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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

双子の兄が、私を呼んでくれた。

作者: 綾瀬紗葵

 何とか二本目が仕上がりました。

 仲の良い双子もいいですが、そうではない双子もいいですね。

 新作を書く度に、微妙に設定の違うものばかりが浮かぶのは困りものです。

 さらっとですが虐めの描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

 


 私には双子の兄がいる。

 一卵性双生児のはずなのに、似て見えないのは性別のせいか、能力差のせいか。


 兄はできる男で、私はできない女だった。


 だから両親は兄と私を徹底して差別した。

 ことあるごとに比較した。

そのたびに、どうして私だけが酷い目にあうの? と泣き、怒り、存分に喚きながら暴れたけれど。

 結果は私への虐待がより酷くなるだけ。

 私が絶望しなかったのは、兄がひたすら私に優しかったからだ。

 何時だって両親のあらゆる暴力から私を守ってくれた。


 兄は私の全てだった。

 兄だけがいればいいと心の底から思っていた。

 優しい兄は、両親以外からも愛されたからだ。


 幼稚園も、小学校も、中学校も、高校も一緒に通えた。

 両親はそのたびに私を悪質で有名な場所へ追いやろうとしたが、兄が周囲を巻き込んでくれたお蔭で、一緒にいられたのだ。

 兄から離れようとしない私に対して、周囲は……特に女の子たちは……私を虐めようとしたが、両親で慣れていたので私は彼女たちの虐めを虐めと認識していなかった。

 無視に悪口、持ち物を隠すもしくは捨てる。

 殴られたり蹴られたりしないだけ全然楽だった。

 逐一兄へ報告すれば、大概は無視だけになったしね。


 学校へ行けるようになったのは本当に良かった。

 家にいる時間が少なくてすむからだ。

 友達はいなかったが、兄がいてくれたし、教師の大半は私に対して同情的だった。

 自分たちの手では、両親をどうにかできないという罪悪感があったからだろう。

 両親は無駄に資産や権力を持っていたので、大人の事情で教師が両親の対応に苦心しているのは理解していたので、恨んではいない。

 他の生徒からの虐めにもきちんと注意をしてくれる教師もいたしね。

 乗っかる教師もいたから困ったけどさ……。


 乗っかる教師で特に酷かったのは高校生のとき。

 男女ともにいたなぁ。

 女教師は兄に惚れていたみたい。

 年齢差ぇ! 教師が生徒にとかぇ! などと酷いことを思いました。

 内緒にしてください。

 双方が納得しているなら勿論いいよ?

 むしろ障害が多くて大変だけど頑張れ! って応援するくらい。

 だけど女教師からの一方的な好意だったからねぇ……。

 兄が愚痴を零すほどに酷かったから、私は頑張って兄に憧れる女子生徒のヘイトを女教師に向けたよ。

 両親に貴様ほど馬鹿な人間は知らん! とか毎日罵声を浴びせられて気がつくのが遅かったんだけど、私。

 そこまで馬鹿じゃなかったんだよね。

 兄ほどに頭の回転は良くなかったけど、それでも平均よりは上だったみたい。

 だからね。

 思考誘導? は難しくなかった。

 むしろ簡単だった。


 女教師は兄に襲いかかろうとした現場を女子生徒に見られて、派手に騒がれて退職していったよ。

 女子生徒の一人がいい感じに加工修正した動画を流したから、教師として復職どころか職を得るのは難しいだろうね。

 やりすぎって思う?

 私はねぇ、思わなかった。

 兄は酷く消耗していたから。

 悪いことをしたんだからさ。

 罪は過不足なく贖ってもらわないとね。


 そうそう、加工修正した動画をネットに流出させた女子生徒は退学になったよ。

 やりすぎって判断された結果だね。

 私は表向きは止めたんだ。

 断罪には手順が必要でしょう?

 やり過ぎが許されるのは物語だから。

 現実は違う。

 だから、彼女に言った。

 私を虐めるより、教師を追い詰めるのが楽しくなった彼女にちゃんと忠告をした。

 動画は加工修正しちゃ駄目。

 ネットに流すのは駄目。

 動画はそのまま、まずは校長先生へ、反応が良くなかったら、教育委員会へ提出。

 それでも駄目ならマスコミへ……は追加しなかった。

 校長先生も教頭先生も比較的真っ当なタイプだったからね。

 私の虐めにも頑張って対応してくれてたし。


 格好良く修正された兄は、一躍時の人となった。

 年上BBAに執着された悲劇の美男子って感じ。

 両親は斜め上の方向に頑張って、随分敵を増やしていた。

 兄は頭を抱えていたけれど、私への虐めが少し落ち着いて、自分を納得させたみたい。

 妹の私を虐めるリスクを冷静に考えられる人が増えたんだよね。

 巻き込まれるのが嫌で傍観を決め込んでいた人たちが、地味に距離を縮めてきた。

 鬱陶しいほどではなかったし、罪悪感からの親切だったので、ある程度は受け入れたよ。

 結構派手に虐めていたのに掌返しをしてきた人たちの敬遠にも役立ったしね。

 

 ただねぇ。

 そんな対応をしていたら、今度はあれよ。

 私へのストーカーが爆誕した。

 しかも男教師。

 どちらかと言えば虐め加担側だったから、どの面下げて? と言いたかったよ。


 できる兄の影で一生懸命頑張っていた健気な妹。

 彼女を虐める屑な女教師が排除されて、彼女は美しく輝くようになった。

 そのせいで虫が彼女にまとわりつき始めたのは困った状況だ。

 これは教師である自分が排除して、生徒である彼女を守らねば!

 一番良い方法は、彼女との結婚だ。

 専業主婦になれば、彼女は自分以外と接触しなくてすむから、安心するだろう。

 ……警察で事情聴取を受けた男教師は、そんな妄想を延々と語ったらしいよ?

 担当した刑事さん、お疲れ様です。


 しかもこの男教師。

 倫理担当の教師だったんだから笑えない。

 行き過ぎた正義感は害悪でしかないっていうのにね。

 ただでさえ、繊細で難しい教科なのにね。


 最終的には、僕が彼女を守ります、安心してください、お兄さん。僕、彼女と結婚しますから! と宣いました。

 兄と一緒にその台詞を聞いたんだけど、ガチで怖くて滂沱しましたわ。

 話が通じない相手は両親で慣れていたけれど、今回は違う方向だったからさ。

 一方的な過度の好意は、少なくとも私にとって虐めと変わりなかったんだ。

 男教師が卒業と同時に結婚の予定です、とぶちまけたときは、本当16歳で結婚できない法律になっていてしみじみ良かったと思った次第です。


 幸いにも男教師は普段の言動が微妙だったのと、私のそばにいるようになった友人? たちがあれこれ証言してくれて、男教師には懲戒免職の処分が下された。

 女教師は退職を選べたけど、男教師の場合は女教師っていう前例があったからかな。

 処罰が迅速だった。

 失敗に終わったけれど、私の盗撮や拉致監禁とかも試みてたみたいだしね。

 教員免許も剥奪されたと聞いてほっとしたよ。

 私以外の被害者は出ないに越したことはないからね。


 あ、最後に一個だけ付け加えておこう。

 この男教師。

 言動があんまりだったから精神鑑定を受けさせられたんだけど、結果。

 白でした……。



 そして、運命のあの日。

両親が兄と私に望まない婚約を押しつけてきた日の夜。

 兄が私を呼んでくれたのだ。

 着々と準備を進めていた、両親の権力が及ばない外国への移住先へと。

 

激しく拒絶されると予測していた両親は、私を自宅に拘束監禁した上で、婚約決定を言い渡した。

 兄は珍しく留守にしていた、その隙を突いて私は間抜けにも拘束されてしまったのだ。

 告げられた相手は名ばかりの名家。

 嫁いだ嫁は三年以内に亡くなるか精神を病むと有名な地獄。

 呆然とする私に両親は続けて言った。

 兄も婚約させ、間を置かずに結婚させると。

何時か、兄と離ればなれになる日が来ると理解していた。

 兄が幸せになるなら自分は不幸でもいいと覚悟もしていた。

 だが、これは駄目だ。

 絶対駄目だ。


 兄の婚約者として告げられた名前が、最悪だったからだ。

 私の嫁ぎ先と違って由緒正しき名家で、あの家へ嫁げば三代は安泰だと囁かれるほどに立派な家系だった。

 けれど、どんなすばらしい家にも闇がある。

 両親が選んだのは寄りにもよって、その名家の力を持ってしても矯正が叶わなかった正真正銘のモンスター令嬢だったのだ。

 名前は美しい。

 容姿も美しい。

 頭も良かった。

 その上資産家の娘でもある。

 どんな道を選んでも幸せだったのではないだろうか。

 彼女がサイコパスでさえなかったならば。


 しかも彼女は美しいものを独占し、徹底的に破壊する悪癖があった。


 兄は美しい。

 当然彼女のお眼鏡にもかなうだろう。

 だからこそ、兄の未来が予知できてしまった。

 身も心も壊されてしまう兄の、絶望的な未来が。


 両親は彼女の噂を知っていた。

 知っていた上で、兄を差し出したのだ。

 兄ならば、大丈夫だと。

 彼女のそばで、美しく壊されぬまま、幸せを享受するだろうと。


 確かに兄は頭脳明晰だ。

 並大抵の相手に屈することはないだろう。

 でも、彼女は駄目だ。

 何しろ人ではないのだ。

 彼女はモンスター。

 幾度か遠目で見てわかるほど、彼女はいろいろな意味で人間離れしていた。

 

 せめて兄だけはどうにかしなければと、深い思考に沈んだ私を見て、両親は私が何もかも諦めて絶望したのだろうと判断し、私を嘲笑いながら去って行った。

 その暴飲暴食で肥え太った背中が、私が見た最後の、両親の姿だった。


 兄に幾度も名前を呼ばれて、深い思考から引き摺り上げられる頃には、私は家を出ていた。

 高級車に乗らされて、兄が説明してくれたのは、両親との物理的な絶縁を含めた海外への移住。

 何年も前から慎重に準備してくれていたらしい。

 両親や婚約者になるはずだった相手より上の権力を持つ者は、海外にしかいなかったから苦渋の決断だったと言われて、涙が出た。

 当然喜びの涙だ。 


 泣いているうちに、空港に着いた。

 説明されて私たちが普通に使う空港にも、プライベートジェットの発着所があるのだと知る。

 自分の無知に猛省しつつ、プライベートジェットの中へと足を踏み入れた。

 絨毯がふかふかだった。


 着いた先はアイスランド。

 世界で最も平和な国。

日本との仲も比較的友好な国……だったはず。


 その国に兄は家を購入していた。

 実家の成金趣味丸出しの豪邸とは違う、温かく住み心地の良い家だ。

 名前からしてとても寒い国なのかしら? と思っていたが、そうでもない。

 日本の東北とほぼ変わらない気温で四季もある。

 何より安心して帰宅できる家があるのだ。

 それだけで私は幸せだった。


 大学に通いながらアイスランド語を学ぶ。

 英語は日本語レベルで使えるが、永住するなら早い内に覚えた方が良いだろう。

 何処へ行っても兄は人気者だ。

 最近では美しい彼女らしき人もできたようだ。

 そろそろ紹介されそうな予感もある。


 昔から兄が大好きだが、そこに恋愛感情はない。

 とても恋愛感情によく似た憧れを長く持っていたけれど、今は純粋に敬愛できていると思う。

 兄の親友という男性が、私を常に守るように近くにいてくれるからだ。

軽やかな赤い髪に透き通るような青い瞳。

 長身でどこまでもスマートな彼に対して、私が隣でいいのかな? と思案に耽ることも多い。

 ただ、彼以外の男性を自宅に招く気にならないので、私ももう決めているのだろう。

 彼と二人家路につく私は、今日も、明日も、その先も。

 ずっと幸せなのだと。

 


 外国について調べる度にリアルで行きたくなります。

 行きたい一番の理由は食事です。

 本場で食べたいよね! と思うのですが、たぶん本場の癖が苦手なので後悔する気もします。

 外国には一度も行ったことがないので、一度くらいは行ってみたいですね。

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