思っていたより使えるね。
ボクは今、この城・・・スベート城にある闘技場に来ている。
10㎡の石で出来た巨大な舞台の上でボクと対峙するように立つ4人。
この4人がレンシア様の近衛軍らしい。軍というより部隊だね。
第一皇子の近衛軍は100人以上居るらしいけど、少数精鋭であることを期待しよう。
1人目はこの戦いを進言したツバキ=ロットマン隊長
緑の髪から考えて彼女は風属性だろう。彼女はエルフらしい。
エルフは魔法に優れた種族なので魔法をメインに戦らしいが、
今回はレイピアを持っている。
2人目は黒髪の青年ゼルク=ファレッザ。
彼は竜人であり、西洋刀を武器に持っている。近接戦闘型だろう。
3人目は青い髪の少女レイナ=キャレンディア。
彼女は獣人で、頭から何の動物かわからないが耳が生えている。
彼女は今のボクと同じくらいの身長なのだが、身の丈を超えた巨大な斧を使う。
最後の1人はレンシア様の部屋で監視していなかったようで、
初めて感じる気配だった。黄髪の少年ルイズ=レルカミア副隊長。
彼は鳥人で、弓矢を使って戦うらしい。
さて、コレが近衛軍の面子か・・・
今回ボクは鋼糸の使用を禁じられている。
同じように向こうも魔法を禁じられている。
理由は殺傷能力が高すぎるからだ。なので全員が木製の武器に持ち換えることになった。
ボクは鋼糸の変わりに短い短剣を2本選んだ。
理由は簡単、ボクは長物は好きじゃないからだ。
槍なんて使い辛くてかなわない。コレは単にボクの腕の長さの問題だ。
日本刀なら使ってみたかったが、残念ながらそれに似た武器は用意されていない。
言い忘れていたがボクの体に起きた副作用は視力だけじゃない。
身体能力も格段にあがっている。今回は体の動きになれることも目的に入っている。
ボクが選び終わると全員が既に準備ができていた。
隊長さん、ゼルクさんはそのまま自身の武器を木製に変えたような木刀を持っている。
レイナちゃんはハンマーのようだ。木製でも当たれば最悪死ぬだろう。
最後に副隊長くんは矢じりの代わりに布が巻かれた矢を持っている。
さて、模擬戦とはいえ初の対人戦だ。気合を入れなくては。
審判はレイル団長がやることになった。
「コレより白髪の旅人 対 レンシア様近衛軍の模擬試合を始める。
期間は日暮れまで。双方最後まで諦めぬこと。
では・・・・はじめ!」
レイル団長の声で初めに動いたのは隊長さんだった。
普段後衛だろう彼女がいきなり突っ込んで来るとは驚きだ。
ボクは隊長さんの木製レイピアを右の短剣で受け流し、左の短剣を頭に向けて振り下ろす。
しかしその攻撃は外れる。ゼルクさんが彼女の鎧を掴んで後ろに引っ張ったのだ。
思っていたよりゼルクさんは冷静なようだ。何故彼が隊長じゃないのだろう?
まぁボクの勝利条件は誰か1人に触れることだから気楽にやるか。
ボクがそう思った瞬間、顔の横から何か危険が迫っていることを感じて慌ててしゃがむ。
ブンッ・・・
ボクの顔があった位置を巨大木製ハンマーが通り過ぎた。
いやいや殺す気ですかレイナちゃん?
ボクは背中に嫌な汗を感じた。
ロングコートの能力で自分の体を通り抜けるだけとは理解していても本能的に避けてしまう。
それが隙を生んだ。
気が付くとボクに向って上空から副隊長くんが矢を放っていた。
やれやれ、コレは予想以上だった。仮にも相手は軍人。
いくら身体能力が上がっていても素人が相手になるレベルではないか。
しかし此処で負けるつもりはさらさら無い。
全能の力を発動しイメージする。内容は全ての矢を短剣で打ち落とすボクだ。
副隊長くんの矢を全て打ち落としてボクは駆け出した。
狙いは隊長さんだ。彼女はボクのことが気にいらなようで無謀な行動をとってくる。
開始と同時に駆け出すなんてまさにその表れだ。
ボクは足に力を籠める。
「縮地。」
幻の歩法、縮地で一気に彼女の背後に回りこんで短剣を背中に突きつけた。
「うそっ、いつの間に・・・」
信じられないと言った声で隊長さんが弱弱しく呟く。
「勝者、白髪の旅人!」
レイル団長が高らかに宣言した。
コレで近衛軍には問題なく入れるだろう。
反則技を使ってしまったことがいささか心苦しいがまぁ結果オーライか。
予想以上に近衛軍も強かったしね。
ボクはそう思いながら腕の力を抜いた。