第二皇女
このサウスタウンという町にあるこの城の謁見の間で、
ボクは赤髪の15歳位の少女と向かいあっている。
彼女の名前はレンシア=デモン=ガルド。帝国の第二皇女様だ。
何故第二皇女様が帝国でも片田舎に位置するこの城にいるのか?
ボクはそれが気になったが口には出さなかった。
「貴女がグライガーを討伐したという旅の方ですか?」
第二皇女様は穏やかな口調でボクにそう聞いてくる。
この世界で始めて礼儀正しい口調に出会えたが、ボクはそれどころではなかった。
この皇女様は純白のドレスに身を包んでいた。ソコまでは良い。なんせ皇女様だ。
だが解せない事に、
皇女様の背中にはドレスとは対極的な漆黒の蝙蝠の翼に似た翼が生えていた。
ボクはとにかくその事が気になった。あれか、此処は魔族とか言うのの国かもしれない。
なんせ異世界だ、魔物が居るくらいなら上位存在の魔族くらい居るだろう。
おっと、皇女様の質問を無視するわけにはいかないね。
「はい、その通りです。」
手枷が無ければコレでもかという程に恭しい礼を見せていたが、仕方がない。
ボクは軽く会釈して皇女様を再度見る。
「では早速ですいませんが、私よりも華奢な貴女が、
グライガーを討伐するのに使った武器が糸だというのは本当ですか?」
穏やかな表情の皇女様だが、内心は疑心と好奇心で埋め尽くされているようだ。
「はい。」
ボクは短く答える。
「では見せていただけませんか?」
は? こんな場所で何に対して技を振るえと?
「実は今、兵士の訓練用の案山子を用意してあります。
それをあなたの糸で切り裂く所を見せていただけませんか?」
やれやれ、そこまで準備しているという事は強制しているのと一緒だろ。
「わかりました。」
しかたない、見せてやるか。ボクは手枷を外して貰うと用意された案山子と向き合う。
ボクは鋼糸を創造すると、それを案山子の首に巻きつけて軽く引っ張った。
ゴトッ・・・
手ごたえを指先に感じたと同時に案山子の首が地面に落ちた。
謁見の間に居るお偉いさんや騎士たちが息を呑むのを感じる。
「コレで信じて頂けましたか? 第二皇女様。」
ボクは呆けている皇女様に意地の悪い笑みを向けてそう聞いた。
「え、えぇ、有難うございます旅人さん。」
皇女様は驚いたように此方を向くと、引きつった笑みを浮かべてお礼を言った。
「すみませんが、私には貴女にいくつかお聞きしたいことがあります。
勿論お答えしたくないときは黙秘してくださってかまいません。」
皇女様は短く息を吐くとボクにそう言ってくる。
「何でしょうか?」
「貴女の髪の毛、それは地毛ですか?」
いきなりソコを付いてくるか。コレは思ったより攻撃的な皇女様のようだ。
「えぇ、ボクは生まれつきこの髪です。」
無論真っ赤な嘘・・・とも言えないか。
なんせボクはこの世界で生まれ変わって別人になったとも言えるからね。
「そうですか、では貴女の魔力属性を教えていただけませんか?」
ふむ、コレもなかなか答え辛い質問だな。案外捻くれた性格なのかもしれない。
「申し訳ありませんがボクは魔力属性を調べたことが無いんです。
こんな髪の色で生まれた身としてはどんな結果が出るのか恐ろしかったもので・・・」
ふむ、上手くいけば自分の魔力属性を調べさせてもらえる。
やっぱり魔法のある世界に来たなら一度は使って見たくもなる。
「そうでしたか。今から調べさせていただきたかったのですが、そういったことなら・・・」
「かまいませんよ。」
ボクは皇女様の台詞に割り込むように話す。
「最近ボクも魔法に興味を持っています。コレを機に自分の能力を知りたくなりました。」
ボクは満面の笑みを浮かべてそう言った。ようは調べさせろと言っているのだ。
「わかりました。」
皇女様がそう言ってから暫く待つと透明な水晶が運ばれてきた。
「この水晶に手を置いてくだされば貴女の魔力属性を知ることができます。」
この水晶に向けて全知の力を使う。コレは幻像化の宝玉という道具だ。
触れた対象の属性によって火なら火の幻を作り出す水晶だ。
因みに幻の大きさによって魔力量も知ることができる。
ボクはそれを知ると、右手で水晶に触れた。