蟠り
不思議な感覚に胸を抑えるがそれ以降は何も起きなかった。
「いたいた!春ちゃん!」
嬉しそうに近く藤光を見るなり春花は眉間に皺を寄せ移動しようと立ち上がる。
「待って春ちゃん!今から街へ行かないか?」
「………」
「もちろんスイゲツも一緒に行くよ」
藤光の言葉に応えるように水の玉が現れた。
「なんで……」
「ねぇ?だから気分転換に行こう」
変わらず笑顔で話す藤光に春花は溜息をした。
「…わかりました」
車で送ってもらい運転手を置いて移動すると、春花が住んでいた場所よりも店が立ち並び目移りしてしまう。喫茶店に甘味や本、呉服屋と藤光に対して不機嫌だったのが嘘のように春花は舞い上がっていた。
「こんなに大きな街は初めてです!」
「それは良かった」
はっとするように春花は視線をそらす。
「はい…本家に来た時はいつも列車の時刻があるので寄ったりする事はありませんでした……なので伯父様…連れて来てくれてありがとうございます」
少し蟠りは無くなり春花は歩き始める。少し歩くとあるものが目に入る。それは藍色の蝶ネクタイだった。
陽が傾き始め桜井邸に帰り、夕食を食べ終えると藤光が廊下で春花に包みを渡す。
「これは…?」
「前に買ったけど、すっかり渡しそびれてしまったんだ。開けてみて」
丁寧に包みを開け綺麗な木箱の中は赤いリボン。
「可愛らしいおりぼん…こんな高価そうな物…戴いても良いんですか?
「良いんだよ。高価な物を身に付けると自分自身も高価にさせてくれる…それは生まれた場所にもよるが人間は皆同じ…お金を持ってるなら使ったほうがいいんだ。世のため人のため。だから僕は春ちゃんに使う…それだけだ」
「あ、ありがとうございます…あっ私そろそろお風呂に行きますね。伯父様また明日」
そそくさと春花は去り残された藤光は窓に映る自分を見ていた。
「ねぇ矢鷹…僕は焦らされるの慣れてないんだけど、この感情が心が躍っているってことなのかな?」
思う通りに何でも手に入って来た藤光は初めて姪っ子、春花と対面した時振りに気持ちが高ぶっていたが、矢鷹の発言で急降下する。
「さぁ?ですが、あの蝶ネクタイが藤光様への物とは限りません…わかりませんが」
「矢鷹ってたまに僕の心に傷つけるよね」
「どうですかね…ただ私は当主であるあなたにもう一つの結末を教えただけです…あと、不穏な予感もします」
窓から見える月は闇に隠れて見えなくなり、それは嫌な予感を確実なものへと変える。
「ああ…わかっているよ。明日は荒れる…かもね」




