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アトラベ聖王国

公爵令嬢はほっこりお味噌汁の夢を見る

お味噌汁って何回書いただろう?

書きたいとこだけ、設定はふわっと。異世界転生は匂わせ程度。

拙作 『悪役令嬢はイケオジ辺境伯に嫁ぎたい』と少し繋がっています。


「ほっこりお味噌汁が食べたいのです」


開口一番そう言った、本日初顔合わせの婚約者候補の少女──ダフネリア・マッチェヌ公爵令嬢は、緩く巻いた蜂蜜色の髪を揺らしてため息を吐いた。

長い睫毛が白い頬に影を落とし、悩ましげに揺れる翡翠の瞳はまだ幼いながらどこか色気すら感じさせる……が、しかしそれよりも。


「ダフネリア嬢、無知ですまないが……ホッコリオミソシルとはどのような食べ物なのだろうか?」


この国──アトラベ聖王国の第一王子であるクロヴィス・ヴィ・アトラベは、十二歳にしては優秀と目されているが、そんな彼もまだまだ知らないことは多い。鼓動が速まっているのは、目の前の少女を夢中にさせる未知の料理への興味からだろうか。

知らないことを知らないと告げる素直さを好ましく思ってもらえたのか、ふぅわりと微笑んだダフネリアから目が離せない。


「ふふ、興味を持っていただけて嬉しいです。殿下、どうか笑わないでくださいませね?ほっこりお味噌汁というのは、私の夢に出てくる食べ物なのです」

「夢に……?」


ぱちぱちと瞬いて首を傾げるクロヴィスに、ダフネリアは小さく頷いて頬を微かに染める。やがて、ゆったりと続けられた彼女の言葉を要約するのならばこうだ。

月に数回程の頻度で見る夢の中で、彼女はここではない別の世界の住人として過ごしているのだという。おそらく学生の身分であると思われる夢の中のダフネリアは、朝食に出てくるじゃがいもと玉ねぎの“お味噌汁”というスープのような料理をそれはそれは好んでいるらしい。


「お味噌汁だよ、ほっこりするよ……と、夢の中の女性が微笑んでくださいますの。その方のことを私、もう一人のお母さまのように思っているのです」

「なるほど。ほっこりというのはもしや、ほっとするというような意味だろうか?」

「……!確かに、お味噌汁をいただいた時の気持ちは侍女のマーサが淹れてくれた紅茶を飲んだ時に似ています。きっとそうですわ!」


殿下は凄いですわねと無邪気に目を輝かせるダフネリアにつられるようにしてクロヴィスが笑う頃には、すっかり二人は打ち解け合っていて。

それから一時間程、王妃であるクロヴィスの母に声を掛けられるまで、お味噌汁なる料理について語り合ったのだった。



◇◇◇◇◇



「ふふ、懐かしいですわね……」


ほんのりと熱い頬を隠すように扇を広げ、ダフネリアは少し気恥ずかしげに微笑んだ。今や立派な淑女になった婚約者のそんな顔が見られるのならば、思い出話も悪くない。


二人の初顔合わせから六年。十八才を迎え、王太子となったクロヴィスとその婚約者であるダフネリアは、毎日を忙しくも心穏やかに過ごしていた。


つい数ヶ月前には、幼い頃ダフネリアと婚約したいと駄々を捏ねたことのある第二王子が侯爵令嬢に婚約破棄を──よりにもよって令嬢の誕生日を祝うパーティーで──宣言し、王子有責の婚約解消に至るという傍迷惑な事件もあったが、聖王家側が()()()()()()()()()を取った為、大事には至らなかった。

元々、臣籍降下し新たな家を興すと決まっていた第二王子に優秀な婚約者をという理由での婚約だったのだが、何を思ったか子爵令嬢に入れ揚げたというのだから呆れ果てる。


「頭の痛い事態もあったが……落ち着いてきたところだ。君が良ければ、またお味噌汁についての調査を進めないかと思ってね」

「よろしいのですか……?幼い頃から、夢の話だというのに殿下をずっと付き合わせてしまっていますわ」

「構わないよ、何なら今は私自身がお味噌汁を食べてみたくて堪らないくらいだ。それに……やはり聖女マリコ様の故郷との関係も否定できない」


アトラベ聖王国の成り立ちには、始まりの聖女と呼ばれる異世界の女性が深く関わっているとされている。聖女の残した異世界の知識とダフネリアの夢には幾つか似通ったところがあり、 それを調べる為に何度も書庫に籠ってはいつかお味噌汁を食べるのだと笑い合った日々は大切な思い出だ。

同時に、今の二人の善き関係を築く為になくてはならなかったものだとクロヴィスは考えている。


「それから、ダフネリア……」

「はい、殿……っ」


扇を取り上げられ、直後に唇が触れる寸前まで近付いた互いの顔に今にも目を白黒させんばかりに慌てふためく婚約者の様子が愛しくて、クツクツと笑ったクロヴィスは翡翠の瞳を真っ直ぐに見つめ──


「クロヴィスだ。二人の時は、名前で呼んでくれる約束だろう?」

「……ッ、はい、クロヴィスさま」


いい子だと頭を撫でれば、途端に淑女の仮面を手放し拗ねたような表情を浮かべるダフネリアがあまりにも可愛らしくて、胸が暖まるようで。


「私を()()()()させてくれるのは、いつだって君だよ。私のダフネリア」


そんな愛する彼女とお味噌汁を食べられたなら、きっと天にも昇る心地になれるのだろう。

蜂蜜色の髪に指を絡ませながらうっそりと目を細めるクロヴィスの頬を、申し訳程度の抗議とばかりに細い指が摘まむのであった。



「ほっこりする」

意味:心や体があたたまってほっとする、癒される・微笑ましい気持ちになるという意味


ここまで読んでくださってありがとうございます。


もしよろしければ、本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです!


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