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すれ違いだらけの俺の運命  作者: 甘衣 一語
恋人
35/40

バレンタイン

「響ちゃん。ちゃんと聞いてる。」

 大和の大声で我に返ると、目の前に大和の不機嫌な顔が映る。

「聞いてる。聞いてる。」

 何の話をしていたか知らないが適当に相槌を打つ。

 慶人の告白がずっと頭から離れず、大和の言葉も授業の内容も何も頭に入ってこない。今朝も、慶人に自分でも分かるほどよそよそしい態度を取ってしまった。

「もう、響ちゃん。ごまかすならもっとちゃんとごまかしてよ。何かあったでしょ。」

 そんな態度が大和にも伝わったようで、興味津々の様子で俺が話すのを待っている。心配する気はなさそうだ。

 優大も大和を諫めてはいるが、本心では気になっているのだろう。

 何かあったのか、と聞かれると確かにあったのだが、自分でもまだ現実が受け入れられていない。昨日の慶人の言葉は、告白なのだろうか。その場の勢いで口に出した言葉なのかもしれない。そう思うと不安になる。2人に相談して実際は違いました、なんて結果は嫌だ。

 そもそも、いままでそんな素振りは全くなかった。本当に好きなのか。

「なぁ、告白って好きでもない相手にするか。」

 色々と考えていると、いつの間にかそんな問いが漏れていた。気付いて慌てて訂正しようとするが、大和はしっかりと耳にしていた。

 いつになく目を輝かせる。なんで、慶人と何かあったと分かったんだ。

「なんでもない。今のはなし。」

 今更ごまかしても意味はない。大和はよい暇つぶしを見つけたとばかりに俺にいくつも質問を投げかけてくるが、俺に答えられることは何もない。ただひたすら分からないと答えるばかりだ。

「もう、なんで響ちゃんそんな鈍感なの。」

 テンションが高いのはいつのことだが、こういうときの大和は余計にうるさい。相手をするのも疲れるし、出来れば1人で色々と整理したい。

「じゃぁ、響ちゃん。今年のバレンタインはどうするの。」

 俺の口から自分の求めている返答が返ってこないと理解した大和は、話題を変える。そういえば、来週がバレンタインだ。去年は大和のお兄さんが作ったホールケーキを3人で食べたが、本来は恋人や友人同士でチョコなどのお菓子をプレゼントし合い感謝を伝える日らしい。

「どうって、何もしないけど。」

 というか、クリスマス同様バレンタインについてもよく知らない。甘党な慶人が喜びそうなイベントではある。咲ちゃんは知っているのだろうか。

「折角なら慶人くんにチョコあげればいいのに。」

「はぁ、なんで。」

 バレンタインは一般的には女子が友達や恋人にお菓子をプレゼントする日で、男子は3月のホワイトデーだ、と教えてくれたのは大和だ。それなのになんで俺がバレンタインで慶人にチョコをあげないといけないんだ。それに、今慶人とは気まずい関係だ。それがあと数週間で改善するとは思えない。

「僕たちにもチョコちょうだいよ。」

 色々と理由をつけているが、大和の一番の目的はこれだろう。まぁ、確かに慶人には色々と迷惑を掛けているから感謝を伝える必要はある、と思う。ただ、今じゃなくてもいいだろう。今は、気まずい。

「ホワイトデーはお返しの日だから、あげるならバレンタインだよ。」

 大和の悪魔のような囁きに心が揺らぐ。これに乗じて昨日のあの発言の本心を、聞けたりしないだろうか。そう思ったりもするが、俺にそんな勇気はない。

 それにわざわざバレンタインじゃなくても、感謝くらい伝えられる。はずだ、タイミングがあれば。

 そう、いつか慶人に返事をするときにでも一緒に伝えればいいのだ。

「バレンタインは特別なんだから。他の日に渡すのとは意味合いが違うんだからね。わかった。」

 そんな半ば諦め気味の俺とは逆に大和は熱演する。その気迫に押されてつい頷いてしまう。渡す、のはいいのだ。だが、どんな顔して渡せばよいのだろうか。


「はぁ、疲れた。」

 相変わらず頭の中では慶人の言葉が響いている。それにバレンタインのことも。

 大学の帰り道、日用品の買い出しにとスーパーに立ち寄る。少し前まで正月の色に染まっていた店内が今はバレンタイン色だ。手作りのお菓子を作る人も多いらしいが、さすがにそんなことをする時間は俺にはない。買い出しのついでに特設されているバレンタインコーナーを眺め、咲ちゃんや大和へのお菓子を選ぶ。

 慶人は、バレンタインを知っているだろうか。

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