番外編『錯誤と本性』
「さ〜む……」
期末テストも終え、冬休みを目前に控えたこの期間。年明けまで活動を一旦停止する部活も増え、校舎内に残る生徒は激減したものの、生徒会役員は相変わらず必要なのかどうかも分からない業務に勤しみ最終下校ギリギリまで何かしらの作業をさせられている。
俺、宮下アツヤも他の役員の先輩方同様毎日学校に居残って書類整理やら何やらの雑務を黙々とこなしている。
成り行きで入った生徒会。ラノベなんかと違って現実の生徒会なんて肩書きだけで特にやることなんて無に等しいだろうと思っていたのに完全に読みが外れてしまった。まさかオールシーズンフルで何かしらの行事に駆り出されるタイプの生徒会だったとは。
俺とは違い、明確な目的を持って生徒会を志していたにも関わらず入ることができなかった水瀬というツレに「命拾いしたな」と零したくなる日々である。
まったく、中学と同じ生徒会選挙なる民主制に頼った選定方式を取っていれば100%俺が生徒会に入る事もなかっただろうに。
なんだ、役員直々の指名制って。そんなもん生徒会役員の身内でもなければほぼ入ること敵わないじゃねぇか。そんでもって、それを踏襲した上でなんで俺が選ばれるんだよ。意味分かんねぇよ。何も考えずテキトーに二つ返事で「あ、いいっすよ」って承諾しちゃった過去の俺に関してはもっと意味わかんねぇよ。輪をかけて意味がわからねえ、断れよ。確かに部活もしてなくて日々暇を持て余してはいたけどさ。
「ふぅ……」
空き教室の戸締り確認をし、次の目的地である美術室の鍵をポケットに突っ込んだまま手探りで引き当て取り出す。ったく、部活動もしてないのに毎日戸締り確認って必要なのかね? てかこれこそ教師なり用務員なりがやる仕事じゃねえ? ペーペーの一年坊主に任せる事かよ、この作業のせいでほぼ毎日最終下校まで居残りだぞ。アホらしいわまじで、眠いし寒いし最悪だ。
「わひゃっ!? びっくりしたあ!?」
……?
美術室の中を確認せずに鍵を閉めようとしたら、その物音を聴いたらしい中に居た人物が間抜けな声を出した。なんだ、人居たのか。
「あー……美術部の人っすか? 作業終わったら手数かけるっすけど生徒会室まで」
「なーんだアツヤくんかぁ! いやはやびっくりしたよ〜こんな時間まで普通の生徒が居残ってるわけないしワンチャン学校に潜む怪異と遭遇してしまったのかと思ったぁ〜! 物語シリーズの新ヒロインとして遂にあたしも西尾維新ワールドのデビューを飾るのかと思っちゃった! 所でアツヤくんは何故まだ学校に? もしやっ、置きっぱなしの女子の体操服なり上履きなりを密かに楽しむ趣味をお持ちでっ!?」
落語家ばりに一方的に話し始めるじゃん。この声とテンション感、嫌な予感がしつつも声の主を見る。
同学年でやたら目立ってるギャルトリオの1人、間山桃果だ。嫌な予感が当たり前のように的中した。
てかどうしよ。気まず。面識はあるものの友達の友達、つぅか友達の彼女の友達だぜ? 声掛けずらいわ。
「間山か。なにしてんの? 寒いだろ、帰れよ」
「いやいや見てよこれー! 切り取った日常をエモめの加工施しながらフィルムに残してくれる神アイテムで遊んでいたらご覧の通り、現像した写真が膨大すぎて散らかっちゃったんだよ〜!」
「フィルム? スマホが普及したこの令和の時代にポラロイドカメラなんか使ってんの? 粋だね」
「ノンノンノン。これはチェキ撮りマシンで直接撮影したものではなく、スマホで撮った写真や画像なんかをチェキとして印刷できるマシンを介して物質化した物なのだ! 先日ヴィレヴァンで大量に投げ売りされてるのを見つけてね〜? 衝動に任せて20個程買ってしまって、折角だからと大現像祭りをしていたわけよ!」
「金の使い方バグってんだろまじで。じゃあなに、その散らかった写真を片したら即帰宅って感じか? 戸締りしたいし片すの手伝おうか」
「戸締り? すずめの? あ、アツヤくん生徒会なんだっけ! そうだなぁ、片付けを手伝ってくれるのはありがたいけど折角なら思い出の共有をしたいな! 元々そういう目的で買ったものだしね、よし! おいでアツヤくん!!」
「息継ぎするまでに会話が二転三転しすぎだろ。ほんで俺は片付けを手伝うって言ってんの、思い出を共有してくれとは言ってないのよな」
「まあまあいいからおいでよー! ふふっ、こういう青春真っ只中なイベントは全部攻略していかなきゃ! 放課後の教室で美少女と二人、互いに写真を眺める。素敵じゃない?」
「自分で美少女って言うのな」
「ブスと申すか!」
「申してねえよ。どっこいせ」
美術室の椅子を引きずり机の前で座る。
「ふふっ。良ければ雪見だいふくもどうぞ」
「さんきゅ。半分こしてやるよ」
「なんで??? デフォで2個入ってるのに半分こする必要あるかな?」
「なんで寒いのに雪見だいふく食わなきゃならねぇんだ。1個丸々だと大口開けなきゃならねーし。だから半分やるよ」
「あたし半分こされて中身こぼれてる雪見だいふく好きくな〜い」
「よし切れた。ほれ」
「あれ。あたしのセリフ聞いてなかった? しかも切ったやつ思い切り残った雪見だいふくの上に乗せたね? 外面全部ドロドロになっちゃうよ」
「なる前に頬張ればいいんじゃないか?」
「この寒い中1.5個分の雪見だいふくを一口で食らえと申すか!?」
「ほむ。うん、美味い」
「すごいスルースキルだ、小依のそれとは比較にならない……仕方ない。あんむっ!」
「で? 早く写真見せろよ、思い出シェアハピしてくれんだろ?」
「まひゃくひのなかにゆひみらいふく残ってぅ(まだ口の中に雪見だいふく残ってる)!!!」
間山が頬をリスのように膨らませながらなにやら抗議してくる。物食ってる時くらい静かにできないものなのかね。
頬杖つきながら咀嚼し終えるのを待ってたら「ジロジロ見ないで!」と怒られた。なんなのこの人。
「ん! 食べ終えた!」
「胸に零れてんぞ」
「ありゃ。そういう時は黙って拭いてくれるのが紳士ってものだけど流石に女子の胸には触れないか〜。いやはや気付けなかった! おっぱい大きいと当たり判定的にここに零れちゃうからなー申し訳申し訳!」
「たしかに。お前って案外胸でかいんだな」
「今??? 今まで何度か話した事あるよね? その発見今する???」
「男から見たら女なんてみんなちっこいドワーフみたいなもんだし。見下ろす分胸の大小なんてあんま気にならないんじゃね。話す時なんか大体目と目の真ん中辺りくらいしか見ないし」
「高身長男子特有の視点すぎるでしょ。てか女の子をドワーフ扱いするな!」
「いてっ」
何故か肩を小突かれた。他の女子相手なら勿論こんな発言はしないが、間山も結構そういうの気にするんだな。いつも変態みたいなこと口走ってるからキモいおっさん自認してるのかと思ってた。
「なんか! なぁーんか! アツヤくんって他の男子と話すより調子乱れるなっ! 既視感だ、昔の知り合いにちょっと似てるかも!!! ……っていうか、メガネかけてないのにすぐあたしの事間山だって分かったのも謎だし! 大体みんな裸眼で顔合わせたら誰? ってなるのに」
「そうなんだ。で、写真は?」
「ねえ。今の一言あれじゃない? メガネかけてなくてもわかるなんて……みたいなフラグが密かに立ちそうなワンシーンじゃなかった? それをそんな流し方するかな普通。別にあたしもそういう気は皆無だったけど、にしても無関心すぎない?」
「もう片していいか?」
「ずっっっっっっと一貫してこっちのペースに乗ってこない! 支配できない!!! こんなの高校入ってから初めて!!!!」
腕を組みながら悶々と何か唸りを上げた後、間山は珍しくため息を吐いて普段よりも落ち着いたテンションで椅子に座った。
「では気を取り直して。こちらの8枚の写真をどうぞ」
「8枚? そこの山盛りになってる写真達は?」
「これ全部見合ってたら日が暮れちゃうでしょ。興味あるなら後日またお披露目会をしてあげよう!」
「はい受け取りましたと」
「はい。じゃあまず最初、というか順番通りに見ていこうか。1枚目の写真は立派なお胸が写ってる写真で間違いないかな?」
「どんな紹介の仕方? まあ確かに立派ではあるが」
一度雪見だいふくのゴミを片した間山が対面に座りスマホを眺める。あちらは印刷元のスマホ内の写真を眺めながら説明してくれるらしい。
手元の写真に写り出されていたのは酪農体験かなにかの写真だろうか? のどかな場所でご満悦顔の間山が牛の隣に立ってダブルピースしている写真だ。プライベートで行ったのか? すげえな。
「いやぁ、しかしいつ見てもこの大きさには圧巻だよね。流石にこのレベルの巨乳は見た事無かったから、了承が得られるのならカップ数を調べてみたいものだよ」
「………………ん?」
「ん?」
「ん? カップ数???」
「うん。え、カップ数分からない? おっぱいの大きさを指すんだけど」
「それは知ってますけど」
「ちなみにあたしはFカップだよ。……何言わせるのさ変態!」
「何も言ってねえよ別に。なんで火のねえ所から煙立たせられるんだよ」
「あたしのおっぱい妄想してお楽しみする気だな変態め!!!」
「うんそれは多分すると思うが。今回の一連のやり取りがそうさせにきているから仕方ない」
「え、きも」
「殺すぞ」
「てかてっきり精魂枯れ果てたつまらない男だと思ってたのにそういう欲求自体はあるんだ。分かんないなーアツヤくんのキャラ」
「一般的な男子高校生なんだからそりゃ欲求はあるよ。まあ今の下りはそれこそ青春エピソードとして脳に残しておくとして、だ。写真のこれに関しては別に気にならねえだろ」
「いやなんで??? 明らかにこっちの方があたしのより興味そそられない? こんなにおっきいんだよ???」
「でかいけども」
「なに。年齢に着眼して興味ないって言ってんの? そういうのちょっと良くないんじゃなーい?」
「年齢以前にだろ。種族が違うのになんでそんな所気にしないといけないんだよ」
「種族? 違うのは性別でしょ?」
「えっ」
「えっ」
……ん? なんか話が食い違ってる? 本当に同じ写真を見ているか? これ。
「確認なんだけど、今見てるのって豊満なお胸とアヘった笑顔がフラッシュバックしてしまうくらい見事なダブルピースが写し出された写真で合ってるよね?」
「合ってるな。アヘった笑顔がとか自分から言うなよ。余計記憶に刻まれるってそんなん」
「自分から? ……自分から??? ……? まあいいや。その写真欲しい? いくら出す?」
「いくらなん?」
「んー。千円ぐらい?」
「絶妙に出したくねぇ値段。後の写真見てから決めていいか?」
「性欲に素直か。別にこれよりインパクト強い写真ないと思うけどなー。じゃあ次の写真」
酪農体験の写真を捲り、次の写真を見る。これは……街のポールの上に乗った見事な巻き糞のように見える、なんだ? スライムか? 水色のラメが入ったスライムを巻き糞風に置いて撮った写真か。
「これねー。すっごい綺麗な景色だよね」
「綺麗??? 綺麗、かなぁ?」
「綺麗じゃない? なんというかさ、静寂の終わりを告げる暖かな青、みたいな? テーマとしてはそんな趣きを感じる1枚だと自負しているよ」
「壮大だな。壮大すぎるな。現代アートの一貫なのかそれは。むしろチープさしか感じない俺は芸術性が低すぎるのか」
「まあ日常と言えば日常だしね。常にそこにある物に対してチープさを感じてしまうのも間違いではないと思うよ。感じ方は人それぞれさね」
「急に語り口が上からの目線になってますけども。そういう作風のギャグかなんかだと捉えればいいのか? これに神々しさを纏わせるようなノリで笑いを取りに行くのコロコロコミックぐらいでしか見ねえよ」
「え〜? 小依に見せたらあの子もすっごい感心したような声で『綺麗だな〜』って呟いてたけどなぁ」
「あぁ……まあ、いつも一緒にいるしな。センスが同じなんだろうな、きっと」
「って事なのかねぇ。写真家の才があるって褒められて有頂天になってたけど、今度小依も誘って二人で写真撮る日でも設けようかな」
「変わり種の女インフルエンサーのSNSみたいになるんじゃないか? いいと思うぞ」
「丁寧な生活系女子になれるかな?」
「女芸人じゃないかな。方向性は」
「女芸人??? ……まあ、結構趣味がハイセンスな芸人さんもいるしね」
ハイセンスというか。包み隠さず言うなら、スライムをうんこに見立てて写真撮って喜んでるとか小学生かよって言いたくなるけども。
まあ、傍から見てて明らか不思議ちゃんキャラだしなコイツ。感性が少し特殊でもそこはよしとしよう。
次の写真は間山が女子生徒のスカートを大胆に捲り上げている写真だった。パンツがモロ見えの。
「…………っておい! おい、おい、おい!!!」
「あははっ。いやーここに来て面白みのないガチ日常の1枚が来ちゃったね」
「ガチ日常!? いやそうかもしれんけど分からんけど男からしたら! でもお前っ、これは男に見せたらダメじゃないかなぁ!?」
「え? な、なんで? 普通のツーショットじゃない?」
「普通!? なんだろうさっきから俺へのラッキースケベラッシュがすごいな!? お前本当に間山か!? 姿を似せたサキュバスとかではない!?」
「ふっふっふ。よくぞ見破ったなアツヤくん」
「冗談はよくて! これ、この子の了承は得てんのか!?」
「了承? んー、別にネットにあげるわけでもないし良くない?」
「良くねえよ馬鹿じゃねえの人に見せんなこんなもん!!!」
「む。なによーその言い方。一体何にそんな反応示してるのさ? ……まさか、この少しだけめくれあがったスカートに対して文句言ってる?」
「少しだけ!?!? これは女子界隈では少しだけに該当するのか!? ああでも確かにお前らギャルトリオは揃いも揃ってスカート短いもんな! もう惜しみなくだもんな!!」
「そうなのです。あたしら女子からしたらこの程度の露出、へっちゃらちゃんなのですよ」
「素直にすごいなあと感心するよ逆に。とんでもねえけどな、見せられた側からしたら」
「ふーむ。でもこんなんで興奮されるとちょっと微妙な気持ちになるな。折角ならもっと布面積少ない方が良くない?」
「これ以上減らしたらそれこそマニア向けになってくるな〜〜それは良くないんじゃないかぁ!? だってもうモロじゃん! パンどころかその向こう側まで行くやん!? 良くないんじゃないかなぁ!?」
「えー? モロってそんな? 別にもう少しくらいなら見せても問題ないと思うけどね。あたしら若いし、綺麗なスベスベツルッツルの脚せ」
「良いよそんな詳細情報やめてくれ!?」
コイツがやばい女であることは再度確信した。怖いわ、コイツ。これ以上深掘りすると更にろくでもない話題に転がっていきそうなので次の写真を見る。
「お。いつものギャル連中の写真か」
「だね」
次の写真は冬浦と塩谷がアイスを食べている写真だった。学校帰りかな、普通の写真っぽい。ほっと胸を撫で下ろす。
「いや〜しっかし可愛いよね〜この子達。初めて見た時から一目惚れだよ!」
「ほーん。まあ気持ちは分からんでもないな。女から見てもそう思うんだ」
「そりゃもちろん! もうメロッメロです毎日! あ、この子達うちで飼ってるんだけどね?」
「うんうん。……ん?」
「初めてうちに連れて行った日はそりゃもう怯えてるのか警戒してるのかで手がかかる子達だったんだけどさ。今ではもうあたしに心を許してくれてね」
「待てる?」
「ふふっ。なあに?」
「なあにじゃない。うっとり顔で返事するな。お前、自分が何言ってるか分かってる?」
「何って? 別に、ただ単にペットの愛くるしさを語ってるだけなのだけれども?」
「あ、すごい淡白な返し。鳥肌立っちゃった」
「なによー今度は? あたし何か変なこと言った?」
「変な事しか言ってないよ? こいつらを、なんだって?」
「だから、飼ってるの。飼育してるの。うちで」
「やばいやん」
「なにが? ちゃんと餌やりはしてるよ?」
「餌やりやばいなあ。言い方まっずいなあ。いやそれ以前に、もうお前サイコパスすぎて同じ空間にいたくないんだけどもさ」
「言い方が気に食わないって話? まあ気にする人もいるか、じゃあ餌やりじゃなくてご飯をあげてるって言えばいいってことかな」
「違う違う。ああ言葉を訂正してるのに全然改善されてないな終わってる脳内イメージ」
「二匹とも無邪気だからご飯あげるのも一苦労でねー。いっつも乱暴にガツガツご飯を食べるから餌がお皿から出て床が汚れちゃうんだ」
「匹やめてね? ……てか床が汚れるって何、犬用の皿に飯突っ込んで食わせてんの!?」
「そりゃそうでしょ?」
「俺水瀬とも田中とも友達なんですよね一応!? 俺とお前がそれなりに接触機会あるのってそういう理由だからだと思うのですが!? アイツらになんて言えばいい!? てか言っていいかなこの事、一大事だよね!?」
「ん? 二人とも時々うちに遊びに来るよ? この子達に餌を上げたり遊んであげたりもしてるし」
「グロいグロいグロいグロい!!! なにそれ!? なんでアイツらはその状況を是としているの!? 世にも奇妙な物語!? 俺なんか変な異世界に迷い込んじゃった!?!?」
「この前は粗相をしちゃったうちの子のお世話を水瀬くんがしてくれたし。田中くんもしてくれたっけな、良い人達だよね〜彼ら」
「どっちが! どっちの!? いやもうそんな次元の話じゃないな! なんだこれ!? 頭爆発しそうだわグロすぎて!!!」
「グロいって言いすぎー。可愛いじゃんこの子達! お風呂に入れてあげてる動画、見せよっか?」
「ダメダメ本当に脳が壊れる色んな意味でやめて!?」
「あ、でも言っとくけどあたしは服着てますからね。そこのラッキースケベは期待なさらぬよう」
「そんな次元の話はもうしてないんだわ!!! 今更気にならないんだよお前の湯浴み姿なんか見ても!!! むしろ見たら発狂する自信あるもんね!? どんなハードAVなんだよそれは!?!?」
「確かに、言い方的にはある意味AVだね。見るかね? あたしが手がけた渾身の可愛さ目白押しAV動画」
「見ッッッッッ…………ねぇ!!! 見ねぇ!!! 今死ぬほど選択に迷ったけど流石に見ねぇ! 見れねぇ!!! トラウマになるから!!!」
「大袈裟だなぁ。今度うち来なよ、アツヤくんにも可愛いうちの子達と触れ合ってほしいし。てか今日来る?」
「行かないよ!? なに当然のように招待してくれちゃってんの行くわけなくない!?」
「あれま。結構硬派なんだね? NTR漫画の竿役チャラ男みたいな見た目してるのに」
「じゃあ死ぬなあ俺!! そういう風にお前の目から見えてるんなら明日以降行方不明になるもんな俺!? バラバラにされて黒いゴミ袋に詰め込まれる未来しか見えないねぇ!?!?」
「なんで??? ……あたし、彼氏いないしヤンデレとかでもないよ? あと身持ちも固い自信あるからどれだけ押されても心折れないからね! フラグではなく!」
「立ってるフラグは死亡フラグだけなんだよなぁ!?」
「あはは。さて、この写真の話題もいい感じに纏まったので、次に行きましょう」
「いやなんで司会進行できる? 前科者になる覚悟はできましたか? 流石にこれは見過ごせないぞ」
「なーんの話をしてるんだか。ほら、写真めくってめくって」
間山が無邪気な笑顔で俺に次をせがんでくる。怖いです。逆らったら殺されそうです。
震える手で写真を1枚めくり、次の写真を見る。うわ……また冬浦と塩谷が写ってる。二匹の犬に囲まれて楽しそうに戯れてる微笑ましい写真だ、その裏にある尊厳破壊については考えないようにしたいのになんか涙出てきた。
「ああ……こんなに楽しそうに笑っているのに裏では……もう心は壊れきってしまって……」
「何の話をしてるのさ? にしても美味しかったなーこれ」
「美味しかった? ……待て。お前、食ったのか!? この子達を!?」
「この子達って、なんかアツヤくんって変な人なんだねー。食べ物の事をこの子って呼ぶタイプなんだ? 飴ちゃんみたいなノリ?」
やばああああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!?!?
やばあああああぁぁあぁああぁあぁぁぁぁあぁぁぁあああぁぁぁぁっ!!!?!?!?
コイツ、冬浦と塩谷が可愛がってるこのワンコ達を食べちゃったのか!? やべえよやべえよやべえやべえやべえやべえやばすぎいいぃぃぃっ!!!?
そういう食文化がある国は存じてますけどここは日本!!! でこの二匹首輪ついてますよおおぉぉっ!!? 誰かの飼い犬である事は間違いないよね!? 他所様の犬を食べちゃうのはちょっとタブーがすぎないかなっ!!?!?
いや勿論タブーの度合いで言ったら冬浦と塩谷を飼育している方が全然やばさ加減突き抜けてっけど!!! もうやばさが蓄積されて頭の中大混乱だわ!!
この人、こわっ!! 怖すぎぃぃぃぃぃっ!!? 初めの方はダルいなあうるさいなあFカップなんだ確かに胸でけぇなあ揉みてぇなあくらいしか思ってなかったけどもう! もう怖い以外の感情抱けない!!! 誰か助けてええぇぇぇぇ俺一人じゃ何も出来ない下手な事したら殺されるううぅぅぅぅぅっ!!!!
「この時も服に汁が零れちゃって、ベトベトして何気に嫌な思いしたんだよねー。あたしってよく食べ物こぼすなぁ、食べ方下手なのかな?」
「これがほんまのホットドッグってか……」
「んー? ホットドッグ美味しいよね、毎日食べてるー(学校帰りコンビニにて購入)」
「毎日!? やばああぁぁ……」
「次の写真はー」
まだやるの!? この狂気の展覧会まだ続行するの!? そうだよねまだ5枚しか見てないもんなあと3枚未知の写真が残ってるもんな。
くっそなんで俺は何も考えずにコイツの提案に乗っちまったんだ! いつもそうだ!! 何も考えずに選択していっっっつも後悔してる!!! 後悔ばかりの人生!!! それがたった今終息に向かっているんだ! 誰か助けてえええ!!!
「わぁお! これは問題のお写真ですねえアツヤくん! 男の子としては反応せざるを得ない1枚だ!」
「3枚目以降問題の写真しかなかったけどな……」
女子生徒のスカートを捲り上げてモロだしパンツを激写した1枚に、家で飼育している同級生の女子2人の表での姿を撮った闇深い1枚、もう既に間山の腹の中にいる在りし日の二匹のワンコの闇深い1枚。
これらの写真を見せられた俺が今更何に驚くよ? いよいよ知ってる奴の惨殺死体でも見ない限り驚かねえよ。驚けねえよ。意外にも強い自分の涙腺にびっくりだよ、泣き叫びたいよ怖すぎて。
「む、むー? なんか反応薄くない?」
「……ただのツーショットだろ。なに、この子にもなんかしてんのお前」
6枚目の写真はありふれた女子2人のツーショット写真だった。女の子座りしたマスク女子と間山がピースしてる、女子高生がよく撮ってそうな感じのやつ。
「……えっと。見ればわかると思うけど、何かはしてるでしょ。アツヤくん、目ぇ節穴なの? それとも口だけで本当は本当に精魂枯れ果てて欲求とか感じないタイプの人?」
「お前と知らない女子とのツーショットを見て興奮しろってか? 本気で言ってんのかお前」
「え?? いやまあ……そうは、言ってるね? なんでこれ見て興奮しないの?」
「ナルシストか」
「ナルシスト云々関係なくない!? こんなド派手にスカートめくれあがってるんだよ!?」
スカート?
……スカート?
……あぁ。めくれてるな、マスク女子の方のスカートが少し。本当に少しだけ。
「ふふふ。あたしの指摘でようやく正気に戻ったようだねぇそんなに写真を凝視しちゃって。どうだい? この写真ほしい? 今なら千円でこの眉唾物のお宝写真が手に入りますぞ!」
「……マニア向けの商売か何かか?」
「えっ。いや見るからに……」
「そりゃお前、顔は良いけどよ。……これ見て楽しめって? お前で?」
「んんっ!? あたし!?!? なんであたし!? あたしじゃなくないどう考えても!!?!?」
「いやこの写真から得られる情報で興奮得られる要素お前にしかないだろ」
もう一人はマスクしてるし。スカートめくれてると言っても見えてるの膝のちょい上くらいだし。
「なんだろうな、怖いからあんまりお前の容姿について言及したくないんだけど。でもま、確かに裏事情を知らない連中からしたら貰えるなら貰っときたい写真ではあるかもしれん。ギャルトリオ残り二人がイカついキャラしてるから目立たないけど、純粋に美人さで言えばお前が1番綺麗だし」
「んなっ!? いやいや全然そんなことないあたしは美人ではないっ! なに急に!」
「うわこわっ! ……お前って1人でいる時どこか遠い彼方に思い馳せるどこぞの国の姫みたいな気取った儚い顔するだろ。怖いし詮索しねぇけど。でも普段そういう雰囲気醸してるのに人と話す時は一生懸命明るく見せようと、どうにか少し幼くて明るくて無邪気な、子犬っぽさのある表情を無理に作ってまでして相手を楽しませようとするよな。そういう献身的な所があるから印象からかけ離れちまうんだけど、やっぱこうして見ると美人ではあるだろ」
「どうしたの急に!? な、なんなの!?」
「まて、落ち着け。武器をしまえ。後生だ」
「武器なんて持ってないよ!!」
「そうか。ふう。南無阿弥陀仏アーメン。まあ、だから変にスカートがどうとか意味の分からないことを持ち出して売り込まなくても、これにはそれなりの需要があるから他の誰かに売り込めばって話だよ。俺はいらねぇけど。こんな特級呪物」
「んっ、な、なんっ、なんだそれっ!!! なんっ、なんなんそれっ!! なにアツヤくんっ!?!? なっ、んっ!!!!」
「あぁ怖いっ」
俺の舐めた態度についに痺れを切らしたのか、怒髪天を突き怒りに染まった真っ赤な顔の間山が机を回り込んで俺に拳を叩き込んできた。腰の入った良いパンチだ。恐怖も相まって軽く3mくらい転がったぜ。
「……っ!?」
いや待て。待て待て待て。間山は同級生をペットにし、他所の飼い犬を食っちまう女だぞ!? そんな女がただパンチを入れるだけに留まるわけなくない!? 絶対刺されただろ俺、やばい! どこだ!? どこを刺された!? どこを刺されたぁぁぁぁぁぁぁっ!!?!?!?
「な、なにゴキブリみたいにカサカサ動いてるのよ。撃たれたわけじゃあるまいし、変なの!」
「止血してくれ。頼む。死にたくない。死ぬのは嫌だ」
「ただ殴っただけなんですけどっ!!!? はあっ! もう……。…………で、次の写真ね」
「なんで続けられるんだよ。あれか? そういう悪魔崇拝かなにかの儀式か? 写真をトリガーにして俺を贄にサタンを降臨させるのか? 分かった、お前の裏稼業については誰にも言わない。だからどうかこの学校を呪われた忌み地にしないでやってくれ。頼む……!」
「意味分かんないんですけど!? 次は……ああ、下らない写真ね。……下らないって言っちゃった。でもま、ただの思いつきで撮ったものだし、特に意味は無いか」
「お前にとってはこの綺麗な朝焼けの景色も下らないと吐き捨てられる物なんだな……何がお前をそうさせてしまったんだ……」
「別にこれ朝焼けじゃないから! どちらかと言うと夕方に撮ったネタ写真だから! 別に深掘りするエピソードもなし!」
今まで見た写真の中では1番マシだった綺麗な景色の写真のターンが何も語られることなく終わってしまった。全部こういう写真だったらなあ、コイツの闇に触れることもなかったのに……。
「で、最後!」
「……あぁ」
最後の写真は間山とルミ先っていう、屈指の巨乳を持つ若い女教師とのツーショット写真だった。
……あ、ルミ先、間山に腕を組まれてる。組まれた状態で見事にエロ漫画そのまんまの構図のダブルピースしてるわ。
フラットな目線で見たらとんだ面白写真だな、エロ漫画をうっすらコラージュさせられそうな感じ。でもなぁ、きっと腕を組む程の親密な相手なら間山の標的になってるんだろうなあルミ先も。
「いやーこの牛さんとの触れ合い体験は中々に楽しかったわよ。久しぶ…………じ、人生で初めて乳しぼりなんてしたし搾りたての牛乳を飲ませてもらったりもしたし! 有意義に過ごした夏休みだったわ!」
「ああそうか。もう毒牙にかかっていたか」
「はい? 毒牙?」
「ルミ先……ルミ先の乳を飲んだの!? いやえぐっ!? えぐぅっ、やばい気持ち悪くなってきた……」
「は、はあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?!? いやあのあんた何言っ、馬鹿じゃないの!? なんなのさっきから!!! 意味わかんない事ばっかり言ってあたしをからかって…………あれ? あんたの写真」
「分かった。言う通りにする。だから水瀬と田中には手を出さないでくれ。あと、冬浦と塩谷は解放してやってくれ。頼む……」
「………………全部が繋がったわ」
「その他の人の事は、俺一人の命じゃ……」
「あんた、写真逆から見てる」
「……は?」
*
最終下校時刻を過ぎて学校を後にし、俺と間山は駅近くのマクドナルドに入り今日の夜食を貪っていた。
「あははははっ! いひひひっ、お腹痛いお腹痛い……!」
「笑いすぎな」
「いやだって! なーんか話が微妙に噛み合ってないなあって思ったら見てた写真の順番が逆で! 途中からあたしが小依と結乃をペットにしてたりワンコを食べちゃってたりみたいな妄想に取り憑かれて過剰に怖がってたとかマヌケにも程があるでしょー! あーお腹痛い! 常識的に考えてそんなわけないじゃーん!」
「お前の脳って常識積んでるんだな。エロ知識で空き容量0なのかと思ってたわ」
「なにさ、誤解が晴れた瞬間強気な事言い出しちゃって。さっきまで怯えてたくせに〜?」
「ちなみにまだ怯えは残ってはいるけども」
「えぇ〜? なんで〜? あたしの何に怯えてるの〜?」
「写真の順序が逆だった事でサイコパス疑惑は確かに晴れた。が、それはそれとしてスカート捲りの写真はなんだったんだよ。あれに関しては言い逃れ出来ない大セクハラ写真だろ」
「ああ、あれね。あの子、男子なんだよ」
「は?」
「ほら。よく見てみ」
間山がスマホをいじり件の写真を画面に表示する。
「この髪の部分、ウィッグだって分かるでしょ? これは男子がおふざけで女装してた際にイタズラした1枚なのさ。てかパンツもよく見てよ、男物でしょ?」
「分かんねえよ、中にはトランクスを履く女だっているだろ」
「居ないでしょ」
「アニメには居たぞ」
「アニメだからでしょ」
「アニメだからか。……いや、男が相手ならなおのことスカート捲りするなよ。お前男のパンツ見たがったのか? 変態が」
「別に見られても減るもんでもなし、あたしら女子はただ普通に過ごしてるだけで1日何回もパンツ見られてるんだからたまの仕返しくらい許してほしいよね〜」
「下にズボンでも履いてこいよ」
「やだよ。ダサいもん」
「別の高校のツレは女子みんなスカートの下にジャージ履いてるっつってたぞ。痴女みてえにパンツ丸出しで登校してるのなんてここらじゃうちくらいじゃねーの」
「そりゃー仕方ないよ! なんたって制服が可愛いんだもーん。制服の可愛さでこの高校選んだ子がほとんどなのに、その個性を潰すようなファッションに身を包むと思うかい?」
「じゃあパンツ見られるのも大目に見ろよ」
「大目に見てるから男女分け隔てなく接してるつもりだったんだけどな〜。それなのにサイコパス疑惑をかけられて怖がられて変態呼ばわりされて。あたしは悲しいよ〜およよ」
「変態なのは間違ってないし、そういう方面で倫理の制御効いてないって点ではある意味サイコパスで間違いねえからなお前。勝手に人の事自作エロ同人誌のキャラにしてやがんの知ってんだぞ」
「仕方ないよ。金髪、高身長、筋肉質、ちょっと日に焼けててピアスを隠そうともしない。アツヤくんの容姿がまんま竿役すぎるんだもん。初めて見た時は度肝抜かしたよね〜、そんな人が大事な親友の彼氏の友達だからもうあたしの頭はてんやわんやだったんだから」
「地毛なんだよ、金髪は。体格も持って生まれたもんだから仕方ねえだろ。別になりたくてなってるわけじゃねえしそこ汲んで今後は俺を邪悪な寝取り男にするの自嘲しろよな」
「ピアスは生まれつきじゃないでしょ? せめてそれを取りさえすれば竿役度数も下がるんじゃないかな」
「バーガー食わないのか? なら貰うぞ」
「食べないわけなくない??? 貰うのならせめてポテトじゃない? なんでメインディッシュを行こうとしてるのやめて。離して? 離しなさい! おい!」
「うまし」
「本当に食べる奴がどこにいる!!?!? ねーえええ!!! そこは普通フリで終わるところじゃん本当に食べるとか有り得ないんだけど!!?」
「むぐむぐ」
「後ろのでっぱりに肘乗っけてあたしを見下ろしながら食べるな!! 顔腹立つ〜〜!!! 最悪、意地悪!!!」
再び顔を真っ赤にした間山が先程と同じ、恐らく素っぽい口調で俺に抗議してくる。普段からそうしてりゃ無駄に煩わしい過分な人間関係に割く時間を減らせて、本当に好きな友達連中との時間を優先出来るだろうに。
どうせチェキ擬きを買った理由も、自分が求める時間分関わることができない冬浦と塩谷との青春を目に見える形で残したいっていう不満から来る行動だろうしな。
なんつぅか、離れた位置から見てるだけじゃ分からなかったがこの女は思った以上に不器用な性格をしているらしい。献身的と言えば聞こえは良いけど、自分のしたい事よりも周りが楽しめる事に重きを置いた抑圧タイプというか。
……いや、違うな。周りを楽しませて、自分もその輪に入って馬鹿やることで楽しんでいる風に立ち振る舞うタイプか。
まあこんな事推察した所で何をどうしようとも思わないが。そんなに思い入れもないしな。
ただ、何故か俺に対してはそれなりに素の自分を出してもいいって判定になってるっぽいし、それなら家に帰るまでの間だけでも八方美人モードにならないよういじったりどつかれたりしてやろう。誤解のせいで変なレッテル貼って徹底抗戦の構えを取った後ろめたさもあるにはあるしな。
「あ! 今度はあたしのシェイク飲んだ!? やばお前、普通に間接キスするじゃんきもっ!」
「あー? お前これ不味いって言ってたろ」
「言ったけど! 吐きそうになったけどさ!!!」
「一瞬顔面梅干しみたいになってたもんな。美人であればあるほど顔面崩れた時の威力増すよな〜、ガチ梅干しだったぜさっきのお前」
「死ね!!! てかあたしの飲み物〜!」
「金渡すからなんか買ってこいよ。あと甘いもん食いたいな。マックフルーリーよろ」
「パシるな死ね!!! …………マックフルーリーね。お釣り出ないよう全部使い切ってやる」
「ざけんなせめて千円くらい返せや。……五千円渡して全部使い切るってまじか。お前相当デブなんだな。着痩せすごっ」
「あたしの! どこが! デブに見えるんだよ節穴野郎〜〜〜!!!」
短気だなぁ〜素の間山。軽口を叩いただけなのにまーたすぐに顔を赤くしてこっちにずんずんやってきた。両腕を伸ばして取っ組み合いでもする気らしい。人目とか気にしないタイプなんだな。
キャラ作ってる間山はなんか気持ち悪くてあまり接したくなかったが、素の間山も面倒くさいな。衆目の場で女子と取っ組み合いの喧嘩などしたくないので逃亡を図ろうと立ち上がろうとした所、間山が自分の鞄に足を引っ掛けて大きく体を傾けた。
「うあっ!?」
間山が俺の方に倒れてくる。避けたら硬い壁にヘッドバットか。めっちゃ笑えるなそれ、泣かれても困るから避けないけ、ど……。
「あ、わりぃ」
「……」
うわー。その気は全然なかったんだけど、かなり思いっきり胸を鷲掴む形で受け止めちゃった。なんなのこの人、キモい変態キャラじゃなくなったはずなのに引き続きラッキースケベをプレゼントしてくれるじゃん。青少年の育成に悪いな〜。
「怪我はないか?」
「……本来ならありがとって言うべき所なんだけど。ごめん、感情が今ぐっちゃぐちゃ。とりあえず怪我させてもいい?」
「いいわけないが」
「そうよね。……すっごい久しぶりだわ、ここまでのムカつきを必死に抑える感覚」
「そりゃよかっ、おーい。殴るなー。抑えれてないぞー」
腰の入った良いパンチが俺の腹筋に突き刺さる。鍛えててよかった、咄嗟に力入れてなかったらゲボ吐いてた勢いだったわ。
「……ふふっ」
「なんで笑った? おい、なんか怖いんですけど? なんで人を殴りつけといて暗黒微笑でもない爽やかめな笑みを零した? 怖いぞー。てかキモいぞー、大丈夫か間山ー」
「……宮下」
「あん?」
間山は顔を上げた後、童貞なら一撃で即死させられそうな馬鹿みたいに可愛い笑顔で「次はぶっ殺すからなてめぇ」と言ってきた。どういう感情なんだよそれ。




