誤解と未来
この世界には男女の他に第二の性がある。発情期があり、男女共に妊娠が可能なω(オメガ)。身体能力や知能が優れたエリート階級のα(アルファ)。人口の9割を占めるβ(べータ)。
オメガの発情期は数ヶ月に一度、数日続き、アルファを惑わすフェロモンを体にまとう。発情期中にアルファがオメガの項を噛むと運命の番となり、番以外へのフェロモンの効果は無くなる。さらに、オメガは番以外に対して拒絶反応を示すようになる。番契約は一度しかできず、解約はできないため事故で番になることがないように、オメガの中には項を保護するチョーカーを着けている者もいる。
そんな、生まれながらの運命が定められている。
「おっはよう、響ちゃん。」
駅の改札口付近で俺を待ち伏せていた大和が俺に大きく手を振っている。
「ねぇ、なんで昨日は来なかったの。待ってたんだよ。」
少しいじけたような声で聞いてくる。優大の視線が痛いから抱きつくのはやめて欲しい。
適当に返事をしながら、昨日のことを思い出す。
慶人がバイトに向かった後で我に返ると恥ずかしさが募ったけれど、同時にうれしさも溢れて咲ちゃんの前でいつも通り振る舞うのが大変だった。まだ色々と不安なこともあるし、慶人はああ言ったけれど俺の番契約のことも自分の中ではまだ解決し切れてはいない。けどまぁ、とりあえずはいいだろう。
2人にも一応その報告をする。大和が煩そうだから言おうか迷ったけれど、流石に心配してくれた友人に伝えないのは失礼だろう。
家では入学を間近に控えて浮き足立っている咲ちゃんが先に帰って待っている。この前の説明会でもらった教科書に自分で名前を書いている。少し歪なその文字を見てはにやけ、とても可愛らしい。
それとは反対に慶人とはあまり話せていない。原因は俺にあるのだが、どうしようもない。恋愛初心者の俺は、恋人とどう接すれば良いか分からず目が合う度に逸らしてしまう。
慶人と恋人だという事実がどうにもこそばゆく、緊張ばかりの日々だ。
いつまで経っても手をつなぐことすらできない俺に慶人はどう接すればよいのか考えあぐねているようで、以前ほど話しかけてもくれなくなった。恋人になったはずなのに、状況は以前の状態に戻っている。そんな少しギクシャクした関係のまま時間は流れ、咲ちゃんの入学式が終わった。
今は友達と一緒に楽しそうに学校に行き、放課後は前のように友達の家で遊んでいるらしい。宿題もそこで終わらせて帰り時間は前とそれほど変わらない。夕飯の時間には学校や友達の話をして場を盛り上げようとしてくれる。食事中にお喋りをするような性格ではない咲ちゃんは、俺らの最近の雰囲気になにか気付いているようだ。そんな咲ちゃんの話に俺たちは相槌を打つだけで前と比べると味気ない食卓になってしまった。
慶人はそんな臆病な俺を揶揄ってくるが、大和にだけは言われたくない。
ただ、流石にこのままじゃいけないのは分かっている。散々避けてきて引き際が分からなくなってしまったし、話を切り出すタイミングが分からない。そんなままで俺の3年は始まった。慶人の誕生日までも時間がないのに関係は悪化していくばかりだ。
慶人の誕生日まで残り1週間もなくなったある休日の1日。咲ちゃんはいつもの友達の家にお泊まりをすることになった。こんな状況で2人きりにしないで欲しいとそれとなく訴えたのだが、聞き入れてもらえなかった。バイト中はよいのだが、夕飯の時間。普段は喋ってくれている咲ちゃんがいなくて食卓は静かだ。最近は料理の感想もあまり口にしなくなって、自分のせいだとは分かっていても少し寂しい。
最近は恥ずかしいという気持ちもなくなってしまって、残ったのは慶人に対する申し訳なさと気まずさだけだ。それを弁解したいけれど、そのタイミングをうまく見つけられない。大和たちに臆病者と言われても仕方ないが、元々それほど人に気持ちを伝えることは得意ではない。
今が絶好のチャンスなのは分かっている。ただ、口を開いても失敗する状況しか思い浮かばず結局は黙り込んでしまう。それの繰り返しだ。
「あの、平宮さん。」
慶人の声を聞いたのは昨日の「ただいま」以来だ。
「やっぱり、僕の告白、本当は無理に受け入れてくれたんじゃないですか。」
そう告げる声や表情は悲しみと不安を含んでいる。
「そんなわけない。」
断言する。慶人とギクシャクしていてもちゃんと気持ちは伝わっていると思っていた。それなのに、それすら伝わっていないとは思わなかった。自業自得なのに、すごく苦しい。
「平宮さん。全然僕を見てくれないし、本当は嫌だったんじゃないですか。」
違う。
「僕、大丈夫ですよ。平宮さんが嫌なら前みたいに戻っても、そっちの方がいいですよね。」
違う。
そんな顔をさせたかったわけじゃない。もっと慶人を大切にしたくて、笑顔にしたくて、俺と一緒にいて楽しいと思ってもらいたくて、それで勇気を出して返事をしたのにこれじゃぁ意味がない。
「違う。慶人のことは嫌いじゃない。その、むしろ好きで。」
今まで避けてきた分、ちゃんと向き合わないといけない。今度こそ誤解なく慶人に気持ちが伝わるように、そう分かっていてもやっぱり気持ちを言葉にするのは難しい。
「でも、なんで手も握らせてくれないんですか。」
慶人の少し批判するような言葉が心に刺さる。胸が痛い。申し訳ない。
「違うんだ。慶人が嫌とかじゃなくて、今まで恋人がいたことないからよく分からなくて、だから。だから。」
自分の感情すらも上手く伝えられない自分がもどかしい。このままでは埒があかない。焦れったくなって最終手段に出る。ここ最近読んでいる小説で色々と勉強した。けどやっぱり難しそうだからと、自分で用意した切り札。
「慶人。目を閉じて。」
いろんな小説で愛情表現としてよく使われている方法。正直俺がすることになるとは思っていなかったが、慶人は不思議そうにしながらもちゃんと目を瞑っている。そんな慶人は改めてみると、座っていても分かるほど身長が伸びた。あった頃は俺より少し小さかったのにアルファらしい身長で、少し残念な気持ちもある。
椅子から立ち慶人の前に立つ。煩く跳ねる心臓を無視して、慶人の顔に手を当ててそのまま勢いで顔を近づける。慶人の体温を感じて更に心臓が跳ねる。驚く慶人と目が合い、慌てて顔を話す。
今までも何度か、名前も知らない誰かとしたことはあるのに、心臓が苦しくなったのは今日が初めてだ。それなのに心は充実感で溢れている。やっぱり慶人が好きなのだと全身が伝えている。
「その、だから。俺は慶人が好きだから。だから。」
じっと見つめられる視線から逃れようと目を逸らすが、それを慶人は許してくれない。恥ずかしさで顔を追いたい衝動に駆られながら慶人の目を見る。久しぶりに見たそこには今まで通りの優しさと俺への感情がこもっていて、どうしようもなく嬉しくなる。
俺はやっぱり番持ちで、普通の恋人がする当たり前ができない。けど慶人を好きな感情や大切にしたい思いは誰にも負けない。今後のことや兄のこと、まだ解決しないといけない問題は色々あるけれど気に掛けてくれる人もたくさんいる、それに慶人もいるから、一歩ずつ前に進もう。
皆さんこんにちは。
甘衣一語です。間違いだらけの俺の運命を最後まで読んでいただきありがとうございます。
始めて小説を最後まで書きました。飽き性な私には珍しいですね。
すごく拙い文章ですが、なんとか最後まで書けて非常に嬉しいです。読み返してみると改善点も多いですし、また少しずつ書き直していきたいと思います。
皆さん、ここで終わりで少し中途半端な気もするのですが、私が来年から少し忙しくなるので今までの頻度では投稿できなくなります。なので一度ここで連載を終了させていただき、今後は時間ができたときに番外編としてでも少しずつ投稿させていただきます。その時は気が向いたら読んでみてください。
それでは、本当に最後まで読んでいただきありがとうございます。




