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幽霊告発  作者: 辻田煙
第4章「憂う弟」

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第31話「警告」

 八月に入り、悠は深夜のオフィス街に来ていた。思ったよりも周りのオフィスビルは明かりが点いている場所がぽつらぽつらとある。深夜の二時だというのに。


「社会人になりたくないなー」


 人通りのない道をそうぼやきながら悠は、『荒井商事株式会社』に向かっていた。隣には河合咲季の霊も一緒だ。


 真夏のまったく涼しくない風が悠の頬を撫でる。


「河合さんもこの時間まで残って仕事してたの?」


『まあ、毎日ではないですけど……』


 毎日ではないけどあるような口ぶりだった。仕事ってそんなに大事なのだろうか? お金は必要なのかもしれないが。


 河合の案内に従ってオフィス街を進む。彼女に案内されたビルは結構大きいものだった。やはり、点々と明かりが点いている。もう家には帰らないのだろう。


『ここです』


「思ってたよりも大きいなあ」


 見上げると首が痛くなりそうな高さはある。そして、やはりといかなんというか点々と明かりが点いている場所がある。一部明かりが集中している部分は余程忙しい部署なのかもしれない。


「ここの何階?」


『五階ですね。私がいた経理部は』


「警備はどうなってるの?」


『日中人が出入りすうる正面玄関は自動ドアで閉められています。夜間は裏口から出入りするのですが……、近くには警備員室があり、監視カメラもあります。私が死んでからそうなりました』


「ふーん……。まあ僕には関係ないけどね。河合さん、裏口の場所教えて」


『はい……』


 河合の霊は素直に、悠を裏口へと案内してくれる。オフィスビルは隣のビルとの間に人二人分は通れる狭い通路があった。河合はそこに幽霊らしくすーっと入って行く。


 通路は真っ暗で、悠はスマホを懐中電灯のモードにし、進む。曲がり角を左に進むと、オフィスビルの壁には裏口と分かり辛い無骨な扉があった。普通に来たら裏口とは気付かないだろう。


『ここです』


「……これって中に入ったらすぐに監視カメラに映る感じ?」


『はい、そうです。鍵は開いていますが――すぐに警備員の前を通ることになります』


 悠は深々とパーカーを被り、マスクを着用した。


「河合さん、警備員の操作お願い。出来るよね?」


『ええ……』


 河合は裏口の扉をすり抜け中に入って行った。河合の事前情報では、夜間の警備員は一人だということらしい。加えて河合には人に憑依させる方法を教えてある。憑依の仕方を覚えるのが早かったのがやや怖いがしょうがない。


 さすがに警備がしてあるオフィスビルに何もせずには侵入できない。だからと言って「幽霊告発」動画の撮影場所を妥協することは出来なかった。殺人鬼である神崎が知っている場所で撮影することが重要なのだ。こっちはお前のことを知っているぞ、と暗に伝えるためにも背景は必要だ。


 しばらく待っていると裏口がぎいっと開かれる。中には初老の警備員の男が立っている。彼は悠にさっと懐中電灯を向ける。


「まぶしいぞ」


『ごめんなさい、こっちよ』


 男の口から女性らしい口調で告げられる。警備員になっている河合は後ろを向き、オフィスビルの中に入って行った。


 悠は河合の後を追い、エレベーターに入る。まもなくエレベーターを降りると、『ここが経理部よ』と河合は歩いて行く。


 自動販売機が光る中、廊下を歩いて行く。


 それにしても使っている気配がしない。なんとなく埃っぽい感じがする。


 河合は廊下から一つの部屋の中に入った。悠も後を追って中に入ると――中は閑散としていた。書類があまりない。机は並べられているものの、端の方は物置きになりつつあるような感じ。雑多に物が置かれている。なによりパソコンがほとんどない。


「もしかして今は使ってないのかな?」


『……誰も好き好んで死体の会った場所で仕事はしたくないんじゃないでしょうか』


「それもそうか。まあ、でも雰囲気は残ってるし、いいや。で、死んだのはどこ?」


『ここですね』


 河合は部署のあった部屋に入ってすぐの床を刺した。綺麗に清掃されているのか、血は見当たらない。


『こっちが私のデスクでした』


「じゃあ、ここで撮影しよう」


 悠は河合のデスクに移動し、スマホを用意する。私用のスマホの方には前回と同じくメモを準備する。


 スマホの時刻を確認すると、日付と時刻は八月一日午前三時を表示していた。


「じゃあ、その身体から抜けて。早く撮影しよう」


『はい……』


 警備員の男の身体がその場で崩れ去る。中からは河合がすうっと出てきた。警備員の男は眠ったまま起きない。しばらくはこのままだろう。憑依されていた人間が意識を取り戻すまでは一時間程度の余裕はある。


 撮影はその間に出来るだろう。駄目だったらまた憑依させればいい。


「よし、じゃあ撮影するぞ」


『はい』


 河合は淡々とした口調で自らのデスクだった椅子に座った。



 動画を投稿、公開し、悠はすぐにURLを送った。


 だが、反応はいまいちなものだった。芹沢たち幽霊の報告では動画自体は見ているようだが、結をストーキングするのをやめる気配は一切ないそうだ。


 埒が明かないと思った悠は、そんなに時間があるならと「居空き」の依頼を彼女に送った。そもそも今更になって「居空き」をするのか、という疑問はあるが、美味しい餌には違いない。


 神崎は餌に食いつき、「居空き」を行いはじめた。しかし、結へのストーキングもやめていない。


 一体、どこまで忠告すればやめるのだろうか。チャンスを与えているというに。それもこれも彼女の有用性を考えてなのだが。


 神崎の「居空き」は上手く行っているようだった。期限を決め、焦らせてなるべく失敗する様な感じにしたかったのだが、そうは上手く行かない。割と難題よりな居空きだったにも関わらず、彼女は悠々とこなした。


 動画を撮るにしても残りは一人。


 友人の家に遊びに行っていた帰り、悠はたまたま神崎を駅のホームで見掛けた。むしむしとした夕暮れの中、一人涼しそうな顔をしている。


 その場を見なかったことにしやり過ごそうとも思ったのだが、最終警告間近な彼女に警告を与えようと悠は思い立った。


 神崎のそばにいる芹沢たち幽霊が彼女は、今さっき悠の依頼した居空きをこなした帰りであることを教えてくれる。


 悠はそっと神崎に近付いた。


「お姉さん……?」


 悠が声を掛けるとすぐに神崎は誰なのか気付いたようだった。目を見開かせる。しかし、すぐに冷静さを取り戻した。


「あら、久しぶりね。悠くん」


 いかに心が凍結しているとしか思えない殺人鬼でも汗は掻くものらしい。彼女は首筋に出ている汗をハンカチで拭った。


「悠くんの周りは随分涼しいわね」


「……そうだね。……ね、お姉さん」


 悠は神崎をひた、と捉えた。その心の奥底まで言葉が届くように。


「姉さんのこと殺しちゃだめだよ?」


「もちろんよ。あの時ちゃんといなくなったでしょ」


「……そうだね」


 しっかりと部屋の中を散策して、だろうによく言う。


「悠くん、お姉ちゃんのこと色々訊いてもいい? 私、お姉ちゃんのファンなのよね」


「別にいいよ。みんなそうなるからね」


 結はいつだって人を惹き付ける。いい者も悪い者も関係ない。それは結自身に被害を与えるものだって混じっている。


 悠自身が悪霊を惹き付けるように、それは結自身の体質みたいなものなのだからしょうがない。


 神崎は興味津々と言った様子だった。そこまで関心があるのならなぜ殺そうとするのか。


 悠の疑問は、駅に流れたアナウンスに搔き消された。

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