覚悟と真実
「コレってニンゲン?かなぁ」
「なワケないだろ!こんなとこにイルはずない」
「ウーンじゃあスコシあじみしたらワカルかなぁ」
「たぶんナ」
ん…な…なに…?
眠る春花は話し声と物音で目を覚ますと、目の前には牙が飛び込んで来るが咄嗟に手で払い除けると牙の持ち主と一緒にサイドテーブルあったベルが派手に落ちる。
「イ…いたいよー」
ベッドから落ちた者とは反対側から現れたのは子供だった。
「てめ!ナニすんだ」
子供は鋭く尖った爪を振りかざし春花の顔目がけて振り下ろす。ぎゅっと目を瞑るが痛みはない。恐る恐る目を開けるとレオンが子供を抑えていた。
「全く、姿がないと思ったら……ここで何してた」
鬼の形相で二人の子供を睨みつけると子供は恐怖で動けず耐え切れず泣き始めてしまった。
鳴き声が部屋で響く中レオンはどうするかため息を出す。
「あ、あの私は大丈夫だから…許してあげて」
思いのほか声が普通に出た春花は驚くがそれよりもレオンが驚いていた。
「声…出ましたね!ああ良かった」
自分のことの様に喜ぶレオンはすっかり子供の事を忘れて抑えていた手を離すと子供は勢いよくカーテンの外へ行きバタンとドアが閉まる。
「たく…あの子供は虎の妖怪の兄弟で悪戯ばかりするんです。私がこの部屋から出てくるのを見ていたのでしょう。後でキツく注意しておきます」
「え…今…なんて?」
「私がこの部屋から…」
「違う…その前」
レオンは何を聞こうとしているか理解した。
「あの子供は虎の妖怪です。この世は妖怪の場所、貴方がいた所とは違う異界です」
にわかには信じ難い春花はレオンを見るがレオンはどう見ても人間にしか見えない。
「私はもう…人間がいる所には戻れないの?」
「戻れます。あなたが望むのなら…ですが」
私が望む?…あの場所を?きっと戻れば確実に次は殺されるわ…
春花は考えを巡らせるが、元いた場所では良い答えがでない。人間界に戻っても地獄。妖怪の世で生きる事は覚悟が必要だ。それならと春花の中では答えは一つしかもう無かった。
「私はここで何すればいいの?」
「特にはありませんが、この館では怪我や病気になった妖怪を診たり、旅疲れやただ風呂に入りに来る妖怪もいます。まぁそういった館です。その中でしたい事をしてください蘭子さん」
見つめるレオンの瞳は吸い込まれそうになるが春花は訂正する。
「ずっと気になっていたけど…私は蘭子じゃない」
一瞬にして固まるレオンはピクリともしないが、ふと思い出しポケットからあるものを出す。それは壊れてしまった花飾りの花だった。
「これ!あなたが蘭子さんじゃなかったら何故これを持っていたのですか?」
少し取り乱した様にレオンは春花に花飾りを見せた。
「それは…私の母の形見です」
「か…たみ…では蘭子さんは…」
「母は…数年前に持病で……亡くなりました」
膝から崩れ落ちるレオンは静かに涙を流していた。
春花は母を思って泣いてくれるレオンをただ見つめていた。




