゃんと制御していて欲しい。


「それで、なんで、2人はここに来たんですか。」

 全員が席に着いたことを確認して、慶人が口を開く。その口調は若干怒っているようにも感じる。当然の反応だろう。

「その、ケイには申し訳ないんだけど、大和が4人で海に行きたいらしくて。」

「そうそう、響ちゃんがいないとつまらないから、ならついでに慶人君もって思って。」

 説明を中断して大和は嬉しそうに話している。

「大和がずっとこの調子だから、お前らで判断してもらおうと思って待っててもらったんだ。」

 そんな優大の発言を聞いて大和は満足そうに笑いながら俺らの返事を待っている。優大の気苦労が窺い知れる。

 大和のこんな突拍子もない提案はいつものことだが、なんで慶人まで巻き込むんだ。

「僕は響ちゃんが行くって言うまで動かないからね。せっかく、眺めのいいホテルも4人分予約したんだから。」

 こいつ、なんでムダに行動力があるんだ。

「せっかくの予約代が無駄になるから、頼む。」

 どうやらお金は優大のバイト代から出されているようで、優大が懇願するように俺らを見ている。

 正直、俺はいいのだが、慶人次第だ。

「あの、平宮さん。いいですよ。盆休みの間は予定入ってないので。」

 今までずっと黙っていた慶人がおずおずと話に入ってくる。

「いいのか。」

「はい、予約代もったいないですし。」

 心配していたほど嫌そうな顔もしていない。俺だけが渋っているようで釈然としない。

「じゃぁ、決定だね。」

 そんな俺を無視して大和は立ち上がり、まとめていた荷物を持って車に向かってしまう。優大もその後を追う。

「おい、おまえら。」

 俺は行くとは言ってない、なんて言ったところでもう遅い。慶人も家を出る準備をしている。

「平宮さんは嫌ですか?」

 まだ椅子に座ったままの俺を慶人は気に掛けているようで、部屋の入り口で振り返って尋ねてくる。

「はぁ、あぁもう。いいよ、行く。行けばいいんだろ。」

 俺は大和の使ったコップを洗い、戸締まりをして車に向かう。優大の運転で車が走り始めた。

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