国のトップが私情に駆られるな!
「マヤ=ウェイデッドよ、お主がレクテスにした仕打ちがどういうことか理解しておるか?」
ボクの前で剣を握り締めた皇帝がそう聞いてくる。
やれやれ、皇帝ともあろう男が身内に対する感情を抑えられないなんてね。
「陛下、私がレクテス様に何をしたと仰るのですか?
私には陛下がお怒りになるようなことをした身に覚えがございませんが?」
ボクは微笑をうかべながらそう聞く。
証拠を見つけられないのに一番近くに居たからなんて理由で疑られては困る。
・・・・まぁ、ボクが犯人なんでけどね。
試合が終わった後、レクテスが5番手の正体だと発覚した。
一時期、会場に騒ぎが起きたが、なんとか静まって閉会式がおこなわれた。
優勝したボクたちの主、第二皇女レンシアが次期皇帝になると正式に決定した後、
ボクはレンと共に謁見の間に呼ばれ、こうなっっている。
「とぼけおるか。
ではレクテスは何故、突然倒れ、目覚めてからも気が狂ったように暴れるというのだ?
お主が何かをレクテスにしたのであろう?」
む、さすがに皇帝、怒り心頭なご様子だけど冷静さを失っていない。
そこらへんは傍でオロオロしている我が主殿にも見習って欲しいね。
「皇帝ともあろう方が憶測でモノを言わないで下さい。
私がレンシア様を? ご冗談を、あの方は私が魔法を使おうとした瞬間、
突然気を失われてしまったのですよ?」
2度の試合で指パッチンで魔法を使えると皇帝は解釈しているようで、
はたから見ると、鳴らしたと同時にレクテスが倒れたように見える。
だからこの言い訳は充分に通用する言い訳だ。
「むう、しかしお主は指を鳴らす前にレクテスと会話をしていたようだが?
その時にレクテスの意識を奪い、気を狂わせる何かを言ったのではないのか?」
どうやらこのおっさんはよっぱどボクをレクテスの仇にしたいらしい。
「あぁ、あれですか・・・
あれはレクテス様とは知らずに少し世間話をさせていただいただけですよ。
何故マントと仮面を被って居るのか? とかですね。」
ボクはそう答えて皇帝とレンの様子を伺う。
「・・・どうあっても自身が下手人ではないと言うのか?」
「えぇ、ソレが真実ですので。」
言い切った。同時に皇帝の剣が振り下ろされる。
「お、お父様っ!?」
レンの慌てる声が聞こえる。しかしボクは特に何もする気は無かった。
防御も、回避を、反撃も。
ピタッ、という効果音が相応しい見事な寸止め。
全知で知っていたので特になんとも思わない。
「・・・何故避けん? お主なら避けるだけでなく私の命も奪えたはず・・・」
「買い被り過ぎですよ。ただ私は陛下を信じただけです。」
「・・・私を信じた?」
「えぇ、国のトップたる貴方なら、根拠の無い私情よりも論理を優先してくださると・・・
そう私は信じていただけです。」
口からでまかせ、自分が嫌になる。まぁ、こう言うしかないかけどね。
ボクの私情でレクテスを廃人にしたんだ、論理を優先した皇帝は素直に尊敬しても良いかな。
「・・・レクテスの件に関して疑ったことを謝罪する。すまなかった、マヤ殿。」
しばらく考えた後、皇帝が剣をおさめて頭を下げてきた。
「頭を上げて下さい陛下。お子さんが情緒不安定なってしまっては、
父親としてしかたなかったと私は理解しています。」
国のトップに簡単に頭を下げられても困る。
「む、そうか。」
その後、色々とあの時の詳しい状況とボクの魔法について聞かれた。
ボクは当たり障りの無い返答で答える。
「今日はもう暗くなってきた、マヤ殿はもう休まれよ。
レンシアには話ておきたいことがあるのでな。」
ようは話が終わったからさっさと下がれって事か。
「マヤ殿、レンが皇帝になった後も国を支えてくれることを期待する。」
退室する直前にそう皇帝が声をかけてきた。
「さぁ、それはわかりませんね。」
ボクはそう言い残して退室した。