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すれ違いだらけの俺の運命  作者: 甘衣 一語
恋人
38/40

慶人と運命

 この世界には男女の他に第二の性がある。発情期があり、男女共に妊娠が可能なω(オメガ)。身体能力や知能が優れたエリート階級のα(アルファ)。人口の9割を占めるβ(べータ)。

オメガの発情期は数ヶ月に一度、数日続き、アルファを惑わすフェロモンを体にまとう。発情期中にアルファがオメガの項を噛むと運命の番となり、番以外へのフェロモンの効果は無くなる。さらに、オメガは番以外に対して拒絶反応を示すようになる。番契約は一度しかできず、解約はできないため事故で番になることがないように、オメガの中には項を保護するチョーカーを着けている者もいる。

 そんな、生まれながらの運命が定められている。

「こんにちは。どのようなご用件ですか。」

 場違いな雰囲気の会社の窓口で、俺は用件を告げ部屋に案内される。

 連絡を入れて翌日の朝早くに連絡が来た。やはり社長とは話せないらしいが、あの男の人は大丈夫なようで、直ぐに会う約束を取り付けてもらった。

 指定された場所は会社の支社。本社は実家の近くにあるようで、わざわざこちらまで来てくれるらしい。支社でもかなりの大きさの建物で入るの躊躇っていると約束の時間が迫ってしまい、勇気を入れて足を踏み入れたそこはやはり俺には場違いな場所だった。

「失礼します。」

 案内された部屋に入ると、10個ほどの椅子が円状に置かれただけの小さな部屋であの時の2人が隣り合って座って待っていた。

「あ、早かったね。えっと、響くんだったっけ?私の名前覚えてる。」

 俺を視界に捉えた途端勢いよく話し始める。

 一応挨拶をするが、名前は覚えていない。

「小春ね。ちゃんと覚えてよ。それと、はい。約束通り一樹(いつき)もいるよ。」

 にぎやかな小春さんの後ろで少し迷惑そうにしている男性は、そういえば一樹と名乗っていた。

 明らかに不機嫌な声で小春さんに部屋を出るよう言っているが、小春さんはなかなか部屋から出ようとしない。やっと2人きりになった頃には俺が到着してから30分が経っていた。俺が来る前も小春さんのおしゃべりに付き合わされていたのであろう一樹さんは少し疲れた顔をしている。

「すいません。お手数をおかけしました。それで、私にどのような用でしょうか。」

 そんな表情も直ぐに無表情に変わり、俺に椅子を勧めながらも無駄話をせず本題に切り込んでくる。

 どう言えばいいのだろうか。慶人がまだ話していない内容を暴くのは、やっぱり躊躇してしまう。

「いや、その。咲ちゃんのこと本当にこのまま引き取っていいのかなと思って。上の人とは話す機会もないから。」

 こちらも聞きたかったことではあるが、そんな俺の言葉を受けて一樹さんは困ったように眉を下げる。

「まぁ、それもあるだろうけど、本当は僕と慶人の関係を聞きたいんでしょ。」

 違う?と困った表情のまま尋ねられるが、頭は混乱するばかりだ。

「その様子じゃ図星かな。まぁ、とりあえず座って。」

 そう言われて始めて俺が立っていることに気付いた。どんなに動揺してるんだ。

「じゃぁ、まずはとりあえず咲についてだけど、多分祖母も、慶人の両親も育てる気はないだろうから、申し訳ないけどお願いしたい。もし必要な費用があれば僕でよければ出すから。」

 俺が座ったことを確認して一樹さんは話し始める。さっきまでの無表情はなくなり雰囲気も少し柔らかくなる。あの日の張り詰めた空気が嘘のようだ。

「そう、ですか。」

 咲ちゃんを育てること自体に抵抗はないが、咲ちゃんは今もいつか実家に帰ってこれると思っているだろう。事情を伝えるのは重大なことだ。

「慶人にも、君にもこんな役目を押しつけてしまって申し訳ないけれど、これが僕らの家の普通なんだ。」

 そういう一樹さんの瞳は悲しそうに揺れている。一樹さんもその普通に振り回されてきた1人なのだろう。

「君がどこまで聞いているか分からないけど、僕らの家系はオメガが生まれやすい。というより僕らの血が通っていれば必ずオメガが生まれるんだ。」

 それは慶人から聞いている。オメガが生まれやすく、ベータは少ない。アルファなんて生まれたこともないから。だから慶人と咲ちゃんの現状があるのだと。

 だが、一樹さんの言う言葉はそれとは少しニュアンスが違う。もっと断定的にオメガだと言っている。それはつまり、

「そんな家系でアルファやベータが生まれる理由は1つ。その子が僕らと親戚じゃないからだ。」

 つまり慶人と咲ちゃんがこの一族の子ではないと言うことだ。

「2人の母親は嫁いできた人だからね。」

 その言葉が全てを伝えてくれる。

 慶人と咲ちゃんはずっとあの母親に振り回されてきたのだ。あの日会った2人の母親。一瞬だけ見たその姿は、酷く自分勝手な雰囲気だった。慶人と咲ちゃんを小学生になるまでしか育てなかった人。元々それほどよくなかったその人への感情は怒りへと変わる。

「でも、あの人がこの会社では重要な役割を担っていて、経営の腕は一流だからね。」

 そういってなんども謝る一樹さんを見ていると、怒りも消えていく。一樹さんは悪くない。

 お互いなぜか謝ってそのまま口を噤む。その静寂を破ったのは一樹さんの方だった。

「それで、本題の方だけど。」

 そういえば、話題が逸れてすっかり忘れてしまっていた。居住まいを正して向き合う。

「それじゃぁ、聞くけど君と慶人はどんな関係。」

 その口調は俺を試しているようでもあるが、どちらかというと親戚の子どもの恋愛事情を聞くお兄さんのようだ。

「俺と慶人は、そのまだ友達で。」

 まだ、俺が慶人への返事を待っていてもらっているから恋人とは名乗れない。慶人が言っていた友達としか名乗れないことの歯がゆさが少しだけ分かる。

「そう、まだってことはいつかはそうじゃなくなるってこと?」

 予想外の鋭い問いかけに慌てていると、それを肯定と捉えて面白そうに笑っている。

少しさっきの小春さんを彷彿とさせる。

「まぁいいや。慶人にも大切に思ってくれる人ができて良かった。」

そんな兄らしい発言から一樹さんの話は始まる。

「運命の番って知ってる?アルファとオメガの。」

 唐突な質問に困惑しながらも俺は首を縦に振る。実際運命の番は存在するようで、最近咲ちゃんの見ているニュースでもそのことが話題になっていた。

「君にこんなこといっても困惑させるだけかもしれないけど、僕と慶人は運命の番なんだ。」

 思わず素っ頓狂な言葉が出てしまう。確かに、さっき言った通り血のつながりがないのであれば運命の番の可能性はある。けれど、そんな身近にいて気付かないはずがない。

「慶人が気付かないのも無理はないよ。両親や親戚が総出で隠していたからね。本当、慶人には申し訳ないことをしたけれど、きっと気付いていたら今以上に苦しんでいたから。」

 そう話してくれているけど、それ以上の詮索は受け付けない雰囲気を醸し出している。慶人はきっと、俺にまだ話せていないこともたくさんある。そう感じた。まぁ、それを聞き出すつもりはない。無理にトラウマをこじ開けてもいい結果は出ない。

「けれど、本当によかった君がいてくれて。僕じゃできないから、慶人を幸せにして欲しいんだ。」

 その口調には少し悔しさが残っているが、慶人の幸せを願っているのは本当だろう。そうでないと運命を奪う俺にこんなことは言えないはずだ。

 どちらにしろ俺のすることに変わりない。一樹さんの言動一つ一つから慶人への愛を感じる。その愛を俺に譲ってくれたことに感謝しならが会社を後にする。

 今後も困ったことがあったら連絡をするようにと連絡先を交換してもらった。

 いつか2人がまた仲良くしてくれたら、と思う気持ちとそうしたら慶人を取られてしまうのではという気持ちとが少し交錯しているが、今日はとりあえず慶人への気持ちにしっかりとけじめをつけられただろうからそれで満足して、後のことはまた今度考えよう。

 それよりも俺は告白の返事を考えないといけない。いつもみたくかっこ悪い姿は見せたくない。

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