水滴
夜が明け鳥たちの囀りを聞きながら、レオン達は館から立ち去ると駅舎へ向かっていた。
「お腹すいたなぁ…ねぇレオン」
「我慢してください。駅舎に着けば何かしらあります」
「えー」
そんな話をしながらも1時間かけて駅舎に着くと、弁当を買い列車に乗り込む。藤光とは違い三等客車のレオン達は、たくさん人々が物珍しい目で二人を見ていた。
それもそうだ、高身長で金髪の碧眼は誰が見ようと日本人には見えない。
「長旅になりますが…頑張ります」
「レオン…僕の髪は白髪じゃ無いからね…銀髪だからね」
「わかってます」
汽笛が鳴ると列車はゆっくり走り出した。
同時刻、桜井邸本家で春花は花に水をあげていた。
咲き誇る美しい花にキラキラと水滴が光る。
「綺麗……あっもう水が無いわ」
水差しの中は空になり再び水を汲みに行こうとすると、晴れているにもかかわらず雨が降り出し虹ができる。その不自然さに気づく春花の視界は少しぼやける。
「……ありがとう…スイゲツ…」
見えない春花は寂しさの中にも暖かさを感じていた。
その様子を上から見ている藤光の部屋に矢鷹が報告に来ていた。
「藤光様、今朝の朝食ではあのむ……春花さんは昨夜の晩御飯よりはお食べになりました」
私用を持ち込まない矢鷹は仕事をこなしながらも春花の事を見るよう言われていたが、それを命じた藤光は溜息を度々している。
「そう…それなら良かった……春ちゃんは何か言ってた?」
「特に何も言ってません」
「言ってないっか……せっかく一緒に食事してるんだから何か話しなさいよ…こっちは話したくても無視されるんだから!」
あの一件から藤光はことごとく春花に無視をされ落ち込んでいたのだ。
「………」
「何か言ってよ!」
「……気分転換に街に連れ出してはいかがですか」
思ってもいない矢鷹の提案に指を鳴らすが、すぐにどん底に落ちる。
「断られたら?」
「さぁ?…ですが、見える目を失い一緒にいた妖怪が見えなくなったのですからその妖怪も付いてくるよう言えば春花さんは来ると思います」
「そうか!少し卑怯な気もするがその手で行こう」
上機嫌になった藤光をおいて矢鷹は一礼し素早く部屋を出ようとするが肩をがっしり掴まれる。
「もちろん矢鷹も来るんだよ」
至近距離から数秒間見つめ合う二人だが、観念しそらしたのは矢鷹だった。
「………はい…」
「良し!春ちゃんの所へ行こう」
庭での水やりを終えた春花は外の椅子に座り花を見ていた。
「ねぇ…スイゲツ話をしよう。わかったら水を出してくれる?…」
突然現れる水の玉は春花の隣からふわっと現れ空中に浮く。
その時、ここに来て初めて春花は心から笑顔になり穏やかな声で話し始める。
「ふふ…スイゲツ、私はみんなが居る異界に帰りたい…」
ぷかーと浮かぶ水の玉がまた一つ増える。
「スイゲツはもちろん、そこにはハクもいるわ…置いていかない。でもそれが一番の問題なの…お祖父様に似ている伯父様がいる限り元には戻れないわ……ん?あれ?」
春花は突然胸の奥が温かくなる不思議な感覚がし不意にレオンの顔が浮かぶ。
「………レオン」




