黒と白
「それってどういう…」
春花は話の続きを聞こうとするが、そこにレオンが戻ってきた。
「春花さん大丈夫ですか?」
「この話は終いだ。レオンも戻ってきたことだし俺は帰るよ」
ハクはそのまま部屋を出ると長い廊下を歩き上へ行く階段を上り、扉を開けるとそこは吸い込まれそうになるほど闇夜。星ひとつない夜空が広がる屋上。
「何てものを連れて来たんだ」
その頃、春花はレオンを睨みつけていた。
「あの…春花さんなぜそんな怖い顔で睨むのです?」
「………何でもない!」
「そうですか…あっ食事を持ってきました」
春花は用意された食事を終えるがほとんど残していた。
「もういいんですか」
「うん。元々そんなに食べてなかったから、おむすび一つと水でお腹いっぱいになるの」
「でも、おむすびと言っても食べやすい様に小さいおむすびですよ?」
レオンは何故か過剰に心配していた。
「ええ、でももう本当にお腹空いてないわ」
「ですが、人は沢山食べるはずです。光一郎様は丼でお米を食べてましたよ?」
またお爺様…
「私とお爺様は違うのよ。それに変に手をつけたら誰も食べられないじゃない」
「では、せめてあとお1つおむすびをお食べ下さい」
頑なに譲ろうとしない厳しい表情のレオンに折れ春花はおむすびを少しずつ食べたのだった。
「ふぅ…お腹いっぱい」
「あれだけでそんなこと言わないで下さい。残ったのは私が後で頂きますので」
食後の温かいお茶をすすりながら春花はハクから聞いた事をレオンに話した。
「私は、光一郎様が貿易とかで西洋に来た時に訳ありで売られていた人形だったんです…ああ懐かしいな」
思い出すレオンは幸せそうに話す。
「光一郎様と目が合った時、手に取ってくれた時、あの一瞬一瞬は忘れないです」
「あ、そう…」
「春花さん素っ気無いですね…あっでもその時にはハクとコクは既に光一郎様と一緒でした」
「ねぇ、そのコクコさんはハクの姉って聞いたんだけど」
「はい。コクは弱気なハクとは違い自信に満ち溢れ煌びやかな雰囲気を常に纏ってました。でも私の事なら話しますが、他の方の事はその方に聞いた方がいいですよ」
話しながら飲み終えた湯飲みを片づけレオンは「また明日、おやすみなさい」と言い部屋を出て行った。
その夜は久しぶりに母以外の夢を見た。
出てきたのは会ったことが無い、写真でしか見たことのないお爺様。でも何故かそのお爺様はピクリとも動かない。その横で黒い影が泣いている。私はそれをただ眺めることしかできなかった。
「あつい…」