付き合うとは
「響ちゃん、どうだった。」
大学の最寄り駅の改札を抜けた瞬間、大和が後ろから話しかけてくる。これを聞くためだけにわざわざ外で待っていたらしい。
いつもなら多少なりとも大和のテンションに乗るのだが、今日はそんな元気はない。
今朝、なんとかバレンタインチョコを渡すことができた。
できたのは良いのだが、実際は渡したというより押しつけた感じで、家を出る直前に玄関で見送ってくれる慶人に押しつけてそのまま家を出てきてしまった。
「あぁ、渡さなければよかった。」
ここしばらくも気まずかったのに、余計顔を合わせづらくなった。
そんな、ついこぼれてしまった俺の弱音を大和は聞き漏らさず、また質問攻めが始まる。
だが、今日は優大が止めに入ってくれる。元々早めに家を出たから一コマ目の開始にはまだ1時間ほどある。大和に連行されて大学内のカフェテリアに入る。
「それで、慶人くんと何かあったの。」
大和の尋問が始まる。前回はバレンタインに話題が逸れ安心していたが、まだ根に持っていたようだ。
「何も。慶人にチョコ渡せたからそれでいいだろ。」
そういえば、と2人の分のチョコを机に置くが、それでは大和は納得してくれないらしい。
「だったらいいじゃん。なんで不満そうにしてるの。」
痛いところを突いてくる。前回は分からないの一点張りでやり通したが、今日はさすがにダメそうだ。
「はぁ。わかった。話すから。」
大和の熱意に観念してあの1件を話す。聞きながら大和はニヤニヤとウザい笑い方を見せる。俺は真剣に悩んでいるのに何がそんなに楽しいんだ。
「それで、それで響ちゃんはなんて返事するの。」
最後まで話し終えると大和はいきなり核心に切り込む。それが決まっていたら俺はこんなに悩んでいない。
返事もせずに心の中でそう愚痴を言っていると、なんでそんなに悩んでるの、と俺の悩みを一蹴する。
「決まってはないだろ。恋人はお互いのことを好きだからなるモノで、でも俺はまだ。」
まだ、慶人のことが好きなのかが分からない。それなのに付き合ってはダメ、だろう。
「もう、響ちゃん。なにウブなこと言ってんの。好きかわかんないから付き合うんだよ。世の中告白されたから試しに付き合ってみた、っていう人の方が多いって。だから、ウジウジするなら返事しないと。」
いつになく真剣な大和の言葉に俺は困惑する。それでは慶人に対して不誠実なのではないだろうか。
それに、そもそも慶人が俺のことを好きと決まったわけではない。あの告白はその場の勢いもあっての出来事だ。
「あぁ、もう。わかった。」
なにが分かったのか、大和は急に手を差し出して何かを求めてくる。チョコはさっき渡した。それ以外に欲しいものがあるのだろうか。
「ほら、響ちゃん。何もしないからスマホ貸して。」
なにもしないから、と念を押しているがその目は笑っていない。
「無理。」
これで夏は失敗したんだ。同じ轍を二度も踏みたくはない。
何をするつもりか知らないが、強引にカバンを奪おうとする大和を必死で抑える。なんでこういうときだけ優大は使えなくなるんだ。
「わかった、わかったから放せ。」
このままだとスマホの前に俺のカバンが壊れてしまう。もう自棄だ。
「返事するから。するから放せ。」
ほとんど叫ぶように答えると、大和も渋々カバンから手を放す。人がいなくてよかった。
「本当?絶対だからね。」
大和はマジでスマホを奪うつもりだったようで、肩で息をしている。
大和を引き剥がすためだったとはいえ、口から出てしまった言葉は撤回できない。既に後悔が襲ってきているが、2人の前で宣言してしまったからには逃げられない。
返事をすると決まれば不安は別の視点に移る。
告白の返事はどうするのが正解なのだろうか。いつ、どこですればよいのか。恋愛初心者の俺には分からないことばかりだ。
「それじゃ、頑張ってね。」
それ以上の相談には乗ってくれないようで、悩む俺を置いて大和は講義室に向かってしまう。
「まぁ、響。頑張れ。」
ずっと黙っていた優大も、それだけ言い残して大和の後を追う。
一番重要な部分が何も解決していない。自分のしたいことだけして去っていて、なんで大和はいつもああなのだ。大和たちへの怒りと告白の悩みでその後も悶々とした日々を過ごすことになった。




