殺人サーカス
「皆様、お越しいただき有難うございます。
当サーカスをお楽しみになるのに御代は必要ございません。
命が続く限り、当サーカスをどうかご堪能下さい。」
それは懐かしい彼の記憶、そう両親が死んでから出会った恩人の記憶。
両親は死ぬ前に、ボクが大学を出るまで、
生きていける十分な金額を残してくれたことを以前話しただろう。
それはたかが1人の生活費や学費等なのだが、それでもかなりの大金だ。
普通の家庭ならそれだけの金額は子供を育てるのに普通に使っている。
しかしそれはあくまで少しづつ給料から消費していくものだ。
それを一括で用意されてしまえば、親戚を狂わせるのに十分な金額だっただろう。
ボクの親戚たちは幼いボクに残された遺産を掠め取ろうと躍起になっていた。
自分で言うのもなんだけど、ボクは幼いなりに親戚たちの考えがわかっていた。
だからボクは親戚が甘い言葉をかけてきたときに、罠にかかるふりをして、
両親の遺産に手を出そうとしたら別の親戚の家に移る生活を6歳まで行ってきた。
6歳のボクは小学校に入学すると、
同時にこの世界に来る前まで住んでいたアパートに移り住んだ。
当然ボクに手が出せない親戚たちは悔しがった。
そして恐ろしい企みを持ってボクの前に現れた。
それはボクに生命保険をかけて殺してしまうというモノだった。
ボクが死んで世間に殺人がバレなければ保険金が入ってくる。
うまく行けば両親の遺産も手に入るかもしれない。
という考えにとらわれた親戚たちはボクを騙して呼び出した。
抗ったけど、それでも大人の力には敵わない。ボクは首を絞められて意識を失った。
殺人なんてしたことの無い親戚たちは意識を失ってグッタリとしているボクを死んだと思い、
ボクを車で橋まで連れていて投げ捨てようとした。そこで意識を取り戻したボクは暴れたが、
やっぱり抗うだけの力が無いボクは再び首を絞められそうになった。
そこでボクは彼に出会った。
「おいおい、よってたかってそんな小さなお子様を殺そうなんて酷いんじゃないか?」
声がした方向を見ると右目に眼帯をした20代くらいの男性だった。
「うるさい、見られたからにはお前にも死んでもらう!」
親戚の1人がそう叫んで彼に殴りかかったと思った瞬間、その親戚が宙を舞った。
「皆様、お越しいただき有難うございます。
当サーカスをお楽しみになるのに御代は必要ございません。
命が続く限り、当サーカスをどうかご堪能下さい。」
彼はそう高らかに叫ぶと、腰から2本にナイフを抜く。
その後が凄かった。彼はまるでサーカスで道化師が踊るように動き、
ナイフで親戚たちを切り裂き命を奪った。
それは親戚たちのような素人ではなく、命を扱うプロなんだとボクは思った。
ボクは目の前で行われる殺人に対する恐怖よりも、
彼の踊るような動きに眼を奪われた。
やがて最後の1人を切り裂いた彼は、
ボクに歩み寄ってきてボクの頭に手を置いて乱暴に撫で回す。
「俺のことを怖がらないなんて面白い餓鬼だな。」
彼はそう言うとしゃがんでボクに視線を合わせた。
「貴方はボクの命の恩人だよ。なんでそれなのに怖がるの?」
ボクは子供ながらにそう聞いた。その時のボクは彼の言った意味を理解できなかったから。
「ぷ、あははは、確かに俺は命の恩人だ。だがな坊主。」
突然笑い出した彼にボクは困惑しながら次の言葉を待った。
「俺は殺人鬼だ。怖がらないといけない人種だ。
お前の命を助けたが、次はお前の命を奪うかもしれない。
そんな奴に恩義を感じる必要はないんだよ。
いいか、何で坊主が殺されそうになったかは俺は知らないし興味も無い。
だからお前も俺の事なんて忘れちまえ、いいか、恩義を感じて憧れんなよ。」
彼はそうボクに言って去っていった。無理だった。ボクにとって彼はヒーローになっていた。
結局その後は残りの親戚たちは手を出さなくなってきた。
ボクが彼に殺された親戚たちに何かしたと思っているんだろう。
逮捕されたのも何人か居たけど僕の知ったことではない。
そんな経緯でボクは人よりずれた感性に育ってしまった。
だからボクは殺しは許せても騙しには酷い嫌悪感を抱く。
ボクは近くに居た男の額に短剣を突き刺してそのまま下に引いて切り裂いた。
そのまま返す手で別の男の剣を防ぐ。そう彼の見せた道化師のような踊りで。
ここはボクのサーカスだ。
命を奪う、1人の道化師が踊り狂うサーカス・・・
そう殺人サーカスだ。