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幽霊告発  作者: 辻田煙
第2章「空っぽな殺人鬼」

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第13話「話せなくなった芹沢」

 中身のない会話だった。芹沢は何気なく彼自身の部屋に雪を誘い込んだ。雪は気にした振りもなく、彼について行く。ポケットにしまった手には折り畳みナイフを握って。


 芹沢の用意したお茶をコップで飲みながら、とりとめもなく話す。もっとも雪はお茶には口をつけるものの、一切飲んでいない。雪は適当な話をでっち上げ、弟との過去話を聞かせる。その後には、芹沢のことを根堀り葉堀り聞いていく。


「……雪さん、眠くない?」


「あら、ごめんね。遅くまで話しすぎたかしら」


「あ、いえ。そういうわけじゃないんですけど」


 しどろもどろに芹沢はなり、目を泳がす。雪は彼の様子を見て、大体の所を察した。


「トイレ、借りてもいいかしら」


「あ、はい。一階に降りて右側にあります」


「うん、ありがとう」


 トイレに行った振りをして、部屋を出る。引き戸をギリギリで開けておく。少しだけ待って、雪は部屋の様子を窺った。


 すると、芹沢はポケットから一つの瓶を取り出し、中からサプリのような白い粒を二粒取り出す。ティッシュをローテーブルに引くと、そこに置いた粒をコップの底で砕き始めた。


 雪は冷めた目でそれを眺めた。まったく、知らないというのは恐ろしい。


「しっかし、足りなかったのか?」


 芹沢は砕いた白い粒を雪が飲んでいるコップの中にさらさらと流し込んだ。


 瓶のラベルには睡眠薬の文字が書かれていた。


 ここまで見れば充分だった。雪は一階のトイレに行き、少ししてトイレした振りとして水を流す。階段を上がり、芹沢の部屋の中に戻った。


 芹沢は無垢そうな顔で雪を見ている。


 雪はコップに手を伸ばす。


 まったく、もともとどれだけの量を入れているのか知らないが――これで後輩を眠らせ、強姦する予定だったのだろうか。量によっては死に至るというのに。


「芹沢くん」


「あっ、はい。なんでしょう」


 コップに目が行き過ぎだ。これではお茶に何か入っていると言っているようなものだろう。


 雪はコップの中の睡眠薬入りのお茶を、芹沢にぶっかけた。


 びしゃ、と掛かるお茶に、彼はあわてふためく。


 家には芹沢以外誰もいない。トイレから戻る際に一階を確認したが誰もいなかった。殺すには絶好のチャンスと言えた。


 雪は素早く折り畳みナイフをポケットから取り出し、芹沢を押し倒す。


「雪さんっ……?」


「甘い話には用心しなきゃね? 芹沢健くん」


 喉を掴み、馬乗りになった雪はナイフを振り上げ――心臓のある胸に突き刺した。


 彼の長い悲鳴が響き、ひび割れる。


「うるさい口ね。少し黙りなさい」


 やかましい怨嗟の声を上げている口を雪は淡々と何度もナイフで刺していく。柔らかい肉が裂け、血がごぽごぽと芹沢の口から溢れ出る。


 彼の目はまっすぐに雪を見上げ、驚愕に見開かれている。


 ぐさ、ぐさ、ぐさ、溢れ出る血液をものともせず、雪は殺しを楽しむ。逆らえない闇に落ちていく芹沢を雪は弧を描いた猫目で眺めていた。



「思ったよりも簡単に済んだわね」


 目の前の芹沢の死体を見て、雪は嘆息する。いつもの殺しなら、ここから解体し海に流すまでの作業が発生するのだが――今回は別だ。


 依頼主からは現場はそのままにするように言われている。それにプラスして芹沢の口を切り取るようにとも。


 すでに口は切り取ってある。切り取った部分はその辺に放り投げておいてある。死体となっている芹沢の口はぐるりと切り取られ、歯が剝き出しになっていた。


「やるのは別にいいんだけど、なんでこんなこと頼んできたのかしらねえ?」


 ナイフでぐさっと胸を刺してみるもすでに死亡して反応はない。ついさっきまでは血液で何も発せない口をぼこぼこと喚かせていたのに。


 ナイフを抜き、ティッシュで拭いておく。折り畳みポケットに収めた。


 血が掛からないように立ち回ったおかげで服には何も掛かっていない。綺麗なものだ。


 だが、汗は掻く。


「お風呂借りるね、芹沢くん」


 物言わぬ死体となった芹沢に雪は艶っぽく微笑んだ。



 久々の殺人をしてから一箇月が経っていた。世間はもうすぐ大連休とも言えるゴールデンウィークが近付き、テレビも社内も友人も休日の予定話に湧いている。


 そんなどこか浮足立っている社内で、雪は経理部に赴いた。後輩の河合咲季に経費書類を渡し、少しばかり話す。話題はやはりというか、ゴールデンウィークの過ごし方だった。


「雪さんは今度のゴールデンウィーク、どこかに行きますか?」


「どうかしら、迷ってるわね。家でゆったりか遊んでストレス発散するか。とりあえず旅行はしないわね。咲季ちゃんはどうなの? ほら、恋人とか」


「いませんよー、彼氏なんて。私は家でまったりする予定です。いくつか友人と遊ぶ予定は入っていますけど。雪さんこそどうなんですか? 私、雪さんなら引く手あまただと思うんですけど……」


 咲季はちらっと辺りの様子を窺う。雪も周囲に視線を見回すと、幾人か慌てて視線をPCに戻している男性社員がいた。


「そうねー。まあ、誘いがないとは言わないわ。でも、今は別のことに夢中になっているから恋人は作らないつもりなんだけどね」


「えー、気になります。何をしてるんですか?」


「それは内緒。じゃあ、その書類よろしくね」


「あっ、はい。雪さん、今度飲みに行きましょう」


「はいはい、いつかね」


 咲季は雪の返事に気を良くしたようで、笑みを溢れさせる。


 雪は経理部のオフィスを出ながら不思議に思う。咲季は元気な女の子で男性からも人気が高い。だが、異様に感じるほど男性に対して壁が高いのだ。だが、女性にそんなことはなく、むしろ雪に対する態度のように優しさで溢れている。それに可愛らしい。


 もったないな、と思う。男を使えば、女性一人であれこれするよりも便利な時もある。もちろん面倒なことも無いと言えば嘘になるが――ようは使い方の問題だ。あるものは使った方がいいし、良い効果をもたらすのなら、尚更。


 雪には、咲季の恋人なんていないという状態に疑問を感じざるを得なかった。彼女ならすぐに恋人なんて出来るはずなのに。


 引く手あまた、それは咲季の方も同様のはずだった。だが、彼女はにべもなく断っているのだろう。


 不思議な娘だ。雪はそう、河合咲季という女性を結論付けていた。

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