人と妖怪
引き返そうかと思ったが春花は下へと足を動かす。手すりにつかまりながら踊り場まで着くとそっと下を覗くが誰もいない。妖怪を見ている春花は警戒していたが誰もいないことに安心しそのまま階段に座る。
本当はあのまま部屋にいても良かった…でも確かめたい自分がいる世界を。
息を吐き立ち上がり階段を降りる。だがそこには誰もいなかった。
「あれ…」
静まる館は春香の足音。その音はだんだん早くなる。ある部屋全て確認するが誰もいない。息を乱す春花はある事に気がつく。
「玄関がない」
春花がいるのは窓から見ても一階だ。だが外へと繋がる扉は何処にも無かった。
本当は全て夢…だったの?あの人もあの子供もあの看護師も…わからない…
静かな館には鼓動が響いているように脈打つ。心臓を抑えるがその腕には包帯があった。それは春花が傷をつけた腕。包帯が巻かれ見えない様になっていたがそれは確かにあったことの証明。
「落ち着け春花」
自分に言い聞かせ深呼吸を数回する。パンッと両手で頬叩く。ヨシっと気合いを入れ階段に向かうが春花では無い足音が階段を響かせながら降りてくる。
咄嗟に隠れようと後ろを見るがそれは一歩遅かった。
「あれ君は誰…ん?この匂いってもしかして…」
背中から聞こえてくる声と足音は春花に近づくが春花は全速力で逃げるように走る。
「待て!そっちは」
行き止まりまで来ると、振り返る春花が見たのは頭に耳があり見える限りでは尻尾のついた男が春花目掛けて歩いてくる。逃げ場所の無い春花は突き当たりの壁に寄りかかるがスッと壁がなくなり後ろへ倒れる。
「いったー…」
寝転ぶ春花は頭を押さえながら座るが、目の前には頭が浮遊していた。幸い頭は春花には気づいていなかった。息を殺しゆっくりとそのまま後ずさろうとするが何かに当たる視線をぶつかった手を見るがそこには傘が落ちていた。
傘…かぁ…
妖怪では無いと安堵していたのも束の間だった。
「ニオウ」
傘を再び見ると一つ目がギョロリと春香を見る。叫び出しそうになる声を抑える手で抑え耐えるが、傘は立ち上がりぴょんぴょん跳ねながら大きな声を出す。
「ヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒトヒト」
壊れたように何回も同じ事を繰り返すから傘小僧は飛び跳ねながら浮遊する頭の方へ行くがそれは他の妖怪を呼びに行っていた。複数の足音と喋り声が近づく。しかしそこには誰も居なかった。
「死にたいの?」
放心状態の春花は、かろうじて頭を左右に振るが、
助けられた時に引っ張られた手首はまだ掴まれたままだ。
「痛い!あ、あの離して…」
「やっとこっち見た」
春花の視線には動物の耳が頭に生え、瞳は吸い込まれそうなほど綺麗な金色。わざと強く握られた手首は離され掴まれた箇所は赤く、手と爪の跡が出来ていた。