ネズミの腕前
モグモグ
「あ、美味い」
「ほんと? 良かった」
普通に美味い。見てたとはいえ、こんなに上手く味付けと火を通す工程ができるものなのか。
やっぱりうちの子は天才かもしれない。おっとすまない、親バカが出てしまった。
それにしても、一人暮らしをして自分以外の手料理を食べられると思ってなかったから、結構新鮮だな。
そしていつもと変わらない料理なのに、いつもより美味しく感じる。
「いつもより美味いな」
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いつもより美味しい••••••? ただ見よう見まねでいつものを作っただけ。飼い主、やっぱり変な人。
でも、美味しいって言われて悪い気はしない。
「椛は食べないの?」
「食べる。私も食べる」
正直、人の食べ物を食べても大丈夫なのか不安ではあるけど、何とかなるはず。
モグモグ
「美味しい」
普通に美味しい。やっぱり人になっちゃうとネズミ用の餌じゃダメみたい。
でも、飼い主、毎日こんなに美味しいもの食べてると思うと少しずるい。いつも食べてた餌より美味しい。
「うん、本当に美味しいな。これから朝ごはんは椛に作ってもらおうかな。なんて、冗談だよ。毎日はキ」
「良いよ。特別に作ってあげる」
「••••••ツイ! え!? 良いのか? いやでも、ペットにご飯を作らせるというのは何とも」
「自分から言ったんでしょ。やっぱりなしとかダメ」
「お、おう。椛が良いなら」
もちろん私は良い。飼い主より私の方が多分美味しく作れるし。
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これから椛が朝ごはんを作ることになった。今決まった。ペットにこんな事をさせて良いのかという罪悪感の反面、美味しい手料理を食べられると思うと、少しありなんじゃないかと思ってしまう。
椛はそれで良いとは言ってるものの、毎朝早く起きて不慣れな料理をするというのは、思ってるよりキツイものが有るんじゃなかろうか。そこだけは少し心配。
「ごちそうさまでした」
そんなことを考えていたら、あっという間に完食してしまった。美味しかった。
「お粗末さま」
そんな言葉どこで覚えたんだ。今の時代、お粗末さまなんて使う人見た事ないんだが、まさか椛から聞くとは思わなかったな。
「なあ椛。お粗末さまなんてどこで覚えたんだ?」
「テレビ。礼儀作法みたいなのやってた。お粗末さまって」
礼儀作法でお粗末さまって習わなくない!? しかも今どきなら尚更。そういうもんなのかな
「飼い主、お仕事は」
そうだった!椛のことでビックリしすぎてつい忘れていた。今日は仕事があるんだ。早く準備しないと。
「ありがと、教えてくれないと完全に忘れてた」