自覚
告白の1件から約1ヶ月。大和との約束通り返事を試みては諦める日々が続いている。言い出すタイミングがつかめないまま月日が流れてしまい、明日はもうホワイトデーだ。
ということで咲ちゃんは泊まりがけでホワイトデーのチョコ作りをするらしく、今日は慶人と2人きりだ。咲ちゃんが来てから初めての2人だけの夜を過ごさなければならない。
返事をする絶好のチャンスではあるのだが、未だに心の準備ができていない。大和はああ言っていたが、慶人のことを好きかどうかも分かっていないような俺が返事をして、本当によいのだろうか。
大学から帰ってきて既に30分ほど経っているが、部屋には気まずさが流れている。さっきまで調理器具を片付けていた慶人も今は静かに俺の向かいに座っている。いつもなら咲ちゃんが話の話題を作ってくれるのに今はそれがない。
「夕飯何が食べたい。」
もう献立は考えてあるのに、そんなことしか話の話題が浮かばない俺が恨めしい。予想はしていたが慶人から要望を受けることはなかった。以前もあまり自分の要望を伝えてくれなかったが、残念だ。
そうしてまた気まずい時間が流れていく。勉強道具を机に広げるが、全く集中できない。
本当はもう少し後の予定だったが、台所に立ち夕飯の準備を始める。いつもは咲ちゃんに合わせた料理を作っているので、今日は慶人の好きな献立だ。
その間も俺たちの間に会話はない。慶人は何かを考えているのか、料理を並べても反応がない。
「慶人、できたぞ。」
そう声を掛けて始めて夕飯の用意ができていることに気付いたようで、食卓に並ぶ好物の数々を見て表情が明るくなる。やっとこちらを見てくれたが、また直ぐに視線が下がってしまう。
そのまま静かに食事は終わりまた気まずい雰囲気が流れるが、いい加減俺も勇気を出さないといけない。この空気の原因は俺が返事をしないからだ。だから、
告白を受けるにしろどちらにしろ、早く返事をしないといけない。
「あの付き合って欲しいっていうことなんだけど。」
そういって話を切り出すが、何を伝えたいのかもイマイチまとまっていないままで、しどろもどろになってしまう。
「俺、初めてだから驚いて。」
あの日は、兄に会った直後だったことも相まってひどく動揺してしまっていた。告白なんて俺が覚えている限りでは初めての経験だった。もしかしたら古寺さんの時のように俺が覚えていないだけかもしれないが、とにかく慣れていない。
どう反応したらよいかもわからず避けるしかできなかった。
あの告白は本気なのか。俺のことが好きなのか。付き合わなくても友達のままで十分じゃないか。言いたいことは色々ある。言葉にできずに心の中でくすぶり続けている。そんな疑問の中で口に出たのは一番俺が聞きたいことで、一番俺が聞けないと思ったことだった。
「俺があれをオーケーしたら嬉しいのか。」
ほとんどオーケーすると言っているような質問で、こんなこと聞かれても困惑するだけだ。
そう思っていたのだが、恐る恐る覗いた慶人の表情には驚き以上のうれしさがにじみ出ていて、それを見た瞬間分かってしまった。
今まで散々言い訳して、他の理由を探して分からない振りをしてきたが、分かってしまった。
慶人はただその場の勢いで告白したんじゃないか、実際は俺が告白だと感じただけでただ俺を慰めようとしたんじゃないか、そんな疑問はただの勘違いだとその表情は物語ている。それを見た途端、どうしようもないうれしさが押し寄せてくる。
俺は慶人が好きなんだ。そう実感してしまうと、なんでいままで否定し続けてきたのかが不思議なくらい俺の心にしっくりとその感情が収まってしまう。
どうしようか。
好きだと分かってしまったなら、今すぐにでも返事をしたい。そう強く感じるのだが、誠実に慶人の告白に応えたいという気持ちも強くて、その2つがせめぎ合っている。
慶人の実家は複雑だ。きっと慶人は咲ちゃんをずっとそのまま育てるつもりだろうが、恋人になるのであれば俺も一緒にそういったことについて考えなければならない。
それに、あの日慶人が最後に話していた男性。慶人は何でもないといっていたが、過去にあの人と何かあったことは一目瞭然だ。本当はあまりよくないことだろうが、恋人になる前に知っておきたい。
「ちゃんと返事はするから、もう少しだけ待っていてくれないか。」
もっとちゃんと慶人と向きあるために、時間が欲しい。傲慢な願いだとは分かっているが、慶人は受け入れてくれた。できるだけ早く終わらせよう。
先に寝ますと寝室に向かう慶人に返事をして、俺は早速行動を始める。慶人の実家とのつながりはあの日送り迎えをしてくれた女性だけだ。名刺を捨てないでよかった。
咲ちゃんのことについて社長かそれに近い人と会って話したい、あの男性とも話をしたいとそうメッセージを送って俺も眠りにつく。明日には返事が来ていることを願おう。




