ラナンキュラス
「すみません…」
レオンは立ち上がると春花に飾り花を渡す。
「あなたが蘭子さんの娘さんならこれを持っていてください」
「春花…私の名前は春の花って書いて春花。」
「春の花…まるでその花の様だ」
飾り花を見つめる春花は不思議そうにレオンに質問する。
「なぜ、この飾り花の薔薇の様なの?」
「その花は薔薇では無いです。その花はラナンキュラス…紫のラナンキュラスは幸福って言う意味があります。春花さんのお母さん…蘭子さんが幸福になるようにと言われ私が作りました」
お母さんが幸福になるように…
「先生!そろそろ他の方を診てください」
声がすると閉じられたカーテンを開ける。現れたのは看護師だが、春花の知っている看護師では無かった。肌はやけに青白く髪は真っ白。それに何故か彼女が近づくにつれ寒さが増していく。
「今行きます。あっ雪ちゃんそれ以上春花さんの近づかないで下さい」
看護師は「えー」と言いながらも春花に手を振る。
「春花さんって言うんですね…私は雪女です。訳あってここの看護師をしています!雪ちゃんと呼んで下さい」
布団をかぶり寒さでかじかむ唇は言葉を上手く発声することは出来ず、春花はわかるように何回も頷いた。
「ウフフ…可愛らしい。さっ先生行きますよ」
「春花さんまた来ます!あっあと昨日飲んだレモネードが効いたのなら歩く事が出来ると思います!試してみて下さい」
「先生!早く」
「ごめん雪ちゃん」
嵐が過ぎたように静まり返る部屋は何処か寂しい気持ちもしたが春花は布団から出ると足をベッドから出す。右足の裏に冷たい感覚を覚えると左足も床につける
カーテンを開け部屋を見回すと、ゆっくり歩き窓から外を見る。高さからすると二階だ。
一見、普通の風景に見えるが道を歩いているのは人とはかけ離れた形をしている者がいれば、ぴょこぴょこと歩く足が一本の者もいる。春花は目を擦るが何回見ても見間違えでは無い。
「本当に…」
どこか妖怪の世界に来た事を信じていなかった春花は、よろよろとしながらもベッドへと戻り布団を被る。すると部屋のドアが開く音が聞こえ足音は春花に近づく。
「春花さんそういえば…」
カーテンを開け言いかけたのはレオンだ。レオンはお盆を持ち、その上には湯気が立ち込める食事があった。それは春花に用意された温かいご飯に味噌汁、それと焼きたての魚。
「眠っていたのですね…これでは息がしにくいです」
布団を直すが先程起きていた春花は眠っていた。
「こうやってみると写真で見た蘭子さんにそっくりだ…やっと会えたと思ったけど…ちょっと遅かった…な」
少しの間レオンは春香の寝顔をみるが起きる気配は無い。
「また来ます」
レオンが出て行くと春花はゆっくりと目を開け天井を見つめる。
日は落ち窓の外にはゆらゆらと火の玉が踊っていた。
「いつの間にか寝てた…流石にもう寝れないわ」
欠伸をし伸びをする春花はベッドから出ると部屋のドアノブへと手を伸ばす。
「大丈夫よね…」
恐る恐るあけると春花の部屋は突き当たりで目の前には長い廊下が続いていた。ペタペタと裸足で歩き始める春花は少しの好奇心を頼りに廊下を進む。隣に部屋はあるが空き部屋になっていた。そんな部屋がずっと続くと、春花は来た廊下を振り返る。出た部屋が遠くに見える。春香の部屋とは反対の突き当たりが見える。すると下へと行く階段と上へ行く階段が現れた。