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すれ違いだらけの俺の運命  作者: 甘衣 一語
守りたい
28/40

年越し

 気付いたら新年まで残り1日だ。

 今まで俺にとって大晦日は大人になるまでの日数を指折り数える日だった。

 あと4年、あと3年。年越しでも仕事がある両親。いつものように俺を苛める兄。それから逃げる未来が少しずつ近づいていることを確認し、気持ちを奮い立たせていた。

 けれど今年は振り返っても楽しい思い出ばかりだ。大和達のお陰で、慶人のお陰だ。


「園崎さん達はまだ、ですね。」

 目の前のそばから時計に視線を送り、また落胆している。

 今日、家族旅行から帰ってくる優大達と一緒に年越しをすることになっている。クリスマスの1件で慶人は大和の標的にされていたので、今回は飲酒禁止の条件付きだ。

 昼から作り始めた年越しそばはもう完成している。慶人のこだわりで麺から全て作ったのだが、それでも予想より早く完成してしまった。辺りは暗くなっているのに2人から連絡はまだ来ない。

「そろそろ空港に着くはず。」

 ここから空港までは急げば50分くらい。あと1時間もすれば着くはずだ。

 他の家族はそのまま直接実家へ向かうらしいので、2人も家に寄らず荷物ごと来るはずだ。

「そうですか。」

 また視線はそばを茹でる鍋に向いている。2人が来るまでそばはお預け、よほど楽しみにしているようだ。


「ただいま。」

 予想通りの1時間後。大和がすごい勢いで呼び鈴を鳴らし、鍵を開けた瞬間にずかずかと家に入ってくる。

 家族旅行は大成功だったようだ。九州地方を1周したようで、各県の土産を2人分ずつ優大が持っている。

 沖縄までこぼさず行ったで、大和は心なしか焼けている気がする。

「こんばんは。」

 家に着く連絡があってからそばの用意をしていたので、机には既に料理が並んでいる。既にいつもの夕食時間を2時間も過ぎている。慶人が寝る時間も近づいている。

 洗濯機だけ先に回して4人でそばを食べる。いつも市販のそばで年を越す俺には、手作りのそばはより美味しい。

 他に作ったおかずも例のごとく大和に食べられている。そうこうしている間に時間が経ち、慶人は脱落する。一緒に年を越したい、と意気込んでいたが難しかったようだ。これでも頑張った方だろう。

「響ちゃん。もういいよね。」

 慶人がちゃんと寝たことを確認すると大和はソワソワし始める。

「はぁ、静かにしろよ。」

 渋々返事を返すとその後は早かった。カバンの中から袋を取りだし、缶ビールを机に並べる。やっぱり。

 大和は弱いくせにアルコール類が大好きだ。まぁ、優大がいない場所で飲まない辺り、節度はあるようだが禁酒はあり得ない。プルタブが持ち上がる音が鳴り、美味しそうに口に含んでいる。

 既にほろ酔いになっている大和はお世話係に任せ、俺は食器を片付ける。年越しそばは大和が煩くなった時用に茹でていないモノが少し残っている。

 食器を洗っていると大和が冷蔵庫を漁っている。自分の家のような振る舞いは、それだけくつろいでいるようでもてなしている側としては嬉しいが、遠慮という言葉はないのだろうか。

 食器を洗う間も大和は2缶開けたようで、既に目が閉じかけている。年越しはムリそうだ。

 優大はそんな大和を運び、自分も布団に入っている。俺だけになったリビングは静かだ。1人で本を開いて年越しを待つ。今年は残り2時間半。


「響ちゃん。起きて。」

 元旦。

 ムダに早起きな大和によって起こされる。枕元のスマホに手を伸ばす。まだ6時だ。

 朝食を作っている音は聞こえる。慶人なら出来たら起こしてくれるはずだ。

 二度寝の体勢に入るが、大和に布団を剥がされる。冷たい空気が肌を刺す。慌てて近くの布団をたぐり寄せるが、それも大和に奪われる。

 大和のしたり顔でもう寝る気も起きない。慶人に挨拶をして顔を洗い、リビングにいる優大にも挨拶をする。新年が訪れた、という実感が少しずつ湧く。


 昨日そばと一緒に仕込んだおせちを食べ、早速外に出る。初詣だ。

 慶人の案内で最寄りの神社を参拝し、おみくじを引く。俺は信じてもいないけれど、大和は大吉で喜んでいる。慶人は、結果を見せてくれなかったが、悪くはないようで表情に出ている。

 そのまま優大達は帰り、また2人だけになった。

「慶人、俺もそろそろ行くけど片付け頼めるか。」

 机の上の、朝の短時間で散らかった机に視線を送る。そろそろ出ないと明日に間に合わない。

「はい、大丈夫です。」

 慶人は無表情に応える。不安だ。

「とりあえず明日の夕方くらいには帰ってくるから、行ってきます。」

 準備していたカバンを背負い、後ろ髪を引かれながら家を出る。たった1日だけ、今までも1人で暮らしてきた慶人なら大丈夫、そう自分に言い聞かせて足を進める。

 毎年開かれる実家の地域の新年会。その会場になるのは公民館ではなく俺の実家だ。地域の人たちが集って、ずっと前からそういう習慣になっている。それだけ祖父母が慕われていたのだ。

 とはいえ、毎年その準備のために帰省しなければならないことが、今年は少し煩わしい。

 鍵は店のばあちゃんも持ってる。家の掃除と準備だけして、最低限だけ終わらせて直ぐ帰ってこよう。

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