試される思い
結局春花は藤光の部屋を訪ねる事なく早朝に春花、藤光、矢鷹、付き人二人で旅行へと旅立った。
部屋にある椅子に座り庭を眺めるレオンは、使用人と楽しく話をしているマオを見ているとノック音が響きなる。扉を開けると年配の男が立っていた。
「初めまして私は藤光坊っちゃんの世話係と仕事の補佐役をしています。清正と申します」
「私はレオンと申します」
レオンの名を聞くと清正はパァッと笑顔になりレオンにある紙を渡す。それは藤光からの手紙だった。
清正へ
清正おかえりなさい。僕の代わりに遠い所まで行ってくれてありがとう。そんな僕は春ちゃんと旅に出かけます。あっ矢鷹も一緒だから。 清正が持ち帰った至急の物はお客で来ているレオンと言う西洋の男が僕の代わりにしてくれます。わからない事あったら教えてあげてね。
「お客人でいらして迷惑とわかっているのですが…そういう事ですので、この資料をやって頂いてもいいですか…」
清正は申し訳ない気持ちもありながらレオンの部屋にある机へと大量の資料を置く。
その頃、春花達は列車に揺られ目的地へと向かっていた。春花はあまり着ない洋装だ。
「そういえば伯父様、お屋敷を空けてよろしかったんですか?」
仕事の用事でもなければ家を空けることが出来ないほど普段から忙しい藤光が、5日間の旅行を予定している事に不思議に思っていたのだ。
「大丈夫だよ。ちゃんと代理を用意したから、思いっきり楽しもう!」
レオンの気持ちも知らずに藤光は楽しそうにしていた。
あっという間に夜になるとレオンのもとへマオが尋ねるがレオンはずっと資料を見ては書き物をしたり判子を押したりしていた。
「わー……本当に文句言わずにやってるんだ…」
「当たり前です。やり方は一通り教わりました」
「いやいやいや、教えられるならその清正って人がやれば良いんじゃないの?」
「駄目みたいです。藤光さんが指名した人ならやってもいいみたいですが、そうじゃ無い人がやれば無断でやった事になるみたいです……それに、何もしないよりは何倍も良いです」
レオンはぼーっとしている暇が毎日無いため逆にありがたかった。
そんな事をしていると、日々は早々に過ぎていった。
春花達が帰ってくると、藤光は春花に部屋へいる様に命じ、藤光と矢鷹はレオンの部屋へと入り、レオンの前で確認を始めた。
「ふーん…すごいね。この量を5日間一人でこなしたとは……………うん完璧だ。矢鷹そっちはどう?」
「こちらも完璧に終わっています」
スーっと空気を吸い吐くと藤光は諦めの目をし言い放つ。
「ご苦労様。レオン…春ちゃんは自分の部屋にいるよ」
レオンは何か言おうとするが俯く藤光を見ると黙って一礼をし部屋を出て行った。
「良かったんですか?」
「…ああ……」
春花さん…春花さん……
長い廊下を走る度に強くなる呪いの糸はもう扉の向こうになっていた。
ノックをすると答える様に春花の声が近づき扉が開く。
レオンが待ち望んだ瞬間だった。
「……春花さん」
目を丸くし驚くが春花の目には涙が静かに溢れていた。
「…レオン…何で…」
「迎えに来ました。一緒に帰りましょう」
思う様に話せない春花は、涙を拭い何度も頷いた。




