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すれ違いだらけの俺の運命  作者: 甘衣 一語
友情とその他
22/40

引っ越し

「響。この前いってた引っ越し先の候補、値段と大学・バイト先からの距離で10件に絞ったから見てくれ。」

 体育祭の余韻もすっかりなくなり通常の様子に戻ってしまったある日のカフェテリアで、突然優大が話し出した。

 俺より先に食べ終えカバンの中を漁っていたのは、俺にその話を切り出すためだったらしい。

 机の上を綺麗にして書類を取り出す。家の住所や家賃、間取り図などが書かれている。

「引っ越し、そういえばそんなこと言ってたな。」

 確かに、あの慶人と新人の子の1件があったときに引っ越しをしろと優大が煩かった。普段は諦めのいい優大はこういうとき大和以上にしつこく、場所を探してくれるならと言う条件でOKしたのを忘れていた。

「家賃は今の場所より高いけど、他の条件はかなりいい場所だぞ。」

 そういいながらそれぞれの長所を紹介してくれる。

 事前にかなり読み込んだようで、所々マーカーが引かれ見やすくなっている。

 優大はなんだかんだと面倒見がよい。

「いくつかいい場所を選んで、今週中に見に行け。俺の知り合いが見繕ってくれた場所だから、言ってくれれば俺が連絡取る。」

 一通り紹介してそう付け加えると、優大は立ち上がり先に移動を始めてしまう。

 最近はこういうことが多い。

 優大にとって外せない用事なので大和も止めないが、明らかに不機嫌だ。俺に昼食をねだることも多くなり、俺への貸しはどんどん大きくなっている。

 正直これ以上この状態が続くのは不安だが、俺にどうこうできる状態ではない。2年も終わりが近づき、3年からは研究室に入るようになる。心なしか同学年の生徒達はピリピリしている気がする。


「それで響ちゃん。どこ行くの。」

 午前で講義が終わる木曜日、優大から相手にされず拗ねていた大和と共に内見に向かう。

 優大が紹介してくれた物件の内、家賃の安い順に2件選び優大に鍵を借りた。この鍵は優大の親戚から借りたものなので6時までには優大に返さないと行けない。その鍵の運び屋として大和を連れてきたのだ。

「とりあえず、大学に近い方から向かうか。」

 選んだ物件の書類で最寄り駅を確認する。大学から2駅の場所だ。そこからさらに10分ほど歩いた場所にあるのが1つ目の目的地だ。

 1Kで家賃6万円。都心に近いから家賃としては無難な場所だ。立地もよい。中も綺麗だ。

「狭いね、ここ。」

 ばかでかい家に住む大和が、ぽつりとこぼすひと言に呆れて溜息が出る。

 大学生のほとんどが住んでいるのはこんな家だ。むしろ今俺が住んでいる家は広い方だ。

 かなり大学からは遠いが、1DKで家賃4万円。あんなことがなければもっと住んでいたかった。

「よし、とりあえず次行くか。」

 中も十分に確認し、家を出る。

 また同じ道を通って駅に戻り、次の場所へ向かう。


「うーん、こっちも悪くないな。」

 書類に書かれていた最寄り駅の名前でそんな気はしていたが、もうひとつの物件は俺のバイト先の近くだった。

 慶人のアパートをさらに進んで、脇道に逸れ3分ほど歩いた場所にある。

「バイト先も近いからこっちの方がいいんじゃない。」

 大和が珍しく的確なことを言っている。家賃は最初の場所より少し高いが広さは同じくらい。

 周りが工場ばかりで昼は多少煩いが、どうせ日中ここにいることはない。

「確かに、条件的にはどちらも同じだし、こっちがいいかもな。」

 とりあえずそう結論づけ、また来た道を戻る。


「あれ、平宮さん。と白崎さんも。こんな所でどうしたんですか。」

 と、来たとおりに曲がり角を曲がった先に慶人がいた。

 まぁ、確かにここは生活圏内だから可能性があることは分かっていたが、まさか実際になるとは思ってもいなかった。

「あれ、ケイ君偶然だね。僕たち今内見してて、ケイ君は?」

 そんな驚きを禁じ得ない状況にいち早く順応したのは大和だった。

 というか、多分何も考えていないのだろう。いつものように慶人に話しかけている。

「内見、引っ越すんですか?」

 不思議そうに辺りを見ているが、この曲がり角の辺りは工場ばかりで住宅はない。

「そう、やっと響ちゃん言うこと聞いてくれたから善は急げってね。」

 そういえば、一番最初に引っ越しを持ちかけたのは大和だった気がする。

「で、いいところはありましたか。」

 よいしょ、と手に持った買い物袋を持ち直しながら慶人が尋ねる。今更気付いたが、買い物帰りだったようだ。

「まぁまぁ、家賃がちょっと高いけど、条件はいいかな。」

 本当はもう少し家賃の安いところがよいが、今より電車代が安くなると考えれば、なんとかなるだろう。

「家賃、ですか。確かにこの辺りは僕たち大学生には少し高いですよね。」

 バイトしながらじゃ限界がありますし、と同じく独り暮しをしている仲間として俺の気持ちに寄り添ってくれる。

「え、でも6万でしょ。割と安くない?」

 と、そんな雰囲気を大和が壊す。これだから実家暮らしは困るんだ。俺が大和にお金の大切さを教えている間、慶人は大人しくそばで見ている。

「・・・もし、もしよければですけど僕の家で一緒に住みませんか。」

 と思ったら突然そんな発言をする。今まで大人しかったのはそれを真剣に考えていたせいのようだ。

「は。いや、いやいや、それはない。」

「え、一緒に。いいじゃん響ちゃん。家賃も浮くし断る理由ないでしょ。」

 全力で拒否する俺の発言を大和が遮る。俺の気も知らずに慶人と話を進めている。

「もちろん平宮さんがよければですけど、僕としてはあの広い家に1人でいるのは寂しいので全然嬉しいです。」

 遠慮しなくて大丈夫ですよ、とむしろ断らないで欲しいという表情でこちらを見ている。

 断れず、悩んだあげく返事をした。

「それじゃぁ、荷入れは来週の木曜日ですね。」

 大和が勝手に話を進め来週引っ越しをすることまで決まってしまい、慶人は家に帰って行く。

「響ちゃん、よかったね。」

 こちらは一仕事終えた、爽やかな笑顔だ。

 何か言う気力もなく、トボトボと駅まで向かった。大和に鍵を渡しそこで別れて何とか家に帰ったが、その後のことは覚えていない。

 ただ、今まで生きてきた中で一番先行きが不安だったことは確かだ。

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