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幽霊告発  作者: 辻田煙
第2章「空っぽな殺人鬼」

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第11話「お宝探し」

 季節は秋口に差し掛かっていた。木枯らしの風がマンションの合間をヒューヒューと音を鳴らし、雪のもとにも冷たさをもたらす。


 早朝、マンションを見上げていた雪はペロリ、と唇を舐めた。マンションの住人を装って、なるべく普段着で来ている。目深のキャップにオーバーサイズのパーカー、デニム地のショートパンツ、スニーカー。盗品を入れるようにリュックサックも肩掛けしている。動きやすく、違和感はない。どちらかというと単身者向けのマンションだから、こういう格好の方がいいだろうと判断してのことだった。


 今回で四度目。一月から二月に一度、雪はSNS上で同じ依頼主からの「居空き」をこなしていた。四度目とも慣れがやってくるが、人間として油断がこの辺からくるのを承知している雪は、これまでよりも気を引き締めていた。


 普通ならば雪に依頼している人物の情報は怪し過ぎて、首を突っ込まないだろう。だが、スリルを求めている雪としてはいいゲームだった。おまけに金も入るし一石二鳥と言える。段々と難易度が上がっているのもゲーム性を感じる。


 情報では二十代のサラリーマンが住んでいる部屋で、ゴミ出し時に部屋を開けっ放しにするらしい。ゴミなんて出勤時についでに出せばいいと思うのだが、時間が間に合わないのだろうか。事情は知らないが、重要なのはゴミ出しの際に部屋を開けっ放しにする点。オートロックでもないこのマンションで、それは中々に豪胆だと言わざるを得ない。


 なぜなら、雪のような存在がいるのだから。


 雪はマンションの玄関ホールに入り、エレベーターの乗り込んだ。目指す場所は五階の端、『五〇一号室』。だが情報通りであれば、今の時間はまだ部屋の中にいるはずだった。


 エレベーターが五階に着き、人が入って来るのと入れ替えに雪は廊下に出た。コの字型になっているマンションで、『五〇一号室』は最も端にある。


 エレベーターを出た雪は右に曲がり端に向かった。まっすぐ歩いている先に見えるのは――非常階段だ。コの字の両端にくっつくような形でこのマンションの非常階段はある。非常階段は壁や扉があって鍵がかかっている訳でもない。誰でも入れる。そこで待っていれば、端の部屋から誰かが出てくるのは音ですぐに分かるだろう。


 息が漏れると、かすかに白くなり肌寒さを感じた。生足を出すには少しばかり寒かったかもしれない。


 雪が若干着ている服に後悔していると――端の部屋、『五〇一号室』の部屋が開いた。中からは眠そうに欠伸している男がゴミ袋を手に出ててくる。両手いっぱいで、ずいぶんと溜め込んでいたようだ。雪は驚いたものの目深に帽子を被り直し、顔を俯かせる。


 廊下の中程で男の持っているゴミ袋を避けつつ、すれちがう。ちり、と足に視線を感じる。どうせ、生足に目を奪われたのだろう。顔に目がいかないのなら好都合だった。


 すれ違った後、雪はゆっくりと廊下を歩いた。あともう少しで『五〇一号室』に辿り着く。雪はちらっと後方を振り返った。


 廊下にもエレベーター前にも人はいない。今がチャンスだった。


 足早に『五〇一号室』に辿り着くと、もう一度あたりを見回し人がいないことを確認してから中に入った。


「典型的な男の一人暮らしね」


 1Kの部屋、真っ直ぐの伸びる洋室までの廊下には物が並んでいる。新聞紙やよく分からないガラクタまで。仕事で忙しくて片付けている暇はないのだろうか。


「さて、と……」


 雪はリュックサックを下ろし、黒い皮手袋を手に嵌める。この部屋の主はゴミを出しに行っているだけなのだからすぐに戻ってくる。


 洋室にはベッド下に隠れるスペースがあるってことだったが、本当だろうか。隠れられなかったら、別の場所に潜まなければならない。


「バレちゃったら、面倒だから殺しちゃおうかしら……」


 最近殺しをしていない雪にとってはそれも有りな選択ではあった。


 土足のまま部屋に上がり、洋室に向かう。


 洋室にはドアを開ける必要があった。その前左側はキッチンになっている。冷蔵庫に電子レンジ、ゴミ箱。他にも調理器具などはあるが随分と小綺麗にしている。もしかしたら使っていないのかもしれない。


「自炊は大変だものねー」


 勝手の母親心が湧いてくる。


 雪はウキウキと洋室への扉を開けた。


「意外に綺麗ね。……まあ、余計なところを探さなくて済むかしら」


 洋室は左側にベッドが一つ、右側はPCのある机や本棚、小物を飾るラックがあった。


 これから一つ一つこの中を漁る訳だが、そろそろ部屋の主が戻ってくるだろう。ベッドの隙間を見ると、そこには充分に隠れられそうな隙間があった。


 リュックサックを下ろしベッドの隙間に押し込む。雪も自信をベッドの下に潜り込もうとするのだが――


「胸、つっかえないかしら」


 床に寝そべりベッドの下に入っていく。胸はぎりぎりつっかえることなく入ることが出来た。


 身体がベッドからはみ出ていないことを確認して大丈夫だと思っていると――


 ガチャ、と玄関扉の開く音が聞こえてきた。


 雪は息を潜める。


 男は一度ベッドに座り、しばらくすると立ち上がった。床に男の衣服が落ちていく。どうやら会社に行く準備を始めたようだった。


 男が部屋から去り、水音が聞こえてくる。淡々と生活音が聞こえてくる中、雪は彼が去るのを待った。


 着替えが終わって準備を済ませたのか、ベッドと部屋中央にあるローテーブルの間にドカッと座り込んだ。何かを食べている音と妙に可愛らしい声が聞こえてくる。テレビも無かったし、スマホで動画でも見ているのだろう。


 食事も終わって動画の音だけが聞こえてくる。


 そんな時間がしばらく続き、ふうと大きなため息をついて、男が立ち上がった。シンクに何かを置いたのが聞こえる。


 そしてそのまま雪のいる洋室に戻ってくることはなく――玄関扉の開き閉じる音が聞こえた。次の瞬間には鍵の回った音も。


「……行ったかしら」


 今更になって思うのだが、これは『居空き』ではなく普通に『空き巣』だ。誰もいなくなった部屋で物を漁り、盗むのだから。


 雪は少しの間、耳を澄ませていたが男が戻ってくる様子は無さそうだった。


 リュックサックを掴み、ベッドの下から這い出る。


 ぐるりと部屋の中を見回す。社会人の男の一人暮らし。なにかいい物はあるだろうか。


 雪はお宝が出てくることを期待して、胸を膨らませた。

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