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すれ違いだらけの俺の運命  作者: 甘衣 一語
恋人
39/40

つながり

 この世界には男女の他に第二の性がある。発情期があり、男女共に妊娠が可能なω(オメガ)。身体能力や知能が優れたエリート階級のα(アルファ)。人口の9割を占めるβ(べータ)。

オメガの発情期は数ヶ月に一度、数日続き、アルファを惑わすフェロモンを体にまとう。発情期中にアルファがオメガの項を噛むと運命の番となり、番以外へのフェロモンの効果は無くなる。さらに、オメガは番以外に対して拒絶反応を示すようになる。番契約は一度しかできず、解約はできないため事故で番になることがないように、オメガの中には項を保護するチョーカーを着けている者もいる。

 そんな、生まれながらの運命が定められている。

 会社を出たその足で家に向かう。本当は終わり次第講義に参加しようと思っていたのだが、気付いたら大学とは逆の電車に乗っていた。


「おかえりなさい。」

 まだ昼にもなっていないこんな時間に帰ってきた俺を、慶人は戸惑いながらも家に迎え入れてくれる。

 咲ちゃんは既に出掛けたようだ。

「平宮さんは、お昼はどうしますか?今日は弁当作ってないですけど。」

 慶人には今日俺が一樹さんに会いに行くとは伝えていない。俺がただの気まぐれで講義をさぼったとでも思っているようで、昼食の準備を始めている。

 2時にバイトが入っているからその前にちゃんと慶人と話したい。なぜか鼻歌交じりの慶人をジャマしないよう静かに待っていると、しばらくして昼食が並べられる。

 ミートパスタだ。慶人が作る洋食を食べるのは初めてな気がする。

 味付けを失敗したのか少し薄味のそのパスタは、緊張で余計に味気なかった。そのまま食器洗いを始めようとする慶人を呼び止め、話を始める。直前までどう切り出せば分からなかったが、この局面に来てもう後戻りはできなくなった。

「この前の告白、慶人にとって俺が一番大切な存在だって思っていいんだよな。」

 何も考えずに勢いだけしゃべり出す。きっと後で思い出したら恥ずかしくなるだろうが、今はとにかくこの不安を消したい。

「でも、俺はもう番がいてだから番いたくても番えない。それでもいいのか。」

 これは今までずっと考えてきたことだ。番契約を解消する方法は研究中ではあるがまだ見つかっていない。それにこの性自体分かっていないことも多い。

 黙って聞いている慶人からの返事が欲しくて話し続ける。途中から自分でも何が言いたいのか分からなくなるが、慶人に離れていって欲しくない。運命が間違っていて欲しい。

 番持ちのオメガはその番に捨てられたらその後は結婚できない確率が高い。相手が見つかっても、その相手にはフェロモンが効かないから、結局他のオメガが選ばれるのだ。それが番ってしまったオメガの運命で、慶人もいつか運命に気付いたらそちらに行ってしまうのだろうか。

「平宮さん。」

 延々と話し続ける俺を遮るようにそれまで黙っていた慶人が口を開く。下を向いていて表情がよく見えないが、その声は少し怒っているようにも感じる。

「僕は、そんな生半可な気持ちで人を好きにならないですし、告白もしないです。それに、番であってもなくても僕の気持ちは変わらないです。」

 そう淡々と告げる慶人の声には相変わらず怒気が混じっている。兄の1件のような恐怖は感じないが、その怒りの原因が分からないから少し怖い。

「でも、もし運命の番とかが見つかったら。」

 せめて顔が見たくて適当に言い訳を並べると、運命という言葉に反応して慶人が一瞬こちらを向く。またすぐに下を向いてしまうが、一瞬見えたその表情からは怒りが消えていた。

「もしかして平宮さん、一樹さんと会いましたか。」

 しばらくして慶人の口から発せられた答えに驚きを隠せずにいると、慶人は納得がいったようで何か吹っ切れたような笑顔を俺に見せる。

「さっき、小春さんが教えてくれたんです。僕と一樹さんが運命の番だって。なんで教えてくれたのか謎だったんですけど、腑に落ちました。」

 あの人はどこまでも自由気ままだ。大和以上に手に負えない。

「小さい頃一番好きな人は誰かって聞かれたとき、僕は一樹さんと答えていました。色々あった今でも、実家が嫌いな今でも、一樹さんだけは嫌いになれないですし仲良くしたいと思っています。これが運命なのだといわれたらその通りなのだと思います。」

 その言葉からは一樹さんへの愛情が伝わってきて、ここから逃げ出したくなる。これ以上の言葉を聞いていたくない。

 運命の番は惹かれ合う。運命と名がつくくらいだから巡り会わない人も多いが、2人はそれほど幼い頃から一緒にいたのだ。番になるのが普通だろう。

 だからといって手放したくもないし、一樹さんからも頼まれた。

 手放したくはないけれど、慶人から離れてしまうのではと不安だ。

「でも、それに、僕はその運命以上に平宮さんが好きなんです。」

 好きなんです。そう真っ直ぐ伝えられた言葉にどう反応してよいか分からず戸惑ってしまう。そんな返答が返ってくるとは思っていなかった。前に言われた時は慶人が直ぐにその場から立ち去ってしまったが、今はずっと俺の反応を見つめている。これまで好きなんて言われることが無かったから、今度は恥ずかしさで逃げ出したくもなる。

「平宮さんが不安だって言う気持ちも分かりますし、それにまだ返事も聞いてないですけど、恋人になってくれるならずっと平宮さんだけを好きでいる自信があります。今は信じられないかもしれないですけど、少しずつ証明します。だから、僕と付き合ってくれませんか。」

 そう宣言したかと思ったら下を向いてしまい、その表情はよく見えない。

 その返答で俺の答えは決まっている。でも、なかなか言葉にできない。言葉にすることが恥ずかしい。告白なんて俺には関係ないと思っていたのに。

「その、慶人。告白の返事だけど、俺も慶人が好きだから、だから。」

 どうかっこ良く返事を返そうかなどと考えても、結局答えは出ない。一か八かで返事をするが最後の言葉を前に言葉に詰まってしまう。

「だから、だから、俺と付き合って欲しい。」

 ほとんどヤケクソで言葉を絞り出し、そのまま逃げるように下を向く。その一瞬で見えた慶人の顔は俺の恥ずかしさを和らげるのに十分で、やっぱり俺は慶人が好きなのだと、実感するにも十分だった。

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